Articles

2026.7.9Masahiro Taima

AI×建築コンペの審査員を務めた&自分の案も考えてみた

はじめに

このたび、AIを活用した建築のコンペであるU25 AI×3D PERSPECTIVE AWARD 2026(主催:不動産総合研究所)の審査員を僭越ながら務めさせていただきました。

経緯としては、ある日、Messengerで慶應義塾大学在学中の村山大さんからDMをいただいたことがきっかけでした。村山さんは将来的に起業をしたいと思っているが、いまは起業のトレーニングとして、建築コンペを主催したいということで、何も取っ掛かりがなく新しいチャレンジをしようとしていることや、私も慶應に在籍していたことがあるという共通性で、できる限り協力できればと思いながら、引き受けさせていただきました。

コンペの結果は、参加者のキャリアにそれなりのインパクトがあり、責任もって取り組む必要があるため、コンペ開始前までにテーマを踏まえて、どのような観点で審査をするべきなのかなど、事前に少し準備をして臨みました(下記、前提部分)。

前提

私が今回どのような視点で提案を読んだのか、その前提を共有します。

テーマ

コンペウェブサイトでは以下のような条件が記載されておりました。

AIが仕事を変える時代、オフィスはなんのためにあるのか。AIと3Dパースで描く、まだ誰も見たことのない空間。これからのオフィスのあり方と、その価値の伝え方を、次の世代が更新する。あなたが描く「働きたいオフィス」を、見せてください。

THEME:「オフィス」— 常識を超えた、働きたいを。AIと描き出す、次世代ワークプレイス

評価のポイント

テーマを踏まえると、以下の観点が私としては重要だと思いました。

  • 世界や業界の指針となる提案であること:コンペは、いま実現できる解の優劣を競う場である以上に、業界の指針となるビジョンを示す場だと考えています。数年後・数十年後を見据えた提案であってほしい。歴史的にも、コンペや展示会の提案は、たとえ実現しなくとも業界に大きなインパクトを与えてきました。すぐに実現できる堅実な案よりも、コンペだからこそチャレンジできるような、かつ未来(5年−10年先など)でも通用するような案を高く評価しました(無責任さ・大胆さ)。

  • オフィスの未来を見据えていること:AIによって業務の効率化・自動化が急速に進むなかで、オフィスに求められる価値は変わります。定型業務が減る一方で、人はよりクリエイティブな仕事へ注力し、また物理的に触れ合い・偶発的に出会うことの価値が相対的に高まる。そうした未来を見据えた空間像を期待しました。

  • AIと人の関わり方が適切であること:AIを単なる道具として描くのではなく、デジタルツインのように人と並走したり、AIエージェントが人の業務を引き受けていく——そうした関係性の解像度を見ました。人の役割は定型業務から判断へと移っていく、という前提に立った提案を望ましいと考えました。

審査観点:一般的な観点と、私の観点

上記を踏まえ、次の6観点を5段階で各案を評価しました。前半A群がコンペの一般的な観点、後半B群が私個人の観点です。

A:コンペの一般的な観点
A1:テーマへの応答
A2:提案内のAIの活用性
A3:表現・プレゼンテーション

B:私の観点
B1:世界・業界の指針性(時間軸)
B2:無責任さ・大胆さ(アイデアの軸・新規性)
B3:AIと人の関わり方の適切さ

各参加者の提案と評価

以下、発表順で講評を記載します。

1: 働的平衡(ペルソナ予測オフィス)

提案の概要:「働きやすさは個人で異なるのに、オフィス空間は均質なまま」——設計者が利用者を大まかに想定するためニーズとのズレが生じる、という課題から出発する。そこでAIによるペルソナ予測を設計に導入し、多様な人物像から初期ゾーニングを行う。さらに利用開始後も、集まる人々と可動式家具に応じて空間が柔軟に変化し続ける。Static(静的)からActive(動的)へ——予測駆動で毎日変わる、地域密着型のオフィスを提案する。

良かったこと:動的なオフィス(徐々に個別最適されていく)という発想(MITのOri Livingと類似)。全てのサービスは、全員平等なサービスから個別最適のサービスに進んでいくため(Adaptive Educationなど)、このようなアプローチは適切だと感じられる。

改善できそうなこと:オフィス空間の動的な変化は可動家具だけで十分なのだろうか。他の空間を構成する要素も動的であるとより良いと感じられる。このようにボトムアップだけでは、会社の組織として必ずしも適切な状態になるとは考えられないため、トップダウンに社員同士の関わり方をデザインする視点もあるといい。人の思考や、組織構成も動的に変化する中で、どのようにオフィス空間にそのような情報をフィードバックしながら、オフィスの改善を続けていくのか、説明の中ではわからなかった。

2: Be a Next-gen Nomad

提案の概要:「組織も人も、もっと自由になる」。AI時代には人間の社員数を絞ったコンパクトな組織が主流になると読み、数カ月契約でオフィスを渡り歩く"超ノマド"な働き方を前提とする。過去のオフィスをAIで分析し、「開放的×情緒的」という設計の空白地帯を突く。壁を持たず、床は地形のように起伏し、森・川・岩・水が五感に働きかけるリゾートのような空間へ。AIを「人間のバイアスを排したコンセプト策定の起点」に据え、誰も見たことのない空間を試みる。

良かったこと:今後、組織は小規模になるという予測に基づいた提案であること。現実的なワークフローによって実現性が高いこと。

改善できそうなこと:今でもノマド向けのコワーキングスペースがあり、新規性がどこにあるのかわからなかった。設計の業務フローが変わらず(アイデア創出、調査、パース作成など各フローごとに人がAIを使う形)、各フローで常に人の確認が必要であり、デザイナーの働き方が大きく変化していないこと。

3: Stranding

提案の概要:「創造性は整理された環境からではなく、異質なもの同士が予期せず出会い、衝突する瞬間にこそ宿る」。生成AIが潜在空間で実現する「混在併存」を、そのまま建築空間として実装する実験。働く人は空間を漂流するように回遊し、本物の素材・異なる時間軸・スケール・環境条件の重なりに身体的に遭遇する。オフィスはもはや生産のための装置ではなく、「創造性を誘発する生態系」。混在併存・偶発性・ランドスケープをキーワードに、「アイディアの種を見つける。発見のオフィス」を掲げる。

良かったこと:偶然の出会いによってクリエイティビティが発揮されることを重視したことは、将来的な人の役割を捉えていた。うまくいかなかったと話していたが、AIと設計ソフトをMCP経由で連携して、設計プロセスをショートカットするチャレンジをしたことは、今後のAI活用のアプローチとして適切だと感じられた。AIの活用プロセスとアウトプットのデザインのバランスが良いと感じられた。

改善できそうなこと:ここで働くと、これまでのオフィスと違ってどのようにデザイナーがクリエイティブになるのか、もう少し説明がほしい。AIによって設計プロセスが削減されるのは分かるが、同時にどのようにデザイナーのクリエイティブが喚起されるのか、そのロジックがあると、なお良かった(時間短縮がクリエイティビティ向上にどう貢献するのか)。

4: 編環社「知の地殻」

提案の概要:「編集」と「循環」を理念とする次世代出版社・編環社のためのオフィス。本づくりは一人の発想から生まれず、対話で生まれた種が思考に広がり再び共有されて一冊へ編集される——その知識の循環と蓄積を建築として表現する。中央の本棚に囲まれたミーティングスペースを知識のコアとし、積み重なる書籍を「知の地層」と呼ぶ。木→紙→本という素材の系譜を空間に翻訳し、「知識は個人の所有物ではなく、対話と編集によって育まれる共有の資源」と謳う。

良かったこと:人のクリエイティビティに着目し、それを促進するための空間を目指していることは将来の人の役割を捉えていたこと。個人だけでなくチームのコミュニケーションとクリエイティブの促進のための空間を考えていたこと。紙と触れあう空間をつくり、人でないと触れられない価値を創出していること。

改善できそうなこと:AIの活用方法に斬新さがなかったこと。出版社個別のアイデアと、一般性の高い業界横断的なアイデアの切り分けが明確であれば、業界にとってさらに示唆を与えるものになったと感じられる。

5: Vibe Office Design(井戸端のオフィス)

提案の概要:「コードを『書く』時代から、AIと対話して立ち上げる時代へ。設計もまた、同じ地平にある」——感覚のまま設計する"Vibe"を掲げる。フロアの中心に置くのは社長室でも大会議室でもなく、円形の給水・珈琲カウンター=「井戸端」。半径3mは机を置かない立ち話の空白とし、すれ違いざまの一言を誘う。「雑談は仕事の余白ではない。偶発の対話こそ価値の源泉」——ここでは雑談こそが仕事になる、と言い切る一案。

良かったこと:Vibe codingになぞらえたコンセプトが良く、デザインプロセスの将来性を捉えていたと感じられる。最も適切に人とAIの関係性を踏まえたデザインプロセスを設計し、それを実行したこと。

改善できそうなこと:オフィスのあり方に関する将来性が、どこにあるのか、あまり見えなかった。ボトムアップの意見集約と空間への落とし込みだけでなく、トップダウンのオフィスのビジョンを空間に反映させることが、より良い空間の創出につながると考えられる(例えば、幼稚園程度の子どもの意見をボトムアップに集約して良い空間になるとは限らない)。プロセスは新規性があったが、アウトプットの空間として、美しさや新規性を感じられなかったこと。

6: Ducting Office

提案の概要:局所空調・湿度制御・空気質センシングを開発する快適性テック企業の「公開型R&Dオフィス」。通常は天井裏に隠されるダクト・配管・センサーを露出させ、床や人の高さまで引き下ろすことで、空調を「見えない設備」から「体験できる環境インフラ」へと転換する。均一に与えられる快適性ではなく、「人が感じ、選び、更新できる快適性」を空間化。オフィス・ショールーム・リビングラボが重なり、働く場そのものを環境制御の実験場へと変える。

良かったこと:R&Dといったクリエイティブな職種のための空間に着目しており、今後のR&D業務の重要性を示唆していたこと。人が実物と触れ合える機会をつくっており、オフィスに行かないと体験できない機会を創出していること。

改善できそうなこと:今回、AIを活用したことで、暮らす人や設計する人に対して、どのようなインパクトがあったのか、よくわからなかった(AIを活用せずとも提案可能な内容に感じられた)。この空間が、クリエイティブな職種にどのようにポジティブな影響を与えるのか、もう少しわかりやすい表現や説明がほしかった。

7:「思考」と「感覚」を交換するオフィス

提案の概要:「AIが情報処理を担う時代、オフィスの価値は『情報共有』から、対面でしか成立しにくい『思考の交換』と、人間にしかできない『感覚の交換』へ移行する」と捉えた案。プロダクト系企業(アパレル・カーテン・クッション)のための高架下オフィスを舞台に、工房を中心へ据え、内と外を緩やかにつなぎ活動を街へ滲み出させる。AIに情報処理を委ねた先で、「対面だからこそ生まれる価値」を空間化しようとする提案である。

良かったこと:人が空間と「触れ合うことができる」というコンセプトは、人でないとできないことに着目しており、良いと感じられた。AIと人の関わり方を検討し、提示していたこと。模型や動画を含め、様々なプレゼン手法を用意し、メッセージを明確・詳細に伝えていたこと。

改善できそうなこと:AI活用方法が一般的だったこと(環境シミュレーションなど従来のシミュレーションソフトでも可能な使い方に留まっていたこと)。AIの捉え方が、やや古いように感じられ、デザインのワークフローの新規性が感じられなかった(人ができる限界を前提に提案を検討していたので、もっと自由な発想があっても良かった)。

審査結果

私の評価

先述したように、私は6つの観点で評価をしました。結果は以下の通りです。

1位:Stranding(23点)
A1:テーマへの応答→4/A2:提案内のAIの活用性→4/A3:表現・プレゼンテーション→4
B1:世界・業界の指針性(時間軸)→4/B2:無責任さ・大胆さ→3/B3:AIと人の関わり方の適切さ→4

2位:編環社「知の地殻」(20点)
A1:テーマへの応答→4/A2:提案内のAIの活用性→3/A3:表現・プレゼンテーション→4
B1:世界・業界の指針性(時間軸)→3/B2:無責任さ・大胆さ→3/B3:AIと人の関わり方の適切さ→3

3位:Vibe Office(井戸端)(20点) ※2位と同率だが、建築コンペとしては美しさで優れた編環社「知の地殻」を2位とした
A1:テーマへの応答→2/A2:提案内のAIの活用性→4/A3:表現・プレゼンテーション→5
B1:世界・業界の指針性(時間軸)→4/B2:無責任さ・大胆さ→3/B3:AIと人の関わり方の適切さ→4

審査員全員による最終評価

1位:「思考」と「感覚」を交換するオフィス
2位:編環社「知の地殻」
3位:Stranding

他の審査員の方々は、実務に携わる経験が長く、建築の第一線でやられてきておりました。AI開発ばかり取り組んでおり、設計の実務からは遠くなってしまっている私とは観点が異なる部分が多くあったと思います。それぞれの審査員も熱心に講評しており、様々な方のご意見が伺えて良かったです。

私の案

上記のように審査の講評だけだとあまりに偉そうなので、一応、このテーマでの私の案も記載しておきたいと思います。

案1:地表の回帰

コンセプト:地表は自然に還し、AIインフラとデータは地中へ。人は地中の判断の岩盤空間へ降り、地上は森になる。地中の緊張・厳格なセキュリティ空間との対比として、地上は人のクリエイティブやチームとのコミュニケーションを最大化する空間となる。

背景:AIの発達とともに、データセンターの供給が必要となり、配置が大きな課題となる。データセンターが地上に立地すると敷地は不足し、また、データセンターが郊外に立地すると、電力の供給が非効率となる。そこでデータセンターの分散や、都市部での地下化が構想されている。これは、都市全体の省エネ装置になる。サーバーは30〜45℃の低温廃熱を出し続けるため、地域熱供給として活用することができ、また冷却についても地下の低い温度が自然冷却を助けることになる。

また、人の役割が、重大で機密性の高い判断を求められるようになっていくと予想される。地下空間は、あらゆる通信から断絶され、ネットワークに晒せない決定を下す場所になる。AIインフラのすぐ隣で判断することで、人間が実機を物理的に確認し、最終権限(停止・隔離)を握れることで、自律化し、攻撃可能性を否めないAIに対する人間側の最後の砦になる。地上の森で回復し、本当に重要な判断の時だけ静かな地下へ潜る。邪魔されない深い集中と、ネットから切れた安心・主権が、現代の知識労働者が必要とする場所を実現する。

案2:生物の建物

コンセプト:オフィスそのものがAIへの"環境プロンプト"となる。社員の行動やオフィスとの対話が常に入力となり、オフィス空間は生成的に状況に合わせて描き変わる。設計図は固定されず、日々の使われ方をAIが読み、最適な状況に合わせて空間を再生成する。いわば、人の手を借りずに、建物自身がメタボリズム、新陳代謝をしていく、生物のような存在となる。

背景:AIとの対話はチャットにとどまらず、今後は物理空間との連動していくことが予想される(Physical AIなど)。オフィス自身がマイクやスピーカーを通じて、居住者と対話できるようになる(AIオフィスコンシェルジュ)。また、様々なセンサーを通じて、人々の動きやニーズを抽出し、常に最適な空間にオフィス自身が思考し、更新し続ける(可変のルーバーや、インテリアのパーテーション、空調・ライトなど)。必要であれば、建物のAIエージェント自身が施工会社に働きかけ、設備の修繕や、増築・改築も自身で判断して実行できるようになる。

このような感じで2案を検討してみましたが、30分程度の検討時間のため、後で自分で振り返ると詰めが甘い部分を見つけてしまうような気がします。

まとめ

AIをどのように若手デザイナーが活用しているのか知るきっかけとなり、よかったです。また、私以外の審査員の方々がどのように感じられたのか、様々なご意見を伺えてよかったです。

私もみなさんと一緒に、どのようにAIが建築や都市を変えていくのか、考えていければと思います。

今回は、村山さん、不動産総合研究所をはじめ、皆様にこのような機会をいただき、ありがとうございました。