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2026.7.19

シンガポールの「垂直の村」:Kampung Admiralty

シンガポール北部にある、Kampung Admiraltyに行ってきました。ここは、2017年に完成した、シンガポール初の高齢者向け統合コミュニティで、公共住宅・医療センター・ホーカーセンター(屋台街)・保育園・屋上庭園をわずか0.9ヘクタールの敷地に1棟で積層した複合施設です。World Architecture Festivalで最高賞にあたる”World Building of the Year 2018”を受賞したほか、シンガポール大統領デザイン賞(2020年)、ユニバーサルデザイン・マーク・プラチナ賞など、国際的に極めて高い評価を受けています。(WOHA, 2026; ArchDaily, 2018)

こちらはその時の動画です。

Kampung Admiralty:段状の緑化屋根が積み重なる「垂直の村」の全景。(ArchDaily, 2018; WOHA, 2026)

建築デザイナー

設計は、WOHA Architectsが担当しており、シンガポールを拠点とする建築事務所です。Wong Mun SummとRichard Hassellが1994年に設立した、シンガポールを代表する著名な事務所です。この事務所は、高密度な熱帯都市における「緑と建築の融合」を得意としており、巨大な緑のテラスを積層したホテルPan Pacific Orchard(CTBUH世界最優秀高層建築2024)や、シンガポール初のスマート地区Punggol Digital Districtのマスタープランなどで知られています。

PARKROYAL Collection Pickering(2013年): WOHAの名を世界に知らしめたホテル。隣接するホンリム公園と棚田の地形に着想を得て、敷地面積の約2倍にあたる15,000㎡の緑化を実現している。大統領デザイン賞2013受賞。(WOHA, 2026)

Pan Pacific Orchard(2023年): オーチャード通りに建つ23階建て・350室のホテルで、「森」「ビーチ」「庭園」「雲」というテーマの異なる4つの巨大な空中テラスを積み重ね、地面の体験を垂直に複製した点が革新的です。この構成が熱帯高層建築の新しいプロトタイプとして評価され、CTBUH「2024年世界最優秀高層建築」を受賞しました。(WOHA, 2026)

自然や地理

シンガポールは熱帯雨林気候に属し、年間を通じた高温多湿と強い日差し、そして激しいスコールが最大の特徴です。

そこで、低層部の吹き抜け広場(コミュニティ・プラザ)は壁のないオープンな空間とし、風が抜けることで空調に頼らず快適に過ごせるようにしています。また、雨天でも活動が途切れないよう、広場全体が上層の建物に覆われた「屋根のある屋外」となっています。

緑化面積は敷地面積の110%に達しており、地上の植栽・屋上緑化・壁面緑化を重ねることで、開発前より緑を増やすという逆転の発想が実現されています。

周辺の中層公共住宅地の中に建知、駅前のコンパクトな敷地に多機能を積層しています。

WOHA, 2018

緑化率110%を実現する段状の屋上緑化。(WOHA, n.d.)

ArchDaily, 2018

歴史や文化

Kampungとはマレー語で「村」を意味します。かつてのシンガポールでは、高床式の家々が集まるカンポンで、住民同士が助け合いながら暮らしていました。しかし1960年代以降の高層公共住宅(HDB)への移行で、こうした濃密なご近所付き合いは失われていきました。

この建物は、急速な高齢化に直面するシンガポールで、「かつてのカンポンの支え合いを、垂直方向に再現する」というコンセプトから生まれました。高齢者を施設に隔離するのではなく、街の真ん中で多世代と混ざり合いながら歳を重ねる「Aging in Place」の建築的回答となっています。

BiblioAsia, 2014

機能

この建物は住宅、医療、商業、コミュニティ機能が混ざり合った複合施設となっています。高さ制限45mという条件のもと、この複雑な用途を満たすために、性格の異なる機能の層を、サンドイッチの具のように交互に積み重ねる構成(WOHAはクラブサンドイッチと名付けた)による垂直方向のゾーニングをしています。

ArchDaily, 2018

下層部(1〜2階)は、誰でも入れるパブリックな空間です。1階の吹き抜け広場では太極拳や地域イベントが開かれ、2階には900席のホーカーセンターがあり、広場を見下ろしながら食事ができます。かつてのカンポンの集会場のように、住民が集まりイベントや体操が行われます。

ホーカーセンターとは、シンガポール各地にある屋台の集合施設で、多数の個人店が一つ屋根の下で麺類やチキンライスなどの料理を安価(一食S$4〜6程度)に提供します。様々な民族が移住者が出店していた路上屋台を衛生管理のため政府が集約したもので、現在は国民の日常的な食堂として機能し、その文化は2020年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。

WOHA, 2018

中層部(3〜4階)は、医療ゾーンです。3〜4階には「Admiralty Medical Centre(AdMC)」が入居しており、入院ベッドを持たない「アンビュラトリーケア(日帰り医療)」施設で、専門外来・診断検査・日帰り手術を提供し、患者は宿泊せずに専門医療を受けられます。医療センターの階もファサードが緑化されており、待合空間から緑を望める「癒しの環境」として設計されています。

WOHA, 2018

CSC Knowledge, 2019

上層部(6階以上)は、高齢者単身・夫婦向けの104戸の住宅(11階建て2棟)と、「コミュニティ・パーク」と呼ばれる空中庭園です。庭園には菜園があり、住民が野菜を育て、収穫物を分け合うことで自然に交流が生まれます。さらに保育園が隣接して配置されており、高齢者と子どもが日常的に顔を合わせる多世代交流が意図されています。

WOHA, 2018

WOHA, 2018

ArchDaily, 2018

おわりに

シンガポールの自然、多民族の歴史、都市の課題に対して、コンパクトに解答を実現した建築でした。

参考文献