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2026.8.10Masahiro Taima

中国を代表するスタートアップの起業家たちによる成長戦略の整理とシリコンバレーとの違い

小米創業思考

はじめに

瀋陽で雪だるま
瀋陽で雪だるま

両親の仕事もあり、ぼくは小さいころに中国(大連市および瀋陽市・旧満州)で過ごしていたのですが、2000年の8歳前後だったぼくの当時の中国の印象としては、日本と比較したら文化や技術など色々な面でずっと遅れているな、というものでした。街を歩くとゴミの匂いがするし、大雨が降ったら道路は水で溢れ、坂道では常にウォータースライダーのようでした。ただ、人々の熱気はすごくあったことを覚えています。そして、外国人のぼくに対して、多くの大人や子どもたちは、めずらしがりながらも、とても親切にしていただきました(地域的には怒鳴るような話し方をするので最初は怖かったですが)。

大学生になった時に、2015年ごろ、元々住んでいたところに遊びに行った時、子供からお年寄りまでスマートフォン決済しているところを見て衝撃で、いつ、どのようにお金を払ったのか、わかりませんでした。ぼくは当時スマートフォンを持っていなかったので。

博士号を取得してからしばらくして、2022年ごろに北京大学深圳キャンパスで研究員として滞在していたころには、スマートフォン決済はもちろんですが、ありとあらゆるものが世界最先端で感動しました。その前年にサンフランシスコ・シリコンバレーに訪問しましたが、深圳の方が街並みも技術も進んでおり、人々の文化も振る舞いも、小さい頃の印象と比較してずっと洗練されていると感じました。

2000年から2020年までGDPは世界平均が2.5倍成長のところ、中国は10倍成長しています。中国の平均年収も同じく10倍成長しています。WTO(世界貿易機関)加盟もあり、世界の工場として著しく成長しました。

XiomiやBYDをはじめ、世界的にも高品質でありつつ、低価格のサービスは多くあり、そのような企業は創業から数年から10年程度で世界でも有数規模の企業となっており、急成長を実現するプロセスは、以前に整理したシリコンバレーのスタートアップのアプローチと共通する部分もあれば異なる点もあると思い、多くの方にとって参考になることも多いのではないかと思います。

ここでは、中国を代表する企業である小米(Xiaomi)、京東(JD.com)、百度(Baidu)といった、中国の起業家が自ら書いた9冊を対象に、企業のステージごと(創業前からIPOまでの各ステージ)に内容を整理しています。

対象の書籍

  • 「参与感:小米口碑营销内部手册」黎万强(小米/Xiaomi 共同創業者)、2014年。ユーザー参加型の商品開発と口コミマーケティング、ファンコミュニティ「米粉」の育成方法。小米(Xiaomi)は2010年創業のスマートフォン・IoT機器大手で、スマートフォン出荷台数は世界3位前後(シェア約14%)、2024年売上約3,659億元(約7.6兆円)、2019年から Fortune Global 500 入りし(当時最年少)、2024年にはEV「SU7」にも参入した中国ハードウェア産業の代表企業。

  • 「心若菩提」曹德旺(福耀玻璃/Fuyao Glass 創業者)、2015年。極貧の少年時代から世界的な自動車ガラス企業を築くまでの自伝。誠実経営・海外進出・慈善。福耀玻璃(Fuyao Glass)は自動車ガラスで世界最大手(世界シェア3割超)、トヨタ・VW・GMなど世界の主要自動車メーカーのほぼ全てに供給し、米オハイオ工場はドキュメンタリー映画『アメリカン・ファクトリー』(2019年アカデミー賞)の舞台にもなった中国製造業の象徴的企業。

  • 「小米创业思考」雷军 口述・徐洁云 整理(小米/Xiaomi 創業者)、2022年。「専注・極致・口碑・快(集中・徹底・口コミ・スピード)」、高効率モデル、単品集中のヒット商品戦略、エコシステム戦略の体系化。(小米の企業規模は上記「参与感」の項を参照。本書は創業者本人による10年の総括にあたる。)

  • 「史玉柱自述:我的营销心得」史玉柱 口述・优米网 編(巨人集団/Giant Group 創業者)、2013年。巨大な事業失敗と負債からの再起、消費者心理と広告・チャネルの実践論。巨人集団(Giant Group)は1990年代に中国民営企業の頂点から倒産寸前まで転落した後、健康食品「脑白金」で中国保健品市場の単品売上首位を長年独走し、オンラインゲーム会社・巨人網絡は2007年にNY証取上場(当時、米国上場の中国民営企業として最大級のIPO)を果たした「失敗と再起」の代名詞的企業。

  • 「野蛮生长」冯仑(万通集団/Vantone 共同創業者)、2007年。制度未整備の改革開放期に民間企業がどう生き延び、どう現代企業へ進化したか。万通(Vantone)は1991年創業の不動産デベロッパーで、規模こそ大手に及ばないものの、1992年前後に役人や研究者が官を辞して起業した「92派」企業の代表格であり、創業6人組「万通六君子」からSOHO中国の潘石屹ら中国不動産業界を担う経営者を多数輩出した、中国民営企業史を語る上で欠かせない存在。

  • 「大道当然:我与万科(2000–2013)」王石(万科/Vanke 創業者)、2014年。専門経営者への権限移譲、企業倫理、創業者と会社の分離。万科(Vanke)は1984年創業の中国最大手デベロッパーで、2010年に業界初の販売額1,000億元を突破、ピーク時には販売額7,000億元超と「世界最大の住宅開発企業」と呼ばれ、Fortune Global 500 の常連でもある中国住宅産業の盟主。

  • 「周鸿祎自述:我的互联网方法论」周鸿祎(3721・奇虎360/Qihoo 360 創業者)、2014年。無料モデルによる市場破壊、小さな改善を高速で積み重ねる「微創新」、ユーザーファースト。奇虎360(Qihoo 360)は無料セキュリティソフトで中国PCユーザーの大半(自称ユーザー5億超)を押さえた中国最大のセキュリティ企業で、2011年にNY証取上場、2018年に私有化してA株(上海)へ回帰した、フリーミアムモデルの中国における体現者。

  • 「刘强东自述:我的经营模式」刘强东(京東集団/JD.com 創業者)、2016年。自社物流への大規模投資、正規品へのこだわり、低コスト高効率経営。京東(JD.com)はアリババと並ぶ中国EC2強の一角で、2024年売上約1.16兆元(約24兆円)は中国民営企業でも最大級、Fortune Global 500 上位常連、数十万人の配送員を直接雇用する自社物流網を持つ「中国のAmazon」と呼ばれる企業。

  • 「智能革命」李彦宏ほか(百度/Baidu 創業者。陆奇らを含む共著)、2017年。AIを第四次産業革命と位置づけ、大企業のAI転換を論じる。百度(Baidu)は中国検索市場の6〜7割を握る最大手で、BAT(百度・アリババ・テンセント)と称された中国ネット御三家の一角。検索からAIへの転換を進め、自動運転「Apollo」や大規模言語モデル「文心一言(ERNIE Bot)」など中国AI産業を代表する企業。

スタートアップの創業前

ファイナンス

  • 「使い切れない資金」がないなら、創業のタイミングではない: 雷军(Xiaomi)は金山時代(Kingsoft。WPS Officeで知られる中国の老舗ソフトウェア会社で雷军が小米創業前にCEOを務めた)、海賊版環境で稼げず「WPSの利益で次の製品を作る」自転車操業を強いられ、一つの事業に腰を据えて深く取り組む決断ができなかったと振り返ります。小米では創業成功の3条件を「大きな市場・最優秀のチーム・使い切れない資金」と定義し、初期に十分な資金を確保しました。(黎万强/Xiaomi, 2014)(雷军/Xiaomi, 2022)

  • カネがなくても信用は調達できる: 史玉柱(Giant Group)は手元4000元で新聞社に「広告を先に載せ、1ヶ月後に払う」と直談判し、PCも後払いで借りて創業しました。初日の売上で支払いを回し、2ヶ月で100万元超の利益を出しています。元手の不足は、信用の設計次第で補えます。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 借金を元手にした創業は「暴利を稼がねばならない圧力」を生む: 冯仑(Vantone)は、中国の民営企業が年利20〜25%超の高利貸から始まらざるを得なかったことが、高負債・高リスクの賭博体質という「原罪」を生んだと分析します。どんな資本で始めるかは、後の企業の性格を決めます。(冯仑/Vantone, 2007)

  • 価格が価値から大きく乖離した「うまい話」を疑う: 曹德旺(Fuyao Glass)が生涯守った父の教えは「安すぎるものを貪るな。価格が価値を著しく下回るとき、そこには必ず問題がある」でした(工場造成時、相場3元/立方メートルの土砂運搬を0.8元で即決した業者をこの言葉で疑い、紹介者の鎮長に持ち株を担保に工事を保証させた。案の定、業者の実際の原価は2.6元で、「捨て値で契約を取り、後から贈り物と人脈で契約を書き換える」手口だった)。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

組織

  • 前職・修行先の失敗を言語化してから創業する: 雷军(Xiaomi)は、3年かけた大作ソフト「盤古」が売れず自ら店頭に立った経験から「研究開発が一流でも、製品とユーザーを理解していなかった」という教訓を得て、これが小米の方法論の原点になりました。学生時代の「何でもやる会社」三色公司の崩壊(パソコン組み立て、受託開発、部品転売から印刷まで何でも引き受けた末に行き詰まり、食堂の調理長とトランプをして食券を稼ぐ困窮を経て解散)からは「集中なき創業は必ず敗れる」ことを学んでいます。(雷军/Xiaomi, 2022)

  • 反面教師も一級の教材である: 冯仑(Vantone)ら万通の創業メンバー6人のうち4人は、伝説的な(そして後に破綻する)企業家・牟其中の南德集団の出身です。その経営者の無道徳ぶりを反面教材に「企業家には道徳の力が必要だ」と学び、他方で「商業信用は『実際いくら持っているか』ではなく『人からいくら持っていると思われるか』だ」という信用の本質はそのまま学び取りました。(冯仑/Vantone, 2007)

  • 顧客の罵声が製品観を作る: 周鸿祎(Qihoo 360)は大学院時代に開発したウイルス対策カードの不具合対応に奔走し、「技術者の自負は顧客には無意味で、顧客は問題解決だけを求める」ことを体で学びました。創業前に「ユーザーから直接叩かれる」経験を持つことが、後のユーザー至上主義の土台になっています。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

サービス

  • 趨勢(トレンド)には誰も勝てない。大勢に従って動く: 「企業はどんな強敵とも戦えるが、唯一勝てない相手が趨勢だ」(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)。雷军(Xiaomi)も1998年に網易を1000万元で買収し損ね、2ヶ月後に評価額が数十倍になった苦い経験から「風口(台風の口)を見極め、豚のように姿勢を低くして準備する」という「順勢而為(大勢に従って動く)」の思想に至りました。参入する市場の選択は、努力より先に勝敗を決めます。(雷军/Xiaomi, 2022)

  • 原点は換位思考(相手の立場に立つこと): 曹德旺(Fuyao Glass)はダム工事現場の炊事員時代、労働者の三大不満を観察して解消し「他の炊事員より多くやったのは換位思考だけだ」と振り返ります。顧客視点は、事業を始める前から鍛えられます。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

  • 時代の大きな制度変化そのものが機会である: 史玉柱(Giant Group)は「民間という『泥の茶碗』のほうが、役所という『鉄の茶碗』より安全だ」という講演(四通集団総裁・万潤南が深圳大学で行った講演のタイトル。鉄の茶碗は割れないが食い扶持を組織に預けた状態であり、泥の茶碗は割れても自分の腕で作り直せる——安全の源泉を組織ではなく市場で通用する能力に置け、という趣旨)に触発され、統計局の職を捨てて起業しました。制度の転換点では、キャリアの安全性の定義自体が逆転します。(史玉柱/Giant Group, 2013)

シード(創業からPMF)

ファイナンス

  • 収入モデルの検討は最後でよい。ただしユーザー価値の検証は最初にやる: 周鸿祎(Qihoo 360)は「創業者が最初に収入モデルを語るのは最も無意味だ。Googleですら検索連動広告に出会うまで収益化できなかった」とし、ビジネスモデルを「製品・ユーザー・普及・収入」という4つのモデルの組み合わせとして捉え直します。先に積むべきはユーザー価値です。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

  • マーケティング費ゼロを制約として自分に課す: 雷军(Xiaomi)がMIUI立ち上げ時に黎万强(Xiaomi)へ出した課題は「一銭も使わずに100万ユーザーを獲得できるか」。カネを使えないという制約が、製品とサービスだけで推薦される状態(=口コミ)への集中を強制しました。MIUIは最初の100人を他社フォーラムから一人ずつ集め、広告費ゼロで1年後に50万ユーザーに達しています。(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • 価格はビジネスモデルの宣言である: 小米1の原価が想定1500元から2000元に膨らんだとき、雷军(Xiaomi)は3晩考え抜き、赤字販売(交差補填)は再現性がないと判断して1999元の「原価ベースの値付け(成本定価)」を選びました。これが「ハードは原価で売り、サービスで稼ぐ」小米モデルの起点です。(雷军/Xiaomi, 2022) 刘强东(JD.com)も「他人が1元で売るなら我々は9毛で売る。利益率が高すぎれば参入者が殺到する」と、薄利そのものを参入障壁として設計しました。(刘强东/JD.com, 2016)

  • 株式・支配権の設計ミスは最初期に爆発する: 史玉柱(Giant Group)は最初の利益100万元の使途を巡って共同創業者2人と決裂し、「5人が1/5ずつ持つ会社は十中八九もめる」と断言します。冯仑(Vantone)ら万通6人は株式を6等分し、当初は「金銭の内紛ゼロ」に成功したものの、後に全員一致制の意思決定が機能不全に陥りました(アーリーの項参照)。支配権の所在は最初に明確にすべきです。(史玉柱/Giant Group, 2013)(冯仑/Vantone, 2007)

  • 設備投資は「回収速度」で語る: 曹德旺(Fuyao Glass)はフィンランド製設備を190万ドルから108万ドルまで交渉した上で購入し、稼働6ヶ月で全額回収。「得たのは金ではなく、自信と銀行の信頼だ」と述べます。初期の投資回収実績が、次の調達の信用になります。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

組織

  • 創業者の最重要業務は採用であり、常識外れの時間を注ぐ: 雷军(Xiaomi)は創業初年度の大半を採用に費やし、1人のエンジニアと2ヶ月で10回(コアチーム計17回)面談し、面接が10時間に及ぶこともありました。ハードウェア責任者の周光平博士は「最高の携帯を原価で売る革命」という一言で15分で参加を決めています。「1人の優れたエンジニアは10人分ではなく100人分」。(黎万强/Xiaomi, 2014)(雷军/Xiaomi, 2022)

  • 人選ミスは製品不良として現れる: 曹德旺(Fuyao Glass)の最初の工場は3年間不良品しか作れませんでしたが、上海から専門技師を招くと一夜の設備改造で合格品が出ました。技術の壁に見える問題の多くは、実は人材の問題です。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

  • 縁故採用は最初に、全力で拒否する: 曹德旺(Fuyao Glass)は採用試験で「紹介状のある者は成績にかかわらず不採用」を貫き、副県長の圧力さえはねつけました。「このケンカは遅かれ早かれやることになる。今やって禍根を断つ」。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

サービス

  • 最小の切り口に集中してPMFを検証する: MIUIは電話・SMS・連絡先・ホーム画面の4機能だけに絞って2ヶ月で初版を出し、週100人→200人→400人と口コミだけで成長しました。周鸿祎(Qihoo 360)の360安全衛士も、機能は簡素でも「悪質ソフトの駆除」という当時最も切実な悩みの一点を突いて最初の5000万ユーザーを獲得しています。「ユーザーが製品を拒む唯一の理由は、共鳴できないことだ」。(雷军/Xiaomi, 2022)(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

  • ユーザーを開発チームに入れる(ユーザーモデル>一切のエンジニアリングモデル): 小米は毎週金曜に新版を出す「橙色星期五(オレンジの金曜日)」と、翌週火曜にユーザーが提出する4コマ形式の体験レポート(四格体験報告)で、社内エンジニア100人+公認テスター1000人+開発版ユーザー10万人の「10万人開発チーム」を構築しました。エンジニア3人に企画1人・テスター1人を付けるマイクロソフトの精緻な開発体制を「ユーザーの数がゼロのモデル」と対比しています。(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • 信頼の実績がPMFの触媒になる: 刘强东(JD.com)は中関村の店頭時代から偽物を一枚も売らず全商品に発票(領収書)を付け続けました。2003年のSARSでオンライン販売に転換した際、掲示板の管理人が「3年間偽物を売ったことのない唯一の会社」と保証してくれたことで、会ったこともない客が先に送金してくれたのです。(刘强东/JD.com, 2016)

  • 無料でも、駄目な製品は使われない: 周鸿祎(Qihoo 360)の最初の無料アンチウイルスは「重い・固まる・鈍い」で失敗し、1年作り直して成功しました。「無料にしさえすれば売れる、というものではない」。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

  • 創業者自身が細部を狂ったように磨く: 史玉柱(Giant Group)は原稿用紙3分の1ほどの最初の広告文を、16日間かけて書き直し続けました。「自分が感動するまで直して、初めて世に出せる」。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 本番前に社内で「実弾テスト」をする: 小米はEC開設前、社員向けに「定価の1割でコーラを売る大売部」を運営し、受注・課金・配送までを実運用してシステムの問題を事前に潰しました。(黎万强/Xiaomi, 2014)

アーリー(成長初期)

ファイナンス

  • 調達した資金でも、広告に逃げない: スマートフォン発売時、黎万强(Xiaomi)が作った3000万元の広告計画を雷军(Xiaomi)は「MIUIは一銭も使わなかった。スマートフォンでも同じようにできないか?」と却下。退路を断たれたチームはフォーラムと微博(Weibo)に死ぬ気で食らいつき、広告費ゼロの参加型キャンペーン「我是手机控(私はスマホマニア)」で100万人参加を実現しました。(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • 内部の合意がないまま進めた投資は二重に損をする: 万通は内部の意見が割れたまま東北華聯の買収を強行し、7000万元の投資で4000万元を失いました。損失そのものより「共同創業者相互の権威喪失」の引き金になったことが致命的でした。(冯仑/Vantone, 2007)

  • 融資条件の駆け引きより、支配権という譲れない一線を守る: 刘强东(JD.com)は資金調達で「提示は一度きり、値切り交渉には応じない」を貫き、毎回複数社に分散出資させて支配権を確保しました。「支配権を失うくらいなら、会社を売って去る」。(刘强东/JD.com, 2016)

  • 品質基準を守るためなら損切りも辞さない: 小米は品質基準に達しなかった紅米初代の開発機を廃棄し、前期投入約4000万元を損切りしました。また高通の最新チップ15万個(600万ドル超)を購入した直後に新型が出ると、在庫を捨てて即座に切り替えています。品質基準を守るための損失は、ブランドへの投資です。(黎万强/Xiaomi, 2014)(雷军/Xiaomi, 2022)

組織

  • 全員一致・一票否決の意思決定は必ず機能不全に陥る: 万通の6人全員一致制は、投資会議が丸一日紛糾して「誰も他の誰かを説得できない」状態を生み、拠点が分散して情報格差が生まれると派閥ができました。「株権は第二位、支配権が第一位」という江湖型組織への退化です。ガバナンスは成長の前に設計する必要があります。(冯仑/Vantone, 2007)

  • 幹部候補は外から買わず、中で育てる: 刘强东(JD.com)は最初の融資直後に始めた「経営幹部候補生(管培生)計画」を「自社物流の構築より重要な一手だった」と振り返ります。5人の副総裁が数万人から数十人を選抜し、幹部の8割を内部登用する原則につながりました。史玉柱(Giant Group)も「外部からのスカウト人材は使わず、10年以上の子飼い幹部に充分に権限を与える」流儀です。(刘强东/JD.com, 2016)(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • ユーザーの声がチームを奮い立たせる: タイの洪水で部品供給が遅れ、フォーラムが罵声で埋まった深夜、初期ユーザーが全国のファン(米粉)の「小米加油!(小米がんばれ)」の声を集めた動画を送ってきて、黎万强(Xiaomi)は涙したといいます。小米はユーザーの称賛と叱責が直接エンジニアに届く構造(爆米花賞、フォーラム常駐)を意図的に作り、KPIの代わりにユーザーの声を仕事の原動力にしました。(黎万强/Xiaomi, 2014)

サービス

  • 単品集中のヒット商品戦略(爆品): 製品ラインを絞り、1機種ずつ確実に当てる: 小米は最初の3年で5機種しか出さず、その全てが大ヒットになりました(小米1=790万台、紅米=4460万台など)。ヒット商品が固定費を吸収し、流通費・広告費をゼロに近づける高効率モデルの根幹です。「製品計画の段階で、このカテゴリーで市場第一になれる一つだけを作る胆力を持て」。(雷军/Xiaomi, 2022)(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • カテゴリー拡大には「前端に需要、後端に能力」の二条件: 京東は創業後7年間で5カテゴリーしか扱わず、図書参入時は担当副総裁を極秘入社させ、1年かけて供給網を整えてから公開しました。需要があっても、供給能力が整うまで拡大しないのです。(刘强东/JD.com, 2016)

  • ユーザー体験のボトルネックには、重くてもインフラ投資で応える: 「物流はユーザー体験の70%を占める」。京東は最初の融資から自社物流の構築に踏み切り、2009年に「211限時達」(午前11時までの注文は当日配達)を開始しました。費用の8割を「ラストワンマイル」の配送員に振り向ける、業界とは逆の費用構造です。(刘强东/JD.com, 2016)

  • 小さく速く回す(小步快跑)ことと「0.8の法則」: 「1億ユーザー用のサーバーを先に買うな。まず100人に試させろ」。各機能の完成度が0.8なら、機能を3つ重ねた製品の体験は0.8×0.8×0.8=0.51に落ちる。機能は多いほど失敗が速くなります。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

  • テスト市場は急がず、全国展開は遅れず: 史玉柱(Giant Group)は必ず豊かな地方都市3ヶ所で3〜6ヶ月のテスト販売を行い、データで判定してから全国に展開しました。「试销市场快不得,全国市场慢不得(テスト市場は急いではならず、全国市場は遅れてはならない)」。広告の承認は幹部50〜60人の投票で2/3以上、自分は拒否権のみ持ちます。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 販売活動そのものを製品として設計する: 小米の週次販売イベント「紅色星期二(赤い火曜日)」は、予約→時間限定の争奪戦→SNSでの購入報告までを一つの製品として設計され、継続的に改善されました。単なる販売行為が、毎週数百万人が参加するソーシャルイベントになります。(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • 工場は顧客の隣に建てる: 曹德旺(Fuyao Glass)は「梱包・輸送は原価の約2割。自動車メーカーの隣に工場を建てよ」と、長春で視察4日→用地確定6日→着工10日という速度で顧客隣接立地を実行しました。B2Bにおける顧客体験は、立地と納期で作られます。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

ミドル・レイター(急拡大期)

ファイナンス

  • 短期借入で長期投資をするのは破滅への道である(短債長投): 万通は年利約20%の短期資金を元手に、信託会社・証券会社・銀行へ数珠つなぎに出資を重ね、「粗利益率60%を稼がなければ必ず損になる」という構造で崩壊寸前に追い込まれました。1996年から資産を次々に売却し「売るものも退く先もなくなる」まで縮小して生還しています。(冯仑/Vantone, 2007)

  • 「負けを認める」決断ができるかが生死を分ける: 「危機解決の唯一の秘密は犠牲だ」。資産70億の時点で負けを認めて16億まで縮小した万通は生き残り、600億まで賭け続けた德隆は崩壊しました。撤退の意思決定こそ急拡大期の最重要スキルです。(冯仑/Vantone, 2007)

  • 利益を生まない多角化と不動産が資金繰りを止める: 史玉柱(Giant Group)の巨人集団は、2年で3億元の利益に膨張した直後、保健品12種・薬品十数種・服飾・化粧品へ一気に拡大し、自社ビル「巨人大厦」は18階→38階→64階と設計が肥大化。負債比率80%と債権債務の連鎖(三角債)で、資金繰りが完全に停止しました。個人資産マイナス2.5億元からの再起後、彼は「百の機会を逃しても、一つの過ちは犯さない」を投資規律にしています。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 好況の頂点で、あえてブレーキを踏む: 曹德旺(Fuyao Glass)は2006年末、「拡張投資の全面停止、売掛金の圧縮、低効率工場の閉鎖、全社でのコスト3割削減訓練」という4項目の指示を出し、2008年の金融危機を無傷で乗り切りました(一葉落ちて天下の秋を知る)。王石(Vanke)も2007年12月に「住宅市場は転換点を迎えた」と公に認める直前、広州の物件を周辺相場より3000〜4000元/㎡安く売り出し、2008年の着工計画を最終38%削減、「万科は高値落札地(地王)を取らない」と宣言しました。「業界の裏切り者」と罵られましたが、2008年の負債率44.1%・シェア上昇で市場に先んじています。方針は「不確実な情勢下で、確実なことをやる」。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)(王石/Vanke, 2014)

  • 目先の収入を捨てて、ユーザー資産を取る: 周鸿祎(Qihoo 360)は無料アンチウイルスへの全面転換で年間約2億元の既存収入を放棄し、猛反対する取締役会を「地(収入)を守って人(ユーザー)を失えば両方失う。地を失っても人が残れば両方得る」と説得しました。結果、3ヶ月でシェア1位、半年で1億ユーザー、市場自体が100倍に拡大しました。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

  • 赤字にも規律を課す: 京東は2007年以降長期の赤字を続けましたが、「売る商品は一件ごとに必ず粗利を取る。仕入値を割るような価格競争はしない」という一線は守りました。また「資金は不要なときに調達する」を実践し、口座に約200億元を持ちながら追加調達しています。理由は「サプライヤーが安心して眠れるように」。(刘强东/JD.com, 2016)

組織

  • 高速成長は能力不足を隠す: 雷军(Xiaomi)は2015〜16年の小米の低迷の内的な要因を「慢心」と組織能力の不足(ハードの研究開発人員300人弱 vs 競合1〜2万人)と総括し、2016年に自らスマートフォン部門の指揮を執り、品質委員会の委員長に就任、「品質一票否決制」で立て直しました。販売が落ちたスマートフォンメーカーが復活した例は世界になかった中での再成長です。(雷军/Xiaomi, 2022)

  • 制度が厚くなるほど執行されない: 史玉柱(Giant Group)は「MBAが作った1尺(30cm)の厚さの制度は形骸化し、どん底期に作った2枚の制度が最も機能した」と述べます。冯仑(Vantone)も、身内同士が承認し合う経費制度の執行率は40%、他人で構成された取締役会が決める投資制度は100%というデータから、身内を使わない「生人原則」を導入し、社内の縁故比率を10%未満に抑えました。「経営者個人に忠誠を誓う最後の一人を消すことが、民営企業の進歩の証しである」。(史玉柱/Giant Group, 2013)(冯仑/Vantone, 2007)

  • 共同創業者との別れは「商人の流儀」で: 万通6人の分裂は「以江湖方式进入,以商人方式退出(江湖の流儀で始め、商人の流儀で別れる)」で決着しました。去る者は現金を受け取り、残る者が全負債を引き受け、手続きは弁護士1人と小切手のやり取りだけで完了。引き受けた負債は10年かけて完済されました。感情の組織を契約の組織に転換できるかが、企業の寿命を決めます。(冯仑/Vantone, 2007)

  • 創業者は「自分がいなくても回る」ことを実験で証明する: 王石(Vanke)は1999年に総経理を退いて郁亮(Vanke)らプロ経営者(職業経理人)のチームに経営を委ね、エベレスト登頂やハーバード遊学による長期不在を意図的な「経営実験」と位置づけました。刘强东(JD.com)も2013年に半年間留学し「電話は週5本以下」を守り、経営陣だけで大型改革を完遂できたことを「上場する資格の証明」と呼びました。(王石/Vanke, 2014)(刘强东/JD.com, 2016)

  • 一線の従業員への投資が体験の天井を決める: 小米はカスタマーサポートの第一線スタッフ1800人に、上司の承認なしで顧客に贈り物を送れる決裁権を与え、給与は業界水準より2〜3割高く設定し、勤続半年で株式を付与しました(「人は制度より重要」)。京東は配送員全員を直接雇用して社会保険に加え民間保険まで完備し、3年勤めれば故郷で配送拠点の運営を任されるというキャリアの道筋を用意しました。(黎万强/Xiaomi, 2014)(刘强东/JD.com, 2016)

  • 創業者の失言は企業の危機になる: 王石(Vanke)は汶川地震の際の「社員の寄付は10元を上限に」というブログ発言で猛烈な批判(いわゆる「捐款門(寄付騒動)」)を浴びました。テレビで無条件に謝罪し、株主総会で1億元の追加復興支援を99.8%の賛成で可決させ、さらに「市場全体に反して自社株だけが下落する・販売不振・社員の離職」という自らの辞任3条件まで提示して信頼を回復しています。企業家の言葉は、もはや個人のものではありません。(王石/Vanke, 2014)

  • 制度は人材の流出より重い: 2000年、万科は北京と上海の総経理を交代させる輪換制度(一定の期間や順番で次々と入れ替えていく仕組み)に二人が抵抗し、両者とも辞職する事態になりましたが、王石(Vanke)は「総経理を失っても、できた制度を形骸化させるわけにはいかない」と制度を貫きました。年末には北京の売上がほぼ倍増しています。(王石/Vanke, 2014)

サービス

  • チャネルの規律は「見せしめ」と「現金」で守る: 史玉柱(Giant Group)は縄張りを越えて安売りをした代理店の責任者の席の背後に「越境販売の名人トップ10」と書いた黄色い旗を掲げさせ、代金は全て現金決済として焦げ付きゼロを貫きました。広告は春節・中秋の最需要期に短期集中で投下し、キャッチコピーは10年変えない。「広告は消費者の脳への投資であり、頻繁に変えるのは投資の放棄だ」。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 販路の急拡大は検証してから複製する: 小米の新しい小売戦略は、1店舗の成功(月商1200万元)に気を良くして検証不足の「安陽モデル」を全国展開し、14種の販売チャネルが乱立する混乱を招きました。インドで検証した「地域を区切って1社に独占代理権を与える」方式を持ち帰り、直営店・認定販売店・通信キャリアの3系統に整理して2021年に1万店を達成しています。「(粗利率−費用率)×年間の在庫回転数」という投資利益率の式で、「単品の粗利率がすべて」という思い込みを打ち破ったのがこの時期です。(雷军/Xiaomi, 2022)

  • 同業の「飯の種」を断つ機能こそユーザーは支持する: 360は医療広告を受けない検索、プリインストールアプリの削除機能など、業界の収益慣行を壊す機能で支持を獲得しました。「罵られるのは、私が払うべき対価だ」。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

  • 価格破壊で市場の秩序そのものを再建する: 曹德旺(Fuyao Glass)は原価割れ販売が蔓延する建築ガラス市場で「800元/トン宣言」により国有工場を交渉の席に着かせ、業界の共倒れを防ぎました。価格リーダーシップは自社の利益のためだけでなく、市場を持続可能にするために使えます。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

  • 品質は工業化で標準化する: 万科は「自動車のように住宅をつくる」を掲げ、2003年に米住宅大手パルテをベンチマークに定めて顧客サービスの型を移植し、2005年に実験棟、2006年に東莞松山湖の建築研究拠点、2007年に上海でPC(プレキャスト)工法を初適用(部品化率30%)と段階的に住宅産業化を進めました。2008年には値下げに反発した既購入者の集団抗議で顧客満足度が46%まで落ちましたが、その後、同じ顧客層で83%まで回復させています。規模の拡大は、職人技の限界を工業化で超えることで初めて品質と両立します。(王石/Vanke, 2014)

  • 売上目標にも上限を課す: 2010年に販売額1000億元を突破した翌年、万科はあえて「1400億元以内」と上限を定めて量から質への転換を宣言しました(実績1200億元)。社員6000余名の4割超がエンジニアという「技術会社化」がその裏付けです。(王石/Vanke, 2014)

IPO後・成熟期

ファイナンス

  • 利益率の上限を自らに課し、制度化する: 雷军(Xiaomi)は2018年のIPO直前、「ハードウェア総合純利益率5%上限」を取締役会決議で恒久化しました。反対する投資家への説得の言葉が「優秀な会社は利潤を稼ぎ、偉大な会社は人心を勝ち取る」です。王石(Vanke)が1990年代に定めたと伝えられる「25%を超える利益は取らない」(冯仑/Vantone, 2007 が欲望管理の例証として言及)も同じ型の自己規律で、「大道当然」の時期には「陽光の下の利潤」「高値落札地は取らない」という形で貫かれています。暴利を断つことが長期の信頼と、市況変動への耐性を生むという思想です。(雷军/Xiaomi, 2022)(王石/Vanke, 2014)

  • 本業の入口は無料・薄利にし、収益層を分離する: Qihoo 360の無料アンチウイルスは単体では赤字のまま、ブラウザというプラットフォームに載せた検索・ナビ・ゲームが年数十億元を稼ぎます。小米の「チップモデル」も同じ構造で、ハードは原価で売って顧客を獲得し、良い接客へのチップを受け取るようにサービスで稼ぎます(2021年のネットサービス収入は282億元)。手本は Costco です(Costcoは商品の粗利率を約14%以下に自ら制限し、利益は商品ではなく会員の信頼の対価として年会費から得る)。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)(雷军/Xiaomi, 2022)(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • 再起後の負債規律は極端なほどでよい: 史玉柱(Giant Group)は負債比率5%までは青信号、10%で黄信号、15%で赤信号と自らルールを定め、以後実質ゼロ負債で経営しました。「収監された著名民営企業家の共通点は高負債だ」。余剰資金は「換金しやすく、手間も取られない」銀行株に置き、事業と投資を峻別しています。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 次の技術パラダイムには「総額を数えない」長期投資をする: 百度はモバイルインターネット投資ブームの2013年にあえてAIへ大規模投資し、李彦宏(Baidu)は研究予算を問われ「必要なだけ出すので総額を知らない」と答えました。投資を18ヶ月以内・18〜36ヶ月・36ヶ月超という3つの時間軸に分けて管理せよと説きます。小米も長江産業基金120億元で半導体・先進製造100社超に投資し、研究開発投資を5年で1000億元とする計画を掲げました。(李彦宏/Baidu, 2017)(雷军/Xiaomi, 2022)

  • 富の出口(慈善)までスキーム化する: 曹德旺(Fuyao Glass)は2011年、福耀株3億株(当時35.49億元)で河仁慈善基金会を設立し、株式の寄付によって基金自体が運用益を生み続ける、中国初の仕組みを実現しました。「配当は生活費以外すべて社会に返す」。創業者の富の使い道は、成熟期の経営課題そのものです。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

組織

  • 創業者と会社を分離する: 王石(Vanke)の結論は「創業者の最後の仕事は、自分がいなくても回る会社を作ること」です。会長(董事長)の仕事を「戦略・人事・責任を取ること」の3つに限定し、郁亮(Vanke)体制との分業を「私は不確実なことに関心を持ち、彼は確実なことに関心を持つ」と定義。2003年(52歳)と2010年(60歳)のエベレスト登頂、2011年からのハーバード遊学という長期不在は、権限委譲の意図的な実証実験でした。曹德旺(Fuyao Glass)も長男・曹晖を米国子会社での下積みから育て、香港上場の場に総裁として立たせました。(王石/Vanke, 2014)(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

  • 大企業病は「制度」で予防する: 刘强东(JD.com)が定めた8つの人事ルール——「ABC原則」(部下の人事は直属の上司とさらにその上の上司の2人が合議で決め、1人の上司の独断では決められない仕組み)、「8150」(管理職は直属の部下を8人以上持たなければならず、8人未満ならそのポスト自体を廃止して階層を減らす。逆に倉庫・配送など定型業務の現場では1人の管理者が最大150人まで受け持つ)、「Backup原則」(就任から2年以内に自分の後継者を育てられなければ即免職。後継者がいなければ自分も昇進できない)、「24時間以内回答原則」(部下からの相談や決裁依頼には24時間以内に必ず回答する)など——は、規模がもたらす官僚化を仕組みで抑え込む試みです。居場所のなくなった古参には株式を前倒しで換金させて退場してもらう決断も含まれます。(刘强东/JD.com, 2016)

  • 大企業の失敗は愚かさではなく傲慢から来る: 壮大なプラットフォーム構想を掲げながら細部の使い勝手を放置したノキアを例に、周鸿祎(Qihoo 360)は組織のフラット化と「小さくても優れた」チーム、カスタマーサポートなど現場の従業員をイノベーションの担い手にする文化を説きます。CEO自身が空港や店頭で初心者ユーザーであり続ける習慣も、その一部です。(周鸿祎/Qihoo 360, 2014)

  • 第二創業には外部の変革リーダーと「忘却」が要る: 百度のAI転換を率いた陆奇(Baidu)は「成熟企業の転換では、新手法の学習より旧手法の忘却が難しい」と指摘し、CEO自身のコミットと権限委譲を第一条件に挙げます。李彦宏(Baidu)は深度学習研究院の院長に「自分が最も詳しいからではなく、重視を示す看板として」自ら就任し、呉恩達・陆奇ら人材の磁場を作りました。全企業に「首席AI官(CAO)」を置くべきという提唱は、電化の時代に「電力担当役員」が置かれた歴史になぞらえたものです。(李彦宏/Baidu, 2017)

  • 停滞した研究開発には創業構造を再注入する: 史玉柱(Giant Group)は上場後に研究開発チームの創業の情熱が失われると、プロジェクトを独立会社化して開発者に身銭で49%を持たせ、「大鍋飯(横並びの悪平等)」を解消しました。成熟企業の中に、あえて小さな創業を作り直すのです。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 組織の反省を制度にする: 冯仑(Vantone)は毎年9月13日を全社の「反省日」と定め、業界団体では2年ごとの選挙でトップを交代する仕組みを作りました。「トップを交代させられる組織」であること自体が、江湖から現代企業への進化の証明です。(冯仑/Vantone, 2007)

サービス

  • 成熟企業の武器は「実用で証明する」こと: 百度はAIの実力を囲碁の対局のような見せ物ではなく実用で示す方針を取り、音声認識97%・顔認識99.7%を達成し、自動運転は10cm精度の高精細地図と0.2秒の緊急ブレーキ(人間は1.2秒)まで作り込んだ上で外部に開放しました。既存事業(検索)で回してきた「データ→知識→ユーザー体験→新データ」のフライホイールをAIに接続するのが百度の第二創業です。(李彦宏/Baidu, 2017)

  • マス広告もインターネット思考でやる: 小米は数千万のネットユーザーを蓄積した後に初めてテレビ広告(旧正月の国民的番組「春晩」直前の1分枠、6000万元)を打ち、しかも製品を映さずファンに捧げる内容にして、放映前にネット上で400万回再生させました。「やるなら徹底的に打ち抜く」。広告は知名度の後追いではなく、蓄積した口コミの増幅器として使います。(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • 危機対応は「怒らない」技術: 七割が好意的な声なら、三割の悪評は放置する。組織的な攻撃には即座に反撃し、誤解には工場や物流拠点を見せる見学会で応える。売上への疑いには即日、入金画面を公開する。成熟期の広報は感情ではなく、対応の型で運用します。(黎万强/Xiaomi, 2014)

  • 課金モデルはユーザーの中に住み込んで発見する: 史玉柱(Giant Group)はオンラインゲーム「征途」の開発中、1日15時間×2年間ゲーム内に住み込み、「無料プレイヤーがいてこそ課金者が輝く」構造を発見しました。1000元の宝石を「10元×成功率1%」に分解して心理的抵抗を消すなど、価格設計は消費者心理の設計です。(史玉柱/Giant Group, 2013)

  • 環境・倫理は利益に優先する: 曹德旺(Fuyao Glass)は自社鉱山がフッ素残留物を出すと知ると、8000万元超を投じた鉱山を自ら閉鎖しました。「環境を失って利益に何の意味があるか。心安らかであること以上の価値があるか」。(曹德旺/Fuyao Glass, 2015)

シリコンバレーの起業家と中国の起業家:共通点と相違点

最後に、以前整理したシリコンバレーの起業家(Eric Ries、Peter Thiel、Ben Horowitz、Steve Blank、Paul Graham、Reed Hastings、Eric Schmidt ら)の観点と、本稿の中国の起業家の観点を比較します。

共通点

  • フォーカス(専注)と小さな市場の支配: Thiel の「小さな市場を独占せよ」と、雷军(Xiaomi)の「ヒット商品戦略(一つだけ作り、そのカテゴリーで第一になる)」、史玉柱(Giant Group)の「フォーカス、フォーカス、さらにフォーカス(聚焦)」は同じ結論に達しています。多角化による死(巨人集団、万通)の事例は、Good to Great 以来の「規律なき拡大が衰退を招く」という指摘の、中国での実例です。

  • ユーザーとの高速な学習ループ: MIUIの「橙色星期五」(週次リリース+ユーザー報告)は、Ries のBuild-Measure-Learn と Blank の顧客開発をほぼ独立に実装したものです。周鸿祎(Qihoo 360)の「小さく速く回す」考え方、史玉柱(Giant Group)のテスト市場主義も、仮説検証を回してから拡大するという点でリーンスタートアップと同じ考え方です。

  • 採用への徹底した投資と人材の密度: 「最初の社員が会社を決める」(Schmidt & Rosenberg)という観点は、雷军(Xiaomi)の「創業初年度の大半を採用に使う。10時間の面接も辞さない」、刘强东(JD.com)の経営幹部候補生計画と一致します。Netflix の「能力密度」の思想に対応するものとして、刘强东の「能力×価値観」マトリクス(能力が高く価値観の合わない者を最優先で除去)があります。

  • 広告より口コミ、製品主導の成長: Graham の「Make something people want」、ベゾスの口コミ重視と、黎万强(Xiaomi)の「製品品質が1、マーケティングはその後ろの0」、雷军(Xiaomi)の「広告費ゼロで100万ユーザー」は完全に同じ思想です。

  • どん底の経営(Hard Things): Horowitz が語る「困難な意思決定こそCEOの仕事」は、史玉柱(Giant Group)の「成功時に総括した経験は歪んでおり、失敗時に総括した教訓こそ真実だ」、冯仑(Vantone)の「危機解決の唯一の秘密は犠牲だ」に対応します。失敗からの学習を最も重要な知識源とみなす点は米中共通です。

  • 創業者の退き方と組織の持続: 「創業者がいなくても回る会社を作る」(王石/Vanke)は、プロ経営者への移行や後継設計を扱うシリコンバレーの組織論(Collins、Hastings ら)と問題意識を共有しています。

相違点

  • 制度環境・政府との関係が最重要の経営変数: 最大の違いです。シリコンバレーの書籍は法制度・政府をほぼ「所与の安定した背景」として扱いますが、中国側では冯仑(Vantone)の「原罪」論と「离不开、靠不住(政府から離れられないが、頼ることもできない)」、曹德旺(Fuyao Glass)の「官員と財物の往来をしない」、王石(Vanke)の「不行贿(賄賂を贈らない)」——「私は『企業家』でも『登山家』でもなく、『不行贿』を(自分のラベルに)選んだ」——のように、制度の未整備と政府との距離の取り方そのものが生死を分ける経営論として語られます。米国流に言えば、規制対応(コンプライアンス)ではなく生存戦略としての政商関係です。

  • 資本観: エクイティ成長 vs 現金・負債規律: シリコンバレーの前提は「VCからの大型調達→赤字を掘って市場を取る(Blitzscaling)」です。中国の第一世代(曹德旺/Fuyao Glass、史玉柱/Giant Group、冯仑/Vantone)は逆に、高利貸・短期借入での長期投資・高負債で死にかけた経験から「ゼロ負債」「負けを認める撤退」「好況時のブレーキ」という現金規律を核心に据えます。小米・京東・360はVC型調達を取り入れたハイブリッドですが、それでも「赤字でも一件ごとに粗利は取る」(刘强东/JD.com)、「原価販売でも赤字販売はしない」(雷军/Xiaomi)のように、採算管理の規律がシリコンバレーの同時期の企業より保守的です。

  • 利益観: 独占による高利潤 vs 薄利による人心: Thiel は「競争は敗者のもの、独占利潤こそ善」と説きますが、雷军(Xiaomi)の「ハード純利益率5%上限」、王石(Vanke)の「25%超の利益は取らない」、刘强东(JD.com)の「9毛で売る」は、あえて利益率を放棄して信頼・規模・効率で勝つ思想です。利益の源泉を「独占」ではなく「効率革命」(中間コストの圧縮を消費者に還元する)に置く点が構造的に異なります。

  • ソフトウェアのレバレッジ vs 重いオペレーション: シリコンバレーは限界費用ゼロのソフトウェアで規模を取る事業を理想としますが、中国勢は自社物流(京東)、製造・工場(福耀、小米のスマート工場)、実店舗(小米之家)、配送員の直接雇用といった「重い」投資を差別化の中核に据えます。「ネット回線から牛乳は流れてこない」(刘强东/JD.com)は、その象徴です。

  • マーケティングの位置づけ: シリコンバレーの書籍がプロダクトと組織に比べて広告・チャネル論が薄いのに対し、中国側は消費者心理・広告コピー・チャネル統制・価格心理(史玉柱/Giant Group)、ソーシャルメディア運用と参加型設計(黎万强/Xiaomi)など、マーケティングの実践論が格段に厚いのが特徴です。信頼のインフラが未成熟で流通が多層的な市場では、良い製品というだけでは広がらないためです。

  • 失敗の個人性: 米国では創業の失敗は有限責任で処理され「Fail fast」が文化ですが、中国では史玉柱/Giant Group(個人資産マイナス2.5億元を完済)、冯仑/Vantone(去った仲間の負債を引き受け10年で完済)のように、創業者個人が債務と信用を背負い切ることが再起の条件として語られます。「耐え抜く(熬)」——冯仑(Vantone)の「偉大さは耐え抜いた先に生まれる(伟大是熬出来的)」——は、Blitzscaling 的な速度の哲学と対照的な、持久の哲学です。

  • 思想的土壌: シリコンバレーの起業家はミッション・イノベーション理論・自由主義を語りますが、中国側は仏教の因果観(曹德旺/Fuyao Glass)、誠実さや実業による国への貢献といった儒教的な価値観、任侠的な仲間内の秩序(江湖)から近代的な企業への進化(冯仑/Vantone)といった伝統思想の言葉で経営倫理を組み立てます。到達点(誠実・長期・利他)は似ていても、根拠づけが異なります。

  • 参照の方向は一方通行: 周鸿祎(Qihoo 360)は「硅谷热(シリコンバレー・フィーバー)」を「聖書」と呼び、雷军(Xiaomi)はジョブズとCostcoを、黎万强(Xiaomi)は Google を手本として明示します。中国の起業家はシリコンバレーを教材にした上で中国市場向けに再発明しており(無料モデル、参与感、京東の逆三角形モデル)、逆にシリコンバレー側が中国の方法論を参照する記述はこの世代にはほぼ見られません。ただし「智能革命」(2017)の時点で、AIでは「教材にする側」から「同時代の競争者」へ関係が変わったという自己認識が現れています。

まとめ

このように整理すると、非常に激しい競争と政府の急な政策転換のリスクがある中で、中国の起業家がやっていることは、常にユーザーファーストであり続け、フィードバックを踏まえて製品を改善するサイクルを高速に回していることがわかります。世界で最も競争が激しい中でのアプローチは、他の地域においても多くの有用性があると感じます。