Articles

Sep 22, 2026Masahiro TaimaResearchEconomyBusiness Development

How to Find Growth Markets: Approaches to Predicting Growth Markets Based on Recent Research

Product

Start free (Coming soon) Enterprise inquiries

Career

We're actively hiring people to build specialized AI agent services together at mign

Overview

歴史的な急成長を実現した企業や国家は、多くの人が認識する前から成長領域に投資してきました。成長市場はどのように見つけられるのでしょうか。成長領域を生む源泉を政治・経済・社会・技術の4つの外部環境の変化に整理し、S字カーブやライトの法則から弱いシグナル、デルファイ法、リードユーザー法、シナリオプランニングまで予測手法を5系統・12手法に分類。投資家・企業・研究者・国家の実践例、2020年以降の最新研究の動向、そして市場予測に固有の限界まで、最新研究を踏まえて網羅的に整理します。

はじめに

歴史的な急成長を実現した企業や国家は、多くの方が認識する以前から、成長領域に大きな投資と挑戦をしてきました。しかし、どのようにそのような成長市場を見つけることができるのでしょうか。ここでは、そのような成長市場を見極める方法について整理しています。

この記事の新規性は次の3点にあります。

  • 成長する領域を生む源泉を外部環境の4つの変化に整理し、それが市場だけでなく研究テーマや発明の方向をも動かすことを実証研究で示したこと。
  • 予測手法を5系統に分類し、源泉との対応関係を示したこと。
  • 2020年以降の研究動向を整理したこと。

成長市場の要因

成長領域を生む源泉は、環境スキャニング研究(外部環境(政治、経済、社会、技術など)を分析し、経営に活かす研究分野)の古典以来、政治・経済・社会・技術の4つの変化(PEST)に整理されてきました (Aguilar, 1967)。以下、4つの変化ごとに整理します。

政治の変化

どのように市場に影響を与えるか

  • 需要の創出と禁止:規制は特定の製品・技術を義務化または禁止することで、需要を直接に作り、消します。適切に設計された規制は企業のイノベーションを促し、既存企業が見落としていた新市場を生むことが論じられています (Porter & van der Linde, 1995)。規制対応の発明は、規制が強化された国・時期に集中して生まれることが特許データで確認されています (Lee, Veloso & Hounshell, 2011)
  • 資金配分による研究の誘導:使途を指定された公的研究資金は、研究者の関心をそのテーマへ移動させます。米国NIHのデータでは、特定領域の資金が増えると研究者がテーマを変えて応募することが実証されており、研究の方向は政策で動きます (Myers, 2020)

具体的な事例

  • ドイツの再生可能エネルギー法と太陽光市場:2000年施行の再生可能エネルギー法(EEG)は20年間の固定価格買取を保証し、ドイツを世界最大の太陽光市場に押し上げ、パネル製造の量産投資を世界的に誘発しました。この法律は1990年代から審議されており、成立前から予兆が観察可能でした (Jacobsson & Lauber, 2006)
  • カリフォルニア州のゼロエミッション車規制とEV市場:1990年に導入されたZEV規制は、メーカーに一定比率の無排出車の販売を義務づけ、その後の強化を通じて電動化の研究開発を誘導しました。EV市場の起点の一つは、需要ではなく規制でした (Collantes & Sperling, 2008)
  • 排ガス規制と触媒コンバーター:米国の大気浄化法による排ガス規制の強化は、自動車メーカーとサプライヤーの排ガス浄化技術の特許出願を、規制のタイミングに合わせて増加させました。規制が発明の時期と方向を決めた例です (Lee, Veloso & Hounshell, 2011)

経済の変化

どのように市場に影響を与えるか

  • 購買力の閾値:所得水準が上がり、ある製品の価格が家計の支払可能な水準を下回ったとき、市場は非連続に立ち上がります。新興国の中間層の拡大は、この閾値を越える人口を毎年数千万人単位で増やしてきました (Kharas, 2017)
  • コスト崩落による用途の解放:技術のコストが下がると、「技術的には可能だが高すぎた」用途が順に経済的に成立し、市場に変わります。累積生産量の倍増ごとにコストが一定率下がる経験則は多くの技術で確認されており、コストの下落線と用途の採算閾値の交点が、市場の立ち上がり時期の見積もりになります (Nagy et al., 2013; Farmer & Lafond, 2016)
  • 相対価格による発明の誘導:投入資源の価格が上がると、その資源を節約する技術への発明が増えます。「誘発的イノベーション」として知られるこの仕組みは、経済シグナルが発明の方向を動かすことを示しています (Schmookler, 1966; Popp, 2002)

具体的な事例

  • 新興国の中間層とモバイル決済:世界の中間層人口は2010年代に急拡大し、その大半をアジアが占めました (Kharas, 2017)。銀行口座を持たない層がスマートフォンを持つに至ったことで、中国のモバイル決済や東南アジアの配車・決済プラットフォームという、先進国に存在しなかった市場が立ち上がりました
  • ゲノム解読コストの崩落と個人向け遺伝子検査:ヒトゲノム1人分の解読コストは2001年の約1億ドルから2010年代半ばに1,000ドル台まで下がりました (Wetterstrand, 2023)。この崩落によって、個人向け遺伝子検査、がんのゲノム医療、農業・畜産の育種といった、研究機関以外では成立しなかった用途が市場になりました
  • エネルギー価格と省エネ技術の特許:1970年代のオイルショック以降、エネルギー価格の上昇は省エネ技術の特許出願を統計的に有意に増やしました。価格上昇の効果は数年以内に現れ、価格が下がると発明も減速しています (Popp, 2002)。相対価格の変化が発明の方向を動かす、最も明確な実証例です

社会の変化

どのように市場に影響を与えるか

  • 人口構成の確定性:人口動態は「すでに起こった未来」です。今年生まれた人数は20年後の20歳人口をほぼ確定させ、各年齢層の消費・医療・住宅の需要を10〜20年先まで見通せます。4つの源泉の中で最も確実性の高い予測材料です (Drucker, 1997)
  • 将来需要の予想による発明の誘導:人口動態から予想される将来の市場規模は、企業の研究開発の方向を動かします。予想される市場が大きい領域ほど新製品の開発が増えることが因果的に確認されています (Acemoglu & Linn, 2004)
  • 価値観と生活様式の変化:価値観(環境・健康・時間の使い方)や世帯構造の変化は、既存の製品カテゴリの需要を別のカテゴリへ移します。人口統計と異なり数字に現れるのが遅いため、先端ユーザーの観察でしか早期に捉えられません (von Hippel, 1986)

具体的な事例

  • 日本の高齢化と介護・ヘルスケア市場:日本の65歳以上人口の比率は1990年の12%から2020年に29%へ上昇し、今後も上昇が続くと推計されています (国立社会保障・人口問題研究所, 2023)。この確定的な変化を背景に、2000年の介護保険制度の導入とともに介護サービス市場が立ち上がり、現在では見守り、服薬管理、介護ロボットといった技術応用の市場へ広がっています
  • 人口動態と新薬開発:米国の各年齢層の人口推移から将来の患者数を予想できる疾患ほど、新薬の開発と承認が増えることが示されています。予想される市場規模が1%大きいと新薬の参入が約4〜6%増えるという推定で、将来需要の予想が発明の方向を決めていることを実証した例です (Acemoglu & Linn, 2004)
  • 女性の就業拡大と時短・保育サービス市場:20世紀後半の女性の就業とキャリア形成の拡大は「静かな革命」と呼ばれる構造変化で (Goldin, 2006)、共働き世帯の増加を通じて、保育、中食・食事宅配、家事代行といった時間を買うサービス市場を各国で押し上げました。人口統計と価値観の変化が重なった事例です

技術の変化

4つの中で最も非連続な変化を生む源泉であり、最も厚く扱います。

どのように市場に影響を与えるか

  • 汎用技術による応用領域の連鎖:蒸気機関・電力・ITのような汎用技術(General Purpose Technology)は、それ自体が価値を生むのではなく、補完的なイノベーションの連鎖を通じて無数の応用領域を生みます (Bresnahan & Trajtenberg, 1995)。この連鎖は、インフラ→プラットフォーム→アプリケーションの階層で繰り返し観察され、汎用技術の登場を確認できれば「次に成長するのはその応用層であり、次に開くのは応用層の研究テーマである」という構造的な予測が立ちます (Andreessen, 2011)
  • 長い時間構造:汎用技術が生産性に反映されるには、業務プロセスや組織の再設計という補完的な再発明が必要で、数十年を要します。発明から普及までのラグは歴史的に平均45年に及び、そのラグの差が各国の所得格差の約4分の1を説明します (Comin & Hobijn, 2010)。技術革命は「導入期→熱狂とバブル→転換点→展開期」という共通パターンを辿ることが、産業革命以来の5つの波で示されています (Perez, 2002)
  • コスト曲線による市場の順次解放:「累積生産量が2倍になるたびにコストが一定率下がる」という経験則(ライトの法則)は、62の技術の検証で高い予測力を持つことが確認されています (Wright, 1936; Nagy et al., 2013)。コストが下がるたびに新しい用途が採算に乗り、市場が階段状に開いていきます

具体的な事例

  • 電力と工場の生産性(約40年のラグ):電力は1880年代に実用化されましたが、工場の生産性向上に反映されたのは1920年代でした。蒸気機関を前提にした工場のレイアウトと作業設計を、電動機を前提に作り直すという補完的な再発明に約40年を要したためです (David, 1990)。汎用技術の市場は、技術の登場ではなく補完資産の整備とともに立ち上がることを示す原点的な事例です
  • インターネット・クラウドと応用市場の階層:インターネットというインフラの上にEC・検索・SaaSが、スマートフォンというプラットフォームの上にアプリ経済が、クラウドの上にAPI経済が、それぞれ約10年遅れて立ち上がりました。「ソフトウェアが世界を食う」という2011年の観察は、この階層構造を投資テーゼに翻訳したものです (Andreessen, 2011)
  • GPUと深層学習から汎用AI、特化型AIエージェントへ:2009年にGPUが深層学習の訓練を数十倍高速化することが示され (Raina, Madhavan & Ng, 2009)、2012年にGPUで訓練したニューラルネットワークが画像認識で圧勝して深層学習ブームが始まりました (Krizhevsky, Sutskever & Hinton, 2012)。並列計算のコスト崩落が基盤モデル(汎用AI)を成立させ、その応用層として特化型AIエージェントの市場が開きつつあります。NVIDIAが2006年にCUDAへ投資したのは、この連鎖の最上流に賭けた判断でした (Witt, 2025)
  • 太陽光と電池のコスト曲線:太陽光発電のコストは約40年間、累積生産量の倍増ごとに約20%下がり続け、2010年代に多くの地域で既存電源を下回りました (Farmer & Lafond, 2016)。リチウムイオン電池も同じ法則に沿って下落し、EVの経済性が成立する閾値を越えました (Ziegler & Trancik, 2021)。コスト曲線を外挿していれば、いずれの市場も10年以上前に立ち上がりの時期を見積もれたことになります

これら4つの外部環境の変化は独立ではなく連動します。EV市場は、電池のコスト低下(技術)×排ガス規制(政治)×脱炭素の価値観(社会)×新興国の需要(経済)の掛け算で立ち上がりました。太陽光市場も、コスト曲線(技術・経済)と買取制度(政治)と環境規範(社会)が同じ方向を向いた結果です。複数の源泉が同じ方向を向いたとき、領域の成長は最も確度が高くなります。

成長市場を予測するアプローチ

成長市場の要因となる変化を検出・定量化する手法としては、5系統・12手法に整理できます。以下、各手法を概要、生まれた背景、具体例の同じ観点で説明します。

外挿・モデル系

過去のデータに法則を当て、将来に延ばす系統です。データが存在する段階では最も定量的で、存在しない段階では類似事例を借ります。

S字カーブ/普及理論

  • 概要:新技術の普及は、イノベーター(2.5%)→アーリーアダプター(13.5%)→アーリーマジョリティ(34%)→レイトマジョリティ(34%)→ラガード(16%)という順で進み、累積するとS字を描きます。普及率が10〜20%に達した時点でS字の傾きが推定でき、飽和水準と到達時期を外挿できます (Rogers, 1962)
  • 生まれた背景:1930年代のアイオワ州でハイブリッドトウモロコシの採用が農家の間に広がる過程を追跡した社会学研究が原点です。採用時期の分布が正規分布に近く、累積がS字になることが発見されました (Ryan & Gross, 1943)。経済学者はこれを各州のデータで再現し、普及速度が収益性に比例することを示しました (Griliches, 1957)。Rogersは500本超の普及研究を統合し、一般理論として体系化しました
  • 具体例:カラーテレビ、携帯電話、スマートフォン、インターネットの普及率は、いずれも米国の世帯普及率でS字を描いています。1980年代の米国の携帯電話予測が実績を100倍以上下回った誤りは、初期の緩やかな立ち上がり部分を直線で延ばしたことに起因します (The Economist, 1999)。逆に、普及率10%を超えた時点でS字を当てれば、飽和水準はかなりの精度で読めたはずです (Rogers, 1962; The Economist, 1999)

Bassモデル

  • 概要:S字を「革新係数p(広告や外部情報で自発的に採用する力)」と「模倣係数q(既存採用者からの口コミで広がる力)」の2係数で定式化した数理モデルです。累積採用者数から次期の採用者数を計算でき、ピーク時期と市場規模が解析的に求まります。213件の応用研究のメタ分析では、pの平均は約0.03、qの平均は約0.38でした (Bass, 1969; Sultan, Farley & Lehmann, 1990)
  • 生まれた背景:1960年代、家電メーカーがカラーテレビなど耐久消費財の生産計画を立てるために、発売後数年のデータから売上ピークを予測する必要がありました。Bassは冷蔵庫、冷凍庫、テレビなど11品目で当てはまりを検証し、カラーテレビの売上ピークの時期を事前に予測してみせました (Bass, 1969)
  • 具体例:衛星放送DirecTVは1994年のサービス開始前に、ケーブルテレビなど類似サービスの係数を借りてBassモデルで5年間の加入者数を予測し、実績とほぼ一致しました。発売前でもモデルが機能することを示した代表例です (Bass et al., 2001)

ライトの法則(経験曲線)

  • 概要:「累積生産量が2倍になるたびに、単位コストが一定率(技術により10〜30%)下がる」という経験則です。需要ではなくコスト側から市場の立ち上がりを予測します。コストの下落線が、用途が経済的に成立する閾値と交わる時点が、市場が開く時期の見積もりになります (Wright, 1936)
  • 生まれた背景:1936年、航空機技術者のWrightが、機体の組立工数が累積生産機数の増加とともに一定率で減ることを発見しました。第二次大戦中の軍用機の生産計画に使われ、1960年代にボストンコンサルティンググループが「経験曲線」として経営戦略に持ち込みました (Wright, 1936; Boston Consulting Group, 1968)。2010年代に入り、62技術のデータでこの法則が他の予測法則より高い予測力を持つことが統計的に検証されました (Nagy et al., 2013)
  • 具体例:太陽光発電モジュールは1976年以降、累積生産量の倍増ごとに約20%のコスト低下を続け、2010年代に多くの地域で火力発電の発電コストを下回りました。リチウムイオン電池も同様の法則に沿って下落し、EVの経済性が成立する閾値を越えました (Farmer & Lafond, 2016; Ziegler & Trancik, 2021)。1980年時点でこの法則を外挿していれば、太陽光市場が2010年代に開くことは予測できたことになります

参照クラス予測

  • 概要:予測対象を「内側から」積み上げるのではなく、類似の先行事例(参照クラス)の実績分布を調べ、その分布の中に対象を位置づける方法です。新市場の予測では、類似技術の普及係数やピーク到達年数を借ります (Kahneman & Tversky, 1979; Flyvbjerg, 2006)
  • 生まれた背景:心理学者のKahnemanとTverskyが、人間は自分の計画を内側から見ると系統的に楽観的になる(計画錯誤)ことを示し、外部視点による修正手続きを提案しました (Kahneman & Tversky, 1979)。Flyvbjergは258件の交通インフラ事業のデータで9割が費用超過していることを示し (Flyvbjerg, Holm & Buhl, 2002)、参照クラスの分布から補正率を出す手法を実務化しました。英国財務省は2004年にこれを公共事業評価の公式ガイダンスに採用しています (Flyvbjerg, 2006)
  • 具体例:新しい家電製品の売上予測で、類似製品の普及曲線を参照して予測すると、経営者の判断だけの予測より精度が高いことが示されています (Goodwin, Dyussekeneva & Meeran, 2013)。DirecTVの発売前予測も、類似サービスの係数を借りた参照クラス予測の一種です (Bass et al., 2001)。特化型AIエージェントの普及を見積もるなら、SaaSやクラウドの企業導入率の推移が参照クラスの候補になります

シグナル検出系

データが数字になる前の、断片的な予兆を拾う系統です。

弱いシグナル(weak signals)

  • 概要:大きな変化に先行する、断片的で曖昧な予兆(弱いシグナル)を組織的に収集・解釈する考え方です。シグナルの確度に応じて対応を段階的に強める「段階的対応」を組み合わせます (Ansoff, 1975)
  • 生まれた背景:1973年のオイルショックで、当時主流だった長期経営計画が不連続な変化にまったく対応できなかったことが契機です。戦略経営論の創始者Ansoffは、情報が十分に揃うのを待っていては手遅れになるため、弱いシグナルの段階で動き始める必要があると論じました (Ansoff, 1975)。2000年代に「周辺視野」の研究として体系化され、組織がシグナルを見落とす理由と対処法が整理されました (Day & Schoemaker, 2006; Schoemaker & Day, 2009)
  • 具体例:玩具メーカーMattelは、主力のバービー人形の売上が競合ブラッツに侵食される予兆(少女たちの嗜好の変化、小売店での陳列の変化)を数年間見過ごし、市場シェアを大きく失いました。シグナルは存在したが、組織が拾う仕組みを持たなかった例として分析されています (Day & Schoemaker, 2006)。逆に、規制の分野では法案の提出・審議・パブリックコメントが弱いシグナルの典型で、成立の数年前から観察できます

特許・論文の計量分析

  • 概要:特許出願数の加速、論文数の増加率、引用ネットワークの構造変化、異分野の融合といった指標から、新興技術を商用化の数年前に検出する方法です。近年は複数の指標を機械学習にかけて自動分類します (Lee et al., 2018)
  • 生まれた背景:1955年に論文の引用索引が提案され (Garfield, 1955)、1960年代にScience Citation Indexとして実用化されたことで、科学の動向を計量的に追えるようになりました。特許については、被引用数が多い特許ほど経済的価値が高いことが実証され (Hall, Jaffe & Trajtenberg, 2005)、特許データが技術の価値と方向を測る道具になりました
  • 具体例:ゲノム編集技術CRISPR-Cas9は2012年の論文発表後、関連論文数と特許出願数が数年で急増し、2020年のノーベル化学賞と多数の企業設立に先行しました。論文計量を追っていれば、応用市場の立ち上がりを数年前に検出できた例です。同じ手法は研究者にも有効で、まだ混雑していない新領域を見つける道具になります (Foster, Rzhetsky & Evans, 2015)

集合知・判断系

データが存在せず人間の判断に頼らざるをえないとき、判断の集め方と訓練で精度を上げる系統です。

デルファイ法

  • 概要:専門家に匿名で予測させ、集計結果と理由をフィードバックして再回答させることを数回繰り返し、意見を収束させる手法です。匿名性により声の大きい人への同調を防ぎ、反復により情報を共有します (Dalkey & Helmer, 1963)。古代ギリシャのアポロン神殿がある神託の地「デルポイ(デルファイ)」にちなみ、国家の重大な決断に際して人々がデルファイの神託(お告げ)を求めたように、多くの専門家の知見や予測を集約して未来を予測・決定する手法。
  • 生まれた背景:1950年代の冷戦期、RAND研究所が米空軍のために、データが存在しない軍事的な問い(例:ソ連の攻撃で米国の軍需生産を一定量減らすのに必要な原爆の数)について専門家の判断を集約する必要から開発しました。会議形式では権威や多弁な参加者に意見が引きずられる問題を、匿名の反復で解消しました (Dalkey & Helmer, 1963)。その後の実証研究のレビューでは、デルファイ法は統計的に集計しただけの集団を16研究中12研究で、通常の対面集団を5研究中5研究で上回りました (Rowe & Wright, 1999)
  • 具体例:日本の科学技術予測調査は1971年以来、約5年ごとにデルファイ法で数千人の専門家に将来の科学技術の実現時期を問い続けており、第11回調査では約700の科学技術トピックを扱いました。半世紀続く世界最長のデルファイ調査です (科学技術・学術政策研究所, 2019)

予測市場

  • 概要:「◯年までにXが起きる」といった予測を証券として売買させ、その価格を確率の推定値として読む方法です。分散した情報が価格に集約されるという市場の機能を予測に転用します (Wolfers & Zitzewitz, 2004)
  • 生まれた背景:価格が分散した知識を集約するという洞察は経済学の古典にあります (Hayek, 1945)。1988年にアイオワ大学が大統領選挙の予測市場を開設し、世論調査より正確に得票率を予測したことで注目されました (Forsythe et al., 1992)。2000年代に企業内での応用が始まり、経済学者らが政策への活用を提唱しました (Arrow et al., 2008)
  • 具体例:Hewlett-Packardは社内で従業員にプリンター売上を予測させる市場を運営し、8事例中6事例で公式の売上予測より正確な結果を得ました (Chen & Plott, 2002)。GoogleとFordの社内予測市場の分析でも、価格は概ね校正された確率として機能し、企業の公式予測に含まれる楽観バイアスを補正する効果が確認されています (Cowgill & Zitzewitz, 2015)

超予測(Superforecasting)

  • 概要:予測を訓練可能なスキルとして扱い、(1)大きな問いを答えられる小問に分解する、(2)基準率(似た事例の過去の発生率)から始めて個別事情で補正する、(3)確率を細かい刻みで表現し新情報で小刻みに更新する、(4)チームで議論し、(5)成績を記録して振り返る、という手順で精度を上げる方法です (Tetlock & Gardner, 2015)
  • 生まれた背景:専門家の予測がチンパンジー並みという20年研究の結果を受けて (Tetlock, 2005)、米国の情報機関IARPAが2011年から4年間、複数の研究チームを競わせる地政学予測トーナメントを開催しました。Tetlockらのチームは一般の志願者を訓練し、上位2%の「超予測者」を選抜してチーム化することで、他チームを大差で上回りました (Mellers et al., 2014)
  • 具体例:「5年後に特化型AIエージェントが中堅企業の◯%に導入されるか」という問いは、そのままでは答えられません。超予測の手順では、(a)類似技術(SaaS、RPA)の企業導入率が5年で何%に達したか(基準率)、(b)導入の前提条件(APIの整備、規制、価格)が何年で揃うか、(c)先行指標(パイロット導入の発表数、求人数)がどう動いているか、に分解し、それぞれに確率を置いて合成します。基準率から出発するだけで、専門家の直感より精度が上がることが示されています (Tetlock & Gardner, 2015)

需要側探索系

まだ市場調査に現れない需要を、人の観察から発見する系統です。

リードユーザー法

  • 概要:平均的なユーザーより数年早く課題に直面し、既存製品では解決できないために自ら解決策を自作している先端ユーザー(リードユーザー)を探し、その解決策から将来の市場を読む方法です。自社の市場の外側、類似の課題をより極端な形で抱える隣接分野にリードユーザーを探すことが要点です (von Hippel, 1986)
  • 生まれた背景:科学機器の分野で、重要なイノベーションの77%がメーカーではなくユーザー(研究者)によって生み出されていたという発見が原点です (von Hippel, 1976)。メーカーが市場調査で平均的なユーザーに聞いても新しい需要が見えないのは、彼らがまだ課題に直面していないからだと考え、先端ユーザーに直接学ぶ方法を1986年に定式化しました (von Hippel, 1986)
  • 具体例:3Mの医療事業部は、手術時の感染防止という課題に対し、自社の顧客である外科医ではなく、より極端な条件で同じ課題を抱えるリードユーザー、すなわち獣医(毛のある患者)、ハリウッドのメイクアップアーティスト(皮膜の長時間密着)、発展途上国の外科医(設備のない環境での感染対策)を探し、新しい感染防止製品のコンセプトを得ました (von Hippel, Thomke & Sonnack, 1999)。リードユーザー法で生まれたアイデアは、通常手法の約8倍の売上ポテンシャルを示しました (Lilien et al., 2002)

ジョブ理論

  • 概要:顧客は製品を買っているのではなく、「片付けたい用事(ジョブ)」を片付けるために製品を「雇っている」と捉え、既存の製品カテゴリや顧客属性ではなくジョブの単位で市場を定義し直す方法です。ジョブの単位で見ると、市場規模も競合も変わります (Christensen et al., 2016)
  • 生まれた背景:「顧客はドリルではなく穴を欲しがっている」というマーケティングの古い洞察 (Levitt, 1983) を、Christensenが破壊的イノベーション研究の中で理論化しました。既存企業が顧客属性(年齢・所得)で市場を切り分けるために新しい需要を見落とす、という失敗の分析から生まれています (Christensen, 1997; Christensen et al., 2016)
  • 具体例:あるファストフードチェーンでミルクシェイクの売上を伸ばそうと味や価格を改善しても効果がなかったところ、観察によって朝の購入者の多くが「長い通勤中の退屈をしのぎ、昼まで空腹を抑える」というジョブのために買っていることが分かりました。このジョブの競合はバナナやドーナツであり、ミルクシェイクの市場規模は「デザート市場」ではなく「通勤時間市場」で測るべきだと分かった例です (Christensen et al., 2016)

構造・シナリオ系

一本の予測が意味を持たないほど不確実性が高いとき、複数の未来を描いて備える系統です。

シナリオプランニング

  • 概要:予測を一本に絞らず、確実な要因(人口動態など)と重要な不確実性(規制、技術のブレークスルーなど)を分け、不確実性の組み合わせで2〜4本の一貫した未来像を描き、各シナリオの先行指標を監視する方法です。目的は当てることではなく、どのシナリオが来ても対応できる意思決定を準備することです (Schoemaker, 1995)
  • 生まれた背景:1950〜60年代、RAND研究所のHerman Kahnが核戦争の推移を複数のシナリオとして記述する手法を開発しました (Kahn & Wiener, 1967)。これを企業経営に持ち込んだのがShell社で、1970年代初頭に「石油価格が急騰し産油国が主導権を握る」シナリオを経営陣に示し、1973年のオイルショックに競合より早く対応しました。担当者のWackがその経験を1985年に論文化しています (Wack, 1985)
  • 具体例:Shellは1980年代にも、ソ連の体制変化と石油価格の急落というシナリオを描いており、1986年の原油価格暴落に備えていたとされています (Schwartz, 1991)。成長市場の予測に応用する場合、例えば特化型AIエージェントでは「AI規制の強度(強い/弱い)」と「基盤モデルのコスト低下(速い/遅い)」の2軸で4シナリオを描き、それぞれで立ち上がる応用領域と時期が異なることを明示した上で、規制案の審議状況と推論コストの推移を先行指標として監視します (Schoemaker, 1995)

源泉と手法の対応

5つの系統は、前章の4つの源泉と対応させると使いどころが明確になります。

  • 政治の変化:構造・シナリオ系(規制・予算の分岐ごとにシナリオを立て、先行指標を監視)
  • 経済の変化:外挿・モデル系(コスト曲線・相対価格・マクロ指標)
  • 社会の変化:外挿・モデル系(人口統計)+需要側探索系(価値観の変化)
  • 技術の変化:シグナル検出系+外挿・モデル系(特許・論文→S字カーブ・コスト曲線)

実務家の具体例

学術の外でも、優れた研究者・投資家・企業・国家は、上記のアプローチと同型の方法を実践しています。ここでは各カテゴリーでどのような手法と行動で成長市場を予測するか整理します。

投資家

投資家は、成長市場の予想を最も直接に収益に変換する主体です。ただし、VC・成長株投資家・ヘッジファンド・機関投資家では、時間軸と手法が大きく異なります。

  • ベンチャーキャピタル(Sequoia Capital):AppleやCisco、Googleに初期投資したDon Valentineは、投資判断の第一基準を「市場の大きさ」に置きました。「私は人ではなく、大きな市場に投資する」と語り、優れた経営者でも小さな市場では大きな企業にはなれない、と繰り返し述べています (Valentine, 2010)
  • ベンチャーキャピタル(Y Combinator、Andreessen Horowitz、Founders Fund):Y CombinatorのPaul Grahamは「未来に住み、欠けているものを作れ」と述べ、最先端の環境に身を置く人が感じる不便こそ将来の市場だと考えます。リードユーザー法の実務版です (Graham, 2012)。Andreessen Horowitzの「ソフトウェアが世界を食う」というテーゼは汎用技術論を投資テーゼに翻訳したもので、同社は特定のテーゼ(クラウド、モバイル、AI)を先に立てて公開し、それに沿って投資する構造・シナリオ系の実務版を行っています (Andreessen, 2011)。Founders FundのPeter Thielの「賛成する人がほとんどいない、大切な真実は何か」という問いは、コンセンサスから外れた予測にしか超過リターンがないことを示しています (Thiel & Masters, 2014)
  • 成長株の長期投資家(Baillie Gifford):スコットランドの運用会社Baillie Giffordは、AmazonやTeslaに上場後の早い段階から投資し、10年以上保有し続けました。その根拠は、株式のリターンが極端に偏っているという実証研究です。1926年以降の米国株の分析では、全体の富の創出は上位4%の銘柄によって生まれ、残りの96%は短期国債と同等以下のリターンでした (Bessembinder, 2018)。市場全体を予測するのではなく、成長市場で圧倒的な勝者になりうる少数の企業を見極めて集中し、長く保有する、という戦略はこの分布から導かれています
  • テーマ型のアクティブ運用(ARK Invest):ARK Investは、ライトの法則(累積生産量の倍増ごとのコスト低下)を明示的に用いて、電池、ゲノム解読、AIなどの技術のコスト曲線を外挿し、応用市場の立ち上がり時期を予測して投資する手法を公開しています (ARK Invest, 2024)。本記事の外挿・モデル系をそのまま運用に用いた例ですが、2021年をピークに運用資産が大きく下落したことは、技術の方向の予測が正しくても、参入価格と時期が誤れば損失になるという限界も示しています (Perez, 2002; Siegel, 2005)
  • マクロ系ヘッジファンド(Bridgewater Associates):Ray Dalioが率いるBridgewaterは、過去数百年の債務危機・通貨危機・覇権交代の事例を体系的に整理し、現在の状況を過去のどの局面に似ているかで判断する手法をとっています (Dalio, 2018)。これは参照クラス予測を金融市場に適用した実務版です。一方、George Sorosは、市場参加者の予測が価格を動かし、価格が実体を動かすという「再帰性」を理論化し、予測が対象を変えてしまうという自己言及の限界を投資戦略の中心に据えました (Soros, 1987)。予測の限界そのものを収益源にした例です
  • クオンツ系ヘッジファンド(Renaissance Technologies):数学者James Simonsが創業したRenaissance Technologiesは、市場の成長や企業の将来をまったく予測しません。価格データの統計的なパターンを短期(数日以内)で捉える取引に限定し、長期の予測を放棄することで高い成績を維持しました (Zuckerman, 2019)。これは「予測可能なもの(短期の統計的規則性)と予測不可能なもの(長期の市場の方向)を分け、前者だけに賭ける」という、本記事とは逆方向からの限界の認識と言えます
  • バリュー投資家(Berkshire Hathaway):Warren Buffettは、成長市場を予測して投資することを明確に避けてきました。2007年の株主への手紙では「最悪の事業は、急成長し、成長のために多額の資本を必要とし、それでいてほとんど利益を生まない事業である。航空業界を考えてみればよい」と述べています (Buffett, 2008)。市場の成長性と投資リターンを切り離し、自分が理解できる範囲(能力の輪)の中で、競争優位が持続する企業だけを選ぶという方針です。成長市場を当てることの難しさと、成長が利益に結びつかないという限界を、投資哲学の前提に置いた例です
  • 機関投資家(Temasek、Yale大学基金):シンガポールの政府系投資会社Temasekは、「デジタル化」「持続可能な生活」「消費の未来」「長寿化」という4つの構造的トレンドを掲げ、ポートフォリオをこのテーマに沿って組み替えています (Temasek, 2023)。本記事の4つの源泉(技術・社会・経済・人口動態)を、機関投資家の資産配分に翻訳した例です。Yale大学基金を率いたDavid Swensenは、1980年代からベンチャーキャピタルや未公開株といった、情報の非対称性が大きく予測の技術が報われる資産クラスへ配分を移し、大学基金の運用モデルを一変させました (Swensen, 2009)。「どの市場が成長するか」だけでなく「どの市場なら見極めの技術が超過リターンになるか」を選んだ例です
  • 実証研究が示す投資家の判断:885人のVCへの調査では、投資先の選定で最も重視する要因は経営チームであり、市場・事業モデルはそれに続きました (Gompers et al., 2020)。一方、200社超の事後分析ではタイミングが成功を最も説明する要因でした (Gross, 2015)。VCのリターンは少数の大成功が全体を支える極端に偏った分布を持ち (Kerr, Nanda & Rhodes-Kropf, 2014)、上場株も同様の偏りを持つため (Bessembinder, 2018)、市場の見極めは「どの案件に投資するか」だけでなく「どの領域に多数の小さな賭けを分散させ、勝者にどう集中させるか」というポートフォリオ設計の問いとして機能しています。上場株のアクティブ運用では、手数料控除後に市場平均を上回る運用者はごく少数であり (Fama & French, 2010)、各国の経済成長率と株式リターンの相関はほぼゼロか負です (Ritter, 2005)。成長市場を予測できることと、その予測が投資リターンになることは、実証的にも別の問題です

企業

  • Amazon(Working Backwards、AWS):未来のプレスリリースを先に書き、顧客価値から逆算して開発する「Working Backwards」は、需要側探索の制度化です。同社はこの手法で、2000年代前半に自社のインフラ運用の課題から「他社も同じ課題を持つ」という需要を読み取り、2006年にクラウドサービスAWSを立ち上げました。社内のリードユーザー(自社の開発チーム)の課題から外部市場を発見した例です (Bryar & Carr, 2021)
  • NVIDIA(CUDA):2006年、深層学習ブームの数年前にGPUの汎用計算基盤CUDAへ投資を始めました。当初は市場が存在せず投資家から批判されましたが、並列計算のコスト崩落という技術の変化に賭け、研究者がGPUを使い始めるシグナル (Raina, Madhavan & Ng, 2009; Krizhevsky, Sutskever & Hinton, 2012) を確認しながら投資を続け、応用領域の出現を待ちました (Witt, 2025)。技術起点予測と段階的な更新の代表例です
  • Intel(戦略的転換点):1985年、CEOのAndy Groveは日本メーカーの参入で主力のメモリ事業の利益が消えつつあるシグナルを読み、創業事業を捨ててマイクロプロセッサに集中しました。Groveはこの経験から、産業構造の変化の予兆を「戦略的転換点」と呼び、それを検出する方法を体系化しています (Grove, 1996)。撤退の判断もまた、市場予測の出力であることを示す例です
  • Netflix(ストリーミング):1997年の創業時、DVD郵送レンタルから始めながら、社名に「Net」を入れ、ブロードバンドの普及と通信コストの低下(コスト曲線)によって将来は配信に移ると見込んでいました。2007年にストリーミングを開始し、自社の主力事業を自ら置き換えました (Keating, 2012)。コスト曲線の外挿と、破壊的イノベーションに自社が先に乗る判断の例です
  • Shell(シナリオプランニング):前述の通り、1970年代初頭に石油危機のシナリオを準備し、1973年のオイルショックに競合より早く対応しました (Wack, 1985)。半世紀にわたってシナリオ部門を維持している企業フォーサイトの原型です
  • 実証研究が示す企業フォーサイトの効果:欧州企業83社を7年間追跡した研究では、将来への備え(フォーサイト機能)が整っていた企業は、そうでない企業に比べて利益率が33%高く、時価総額の成長率は約2倍でした (Rohrbeck & Kum, 2018)。単発の予測ではなく、常設の探索機能を持つことが業績に結びつくという証拠です

研究者

  • Richard Hamming(ベル研究所):大きな成果を上げる研究者の共通点として「重要な問題を選ぶこと」と「ドアを開けて働くこと(周囲の情報に開かれていること)」を挙げました。Hammingは毎週金曜の午後を「重要な問題は何か、なぜ自分はそれに取り組んでいないのか」を考える時間に充て、開きつつある領域に早く入ることを勧めています (Hamming, 1986)。これはシグナル検出の常時運転と早期参入の実務版です
  • Katalin Karikó(mRNA研究):1990年代から、当時ほとんど資金がつかなかったmRNAの治療応用に取り組み続けました。所属大学での降格や研究費の不採択を経ながら、2005年にmRNAの免疫原性を抑える修飾ヌクレオシドの方法を発表し、それが2020年のmRNAワクチンの基盤となり、2023年のノーベル生理学・医学賞につながりました (Karikó et al., 2005)。研究領域の「早すぎる参入」が事業の「早すぎる参入」と異なる時間軸を持つこと、そして発明から普及までのラグが数十年に及ぶこと (Comin & Hobijn, 2010) を体現した例です
  • GPUと深層学習の研究者たち:2009年、スタンフォード大学のグループはGPUを使えば深層学習の訓練を数十倍高速化できることを示しました (Raina, Madhavan & Ng, 2009)。2012年にはトロント大学のグループが2枚のGPUで訓練したニューラルネットワークで画像認識コンペティションを圧勝し、深層学習ブームの起点となりました (Krizhevsky, Sutskever & Hinton, 2012)。並列計算のコスト崩落という技術シグナルを、多くの研究者がまだ注目していない段階で研究テーマに変換した例です
  • 実証研究が示す選び方:1,790万本の論文を分析した研究では、最もインパクトの大きい論文は「大半は定番の知識の組み合わせで、一点だけ異例の組み合わせを含む」という構成を持っていました (Uzzi et al., 2013)。新領域への賭けは高インパクトを生むが失敗率も高い (Foster, Rzhetsky & Evans, 2015) という知見と合わせると、優れた研究者は「自分の蓄積を土台に、成長しつつある隣接領域へ一歩踏み出す」という形で早期参入している、と整理できます

国家

  • シンガポール(RAHS):2004年からRAHS(リスク評価・ホライゾンスキャニング)を政府常設機能とし、弱いシグナルの検出を制度化しています。さらに2009年には首相府に戦略的未来センターを設置し、各省庁のシナリオプランニングを統括しています (Habegger, 2010)。国家規模でシグナルの探索を常時運転している例です
  • 日本(科学技術予測調査):1971年から約5年ごとに続くデルファイ調査の蓄積があり、第11回調査では約700の科学技術トピックについて数千人の専門家が実現時期を予測しました。半世紀続く世界最長のデルファイ調査です (科学技術・学術政策研究所, 2019)
  • 英国(Foresightプログラム):1994年に政府科学局のもとで開始され、分野横断の専門家パネルが10〜20年先の技術と社会の変化を検討し、政策に反映しています (Habegger, 2010)
  • 米国(DARPA):1958年、ソ連の人工衛星スプートニクへの対応として設立された国防高等研究計画局は、インターネットの原型(ARPANET)、GPS、自律走行車(2004年のグランドチャレンジ)など、市場が存在しない段階で技術領域に資金を投じ、後の巨大市場の基盤を作りました (Fuchs, 2010)。iPhoneを構成する主要技術の多くが公的研究資金に由来することも指摘されています (Mazzucato, 2013)。国家が「早すぎる参入」の時間軸を引き受ける例です
  • 台湾(ITRIとTSMC):1970年代、政府系の工業技術研究院(ITRI)が米国から半導体技術を導入し、1987年にはITRIから分離する形でTSMCを設立しました。半導体市場の長期成長と、設計と製造の分業という産業構造の変化を読み、製造専業(ファウンドリ)という当時存在しなかった層に国家として賭けた例です (Mathews, 1997)

上記4つのカテゴリーを横断する共通点としては以下のようなものがあります。

  • 単発の予測をしていない:Hammingの金曜午後、Sequoiaの市場基準、Shellのシナリオ部門、シンガポールのRAHSはいずれも、シグナルを拾い続ける仕組みを常設しています
  • 技術と規制のシグナルに早く反応している:NVIDIA、Netflix、DARPA、台湾はいずれも、コスト曲線や産業構造の変化が数字に現れる前に動いています
  • 賭けたあとも監視と更新を続けている:NVIDIAが研究者のGPU利用を確認しながら投資を続けたこと、Intelが撤退を決断したことは、いずれも予測を出したあとの検証と更新の実践です
  • 時間軸を役割に応じて使い分けている:研究者と国家は数十年、VCは10年、企業は5〜10年の時間軸で同じシグナルに反応しており、早く入る者ほど長いラグを引き受けています (Comin & Hobijn, 2010)

成長市場の予想に関する最新研究の動向

主に2010年代後半から2026年までに発表された研究を整理します。成長市場の予想をめぐる研究の見方は、この10年で次のように変わっています。

見方を変えた3つの背景

  • データと計算手法の進歩:論文・特許・求人情報・決算説明会の議事録といったテキストが機械可読になり、深層学習で大規模に処理できるようになりました。かつては専門家の判断や少数の事例研究に依存していた「新しい領域がどこに開くか」という問いが、数百万件のデータで検証される実証科学に移行しました (Bloom et al., 2021; Ebadi, Auger & Gauthier, 2022)
  • 予測トーナメントという実験基盤:米国の情報機関IARPAが2011年から実施した地政学予測トーナメントは、数千人の予測者の精度を同じ問いで測定・比較する初めての大規模データを生み、「誰が、どの方法で、どれだけ正確に予測できるか」を統計的に検証する土台になりました (Mellers et al., 2014; Tetlock, Mellers & Scoblic, 2017)
  • エネルギー転換と汎用AIという2つの技術転換:太陽光・電池のコストが主要機関の予測を一貫して上回る速さで下がったことが、予測手法の事後検証の材料を大量に提供しました (Meng et al., 2021)。同時に、大規模言語モデルの登場によって「この汎用技術はどの産業にいつ広がるか」という普及予測の需要が急増し、それ自体が研究対象になりました (Eloundou et al., 2024)

以下、各トピックで研究の動向を概観します。

技術予測

  • 経験曲線による確率予測の確立:技術のコストと性能の改善速度は予測できない、というのが長く支配的な見方でした。2010年代半ばから、50以上の技術のコスト履歴を用いて経験曲線(ライトの法則)に基づく確率予測を事後検証する研究が蓄積し、予測誤差の分布を含めて信頼区間を出せる水準にあることが示されました (Farmer & Lafond, 2016; Lafond et al., 2018)。決定的だったのは、エネルギー技術について専門家の見積もりと統計モデルの予測を事後に比較した研究で、統計モデルの方が専門家より正確であり、専門家は系統的にコスト低下を過小評価していました (Meng et al., 2021)。この知見を使って太陽光・風力・電池のコスト低下を確率的に予測すると、エネルギー転換を速く進めるほど総費用が安くなるという結論が導かれています (Way et al., 2022)
  • 市場のない技術への拡張:予測の対象は、コスト履歴のある技術から、まだ市場のない技術へ広がっています。特許データから技術分野ごとの改善率を推定する手法が開発され、1,757の技術領域について年率の改善率が予測されました (Singh, Triulzi & Magee, 2021)。新興技術そのものについても、急進的な新規性、比較的速い成長、一貫性、顕著な影響、不確実性という5つの属性で定義する枠組みが提案され (Rotolo, Hicks & Martin, 2015)、この枠組みに基づいて特許の複数指標を機械学習にかけ、後に成長した技術を早期段階で分類できることが示されています (Lee et al., 2018)。深層学習で論文・特許・ニュースのテキストから弱いシグナルを検出する手法も発展し (Zhou et al., 2020; Ebadi, Auger & Gauthier, 2022)、EUの共同研究センターは毎年の実運用に載せています (European Commission Joint Research Centre, 2024)
  • 到達点:到達点として、「その技術はいつ経済的に成立するか」「どの技術が次に立ち上がるか」という問いには、専門家の直感ではなく統計的な根拠で答えられるようになりました。後述する市場予測の限界のうち、直線外挿の罠と専門家の過小評価は、いずれもこの手法で補正できるものです。データと手法は公開されており、個人の研究者や中小企業でも同水準の探索が可能になっています

拡散と需要

  • テキストデータによる拡散の追跡:新技術の普及は、売上や普及率が統計に現れてから測るものでした。2020年代に入り、企業の決算説明会の議事録、特許、求人情報のテキストを組み合わせ、クラウドやスマートフォンなど29の破壊的技術について、どの企業・どの都市に、いつ広がったかを追跡する手法が開発されました。新技術の雇用は初期には少数の先端都市に集中し、時間とともに拡散することが示されています (Bloom et al., 2021)。求人情報を使って機械学習が「汎用技術」の条件(急速な改善、広範な産業への浸透、補完的イノベーションの誘発)を満たすかを検証した研究では、他の新興技術と比べて汎用技術としての性質が強いことが確認されました (Goldfarb, Taska & Teodoridis, 2023)。大規模言語モデルについても、職業ごとのタスク構成から影響を受ける労働市場の範囲が推定され、約80%の労働者が業務の一部に影響を受けると見積もられています (Eloundou et al., 2024)。求人と決算説明という公開データが、市場統計より数年早い先行指標として機能することが実証されたのです
  • 需要が発明を動かす因果の証明:需要の側からは、「将来の市場規模の予想が発明の方向を実際に動かしているか」という問いが因果的に検証されました。製薬産業では、人口動態から予想される将来の市場規模が大きい疾患領域ほど新薬の開発が増え (Acemoglu & Linn, 2004)、市場規模が1%拡大すると新薬の数が約0.2%増えるという弾力性が推定されています (Dubois et al., 2015)。自動車産業では、燃料価格が上昇した国のメーカーほど内燃機関ではなく電動化などのクリーン技術の特許を増やし (Aghion et al., 2016)、疾病の負担が大きい国ほどその治療薬の生産と輸出が増えるという、需要が生産立地まで動かす証拠も得られています (Costinot et al., 2019)。市場予想は「当たるか」だけでなく「他者も同じ予想をして参入するか」という競争の問題を含む、ということです
  • 科学から市場までの経路と時間:科学から市場までの経路と時間も計測されるようになりました。480万件の特許と3,200万件の論文の引用ネットワークを分析した研究は、市場価値の高い特許ほど基礎科学に近く、影響力の大きい論文ほど技術応用に近いことを示し (Ahmadpoor & Jones, 2017)、特許が引用する論文のデータベースが整備されて、どの分野の科学が産業に使われているかを大規模に追跡できるようになっています (Marx & Fuegi, 2020)。一方、汎用技術への投資が生産性に反映されるまでには、業務プロセス・人材・データといった補完的な無形資産への投資が必要で、その期間は統計上、生産性が一時的に低下して見える「Jカーブ」を描くことが示されました (Brynjolfsson, Rock & Syverson, 2021)。汎用AIについても、基盤モデルの性能向上より、業務プロセスとデータの整備が普及の律速段階になることが、この研究系譜から予想されます

研究フロンティア

  • 破壊的な成果の減少と成熟分野の硬直化:新しい研究領域はどこに開くのか、研究者はどこに賭けるべきか、という問いにも大規模データの答えが出始めています。4,500万本の論文と390万件の特許を分析した研究は、既存の知識を刷新する「破壊的」な成果の割合が全分野で低下し続けていることを示し (Park, Leahey & Funk, 2023)、大きく成熟した分野ほど新しいアイデアが定着しにくくなることも確認されました (Chu & Evans, 2021)。研究者の側では、既に確立した流行領域に集中する保守的な戦略が支配的である一方、新領域への賭けが高インパクトを生むことが数百万本の論文で示されています (Foster, Rzhetsky & Evans, 2015)
  • 新規性の評価の時間差:新規性の評価には時間差があります。異例の組み合わせを含む新規性の高い論文は、短期的には引用されにくいが長期的には高い影響力を持つ「遅れて認められる」パターンを示し (Wang, Veugelers & Stephan, 2017)、最もインパクトの大きい論文は定番の知識の組み合わせに一点だけ異例の組み合わせを含む構成を持っていました (Uzzi et al., 2013)。ただし、研究者が専門から離れたテーマへ転換すると成果のインパクトが下がる「ピボット・ペナルティ」も大規模に確認されており (Hill et al., 2025)、新領域への参入は自分の蓄積に隣接した形で行うのが合理的です
  • 到達点:総括すると、新領域は成熟した大分野の中心ではなく、分野の境界や小さな分野に開きやすいという規則性があります。研究者や発明家にとっての「成長市場」は、自分の専門に隣接し、まだ混雑していない境界領域である、というのが現在の到達点です

人間とAIの判断

  • 集約方法の比較:人間の判断を集めて予測するとき、どの集め方と集約方法が最も正確かが、予測トーナメントのデータで検証されました。参加者に確率を直接答えさせて統計的に集約する「予測調査」は、予測市場と同等以上の精度を示し (Atanasov et al., 2017)、集約の際に平均した確率を0か1の方向へ押し出す「極端化」を加えると精度が上がることも示されています (Satopää et al., 2014)。デルファイ法についても、精度を高める条件(参加者の多様性、フィードバックの質、反復回数)がレビューで整理されました (Rowe & Wright, 1999)。会議での合意形成より、匿名で確率を集めて統計的に集約する方が正確であり、予測市場の運営コストをかけなくても同等の精度が得られる、というのが実務への含意です
  • LLMの登場と限界:2023年以降、大規模言語モデル(LLM)が予測者として登場しました。12種類のLLMのアンサンブルによる予測は、925人の人間の集合知と統計的に区別できない精度を示し (Schoenegger et al., 2024a)、検索で最新情報を補強し推論手順を最適化したLLMは、個々の問いで人間の予測集団に接近しています (Halawi et al., 2024)。人間の予測者にLLMのアシスタントを与える実験では、アシスタントの有無で精度が有意に改善しました (Schoenegger et al., 2024b)。一方、継続的に更新されるベンチマークでの比較では、最先端のLLMも訓練された超予測者にはまだ及ばないことが確認されており (Karger et al., 2024)、完全自動化には距離があります
  • 到達点:到達点として、AIは探索、基準率の提示、シナリオの素案作成といった予測の前工程のコストを劇的に下げる一方、最終的な確率判断と更新の判断は、当面は訓練された人間が担う方が正確です。「AIが探索し、人間が判断し、AIが監視し、人間が更新する」という分業が、現時点の研究が示す最も精度の高い構成です。かつて国家やVCにしかできなかった水準のスキャニングが、この分業によって個人の研究者や一般の事業会社にも手が届くようになっています

成長市場予測の限界

ここまで、成長市場を見極める源泉・手法・実践・最新研究を整理してきました。最後に、市場予測に固有の限界を整理します。限界は、人間の認識、市場の構造、予測の自己言及性、データと手法、の4つに分けられます。

認識の限界

  • 専門家の予測精度:専門家の予測は、長期にわたる大規模な検証で、当てずっぽうとほぼ同水準であることが示されています。284人の専門家による約2万8千件の予測を20年間追跡した研究では、専門家の的中率は「ダーツを投げるチンパンジー」とほぼ同じで、一つの大きな理論ですべてを説明するタイプ(ハリネズミ型)ほど成績が悪く、雑多な情報を柔軟に取り込むタイプ(キツネ型)が相対的に優れていました (Tetlock, 2005)。市場予測でも、1980年代初頭にAT&Tの依頼で行われた調査は2000年時点の米国の携帯電話契約数を約90万件と予測し、実績の約1億900万件を100倍以上下回りました (The Economist, 1999)。太陽光発電についても、主要機関の導入量予測は毎年のように実績を下回り、実績が予測を上回っても翌年の予測を十分に引き上げませんでした (Creutzig et al., 2017)
  • 歪みの規則性:歪みの方向には規則性があります。第一に、技術の普及はS字カーブや指数関数で進むのに、人間は直近のトレンドを直線で伸ばすため、「2年後の変化を過大評価し、10年後の変化を過小評価する」という誤りが生じます (Gates, 1996; Rogers, 1962)。専門家がエネルギー技術のコスト低下を系統的に過小評価していたことは、統計モデルとの事後比較で確認されています (Meng et al., 2021)。第二に、破壊的イノベーションは登場時点では性能が低く市場も小さいため、既存顧客の声と既存市場のデータに基づく分析では「取るに足らない」と判定されます (Christensen, 1997)。第三に、自分の案件を「内側から」積み上げて予測すると、計画錯誤(planning fallacy)により系統的に楽観に歪みます。258件の公共事業の分析では9割が費用を過小に見積もっていました (Kahneman & Tversky, 1979; Flyvbjerg, Holm & Buhl, 2002)
  • 研究者の保守性:研究者にも同型の歪みがあります。研究者は既に確立した流行領域に集中する保守的な戦略を取りがちですが、新領域への賭けは失敗率が高い一方で成功時のインパクトは大きく、集団としては保守的な選択が過剰であることが数百万本の論文で示されています (Foster, Rzhetsky & Evans, 2015)。既に成長が誰の目にも明らかな領域では競争が激しく早期参入の利得は失われており、コンセンサスから外れた予測にしか超過リターンはありません (Thiel & Masters, 2014)

構造の限界

  • リスクと不確実性の区別:予測できる「リスク」と予測できない「不確実性」は区別されてきました。過去の頻度から確率を計算できるリスクに対し、参照できる過去が存在しない不確実性(ナイトの不確実性)には確率そのものが定義できず、新しい市場の立ち上がりはしばしば後者に属します (Knight, 1921)。さらに、結果の分布が正規分布から大きく外れる領域では、稀な出来事が結果の大半を決めるため、平均的な予測は体系的に外れます。ベンチャー投資や発明の価値がまさにこの分布を持つことは、実証的に確認されています (Taleb, 2007; Scherer & Harhoff, 2000; Kerr, Nanda & Rhodes-Kropf, 2014)
  • 収穫逓増と経路依存:収穫逓増と経路依存が働く市場では、初期の小さな偶然が勝者を決め、事前には予測できません。ネットワーク効果や学習効果によって先に普及した技術が優位を強めるため、技術的に劣る規格が市場を制することもあります。この過程は理論的にモデル化され (Arthur, 1989)、キーボード配列のQWERTYが技術的に最適でないまま定着した歴史で例証されています (David, 1985)。「どの市場が成長するか」は予測できても、「その市場で誰が勝つか」は構造的に予測が難しい、ということです
  • バブルの構造的な組み込み:汎用技術の展開には、熱狂とバブルの局面が構造的に組み込まれています。産業革命以来の5つの技術革命は、いずれも導入期に金融資本が過剰に流入してバブルを形成し、崩壊を経て展開期に入りました (Perez, 2002)。市場の成長を正しく予測しても、バブルの局面で参入・投資すれば損失を被ります。予測の正しさと、参入時期・価格の正しさは、別に検証する必要があります

自己言及の限界

  • 自己成就的予言:社会現象の予測は、予測されること自体が対象の行動を変えます。この「自己成就的予言」の構造は社会学の古典的な指摘であり (Merton, 1948)、市場予測にも直接あてはまります。「この市場は成長する」という予想が広く共有されると参入が殺到し、成長は実現する一方で、参入者一人あたりの利得は消えます。将来の市場規模の予想が発明と参入を実際に動かすことは、製薬や自動車の産業で因果的に確認されています (Acemoglu & Linn, 2004; Dubois et al., 2015; Aghion et al., 2016)
  • 織り込み済みの問題:投資の文脈では、この限界は「織り込み済み」の問題として現れます。公開情報に基づく予想は既に価格に反映されているため、誰もが知る成長は超過リターンを生みません (Fama, 1970)。成長産業・成長企業への投資が期待に反して低リターンに終わる「成長の罠」は、成長への期待が株価に織り込まれ、割高な価格を払ってしまうことに起因します (Siegel, 2005)。成長を見抜くことと、その成長から利得を得ることは、別の問題です
  • グッドハートの法則:指標を目標にすると、指標は指標としての価値を失います。「ある統計量が政策目標になると、統計量としての信頼性を失う」というこの法則は (Goodhart, 1984)、先行指標にもあてはまります。特許出願数や求人数が「成長市場のシグナル」として広く知られれば、それを意識した出願や求人が増え、シグナルはノイズに変わります。先行指標は、それが指標として認知される前の期間にだけ、最も高い予測力を持ちます

データと手法の限界

  • 新市場にはデータがない:定量的な手法は過去のデータを必要としますが、新しい市場には定義上、過去がありません。普及モデルの係数は普及率が10〜20%に達するまで安定して推定できず (Bass, 1969; Sultan, Farley & Lehmann, 1990)、それ以前は類似事例の係数を借りる参照クラス予測に頼ることになります (Kahneman & Tversky, 1979)。しかし、何を「類似」とみなすかの選択が結果を左右し、その選択自体が予測者の判断に依存します。統計モデルが専門家を上回るという知見 (Meng et al., 2021) は、コスト履歴が数十年分ある技術についての結論であり、履歴のない技術には直接には適用できません
  • 機械学習のレジーム転換への弱さ:機械学習は過去のパターンにしか学べず、構造が変わる局面(レジーム転換)に弱いという限界があります。10万系列の時系列を用いた大規模な予測コンペティションでは、純粋な機械学習手法は単純な統計手法を下回り、複数手法の組み合わせが最も正確でした (Makridakis, Spiliotis & Assimakopoulos, 2018; Makridakis et al., 2020)。大規模言語モデルについても、人間の集合知に匹敵するという報告と同時に、継続的に更新されるベンチマークでは訓練された超予測者にまだ及ばないことが確認されています (Schoenegger et al., 2024a; Karger et al., 2024)
  • シグナル検出の偽陽性:シグナル検出には偽陽性の問題がつきまといます。新興技術の定義そのものが不確実性を含み (Rotolo, Hicks & Martin, 2015)、注目を集めた技術がその後に失速する「ハイプ」は珍しくありません。技術の期待の推移を描く「ハイプサイクル」は実務で広く使われていますが、その形状が実証的に一般化できるかについては研究上の裏づけが弱いことが指摘されています (Dedehayir & Steinert, 2016)。弱いシグナルの大半は、事後的に見れば何にもつながらなかったノイズです

限界を踏まえた到達点

  • 確率・更新・組み合わせ:以上の限界は、予測を放棄する理由ではなく、予測の使い方を変える理由です。第一に、予測の出力は点ではなく確率分布であり、幅を持って扱う必要があります。第二に、確率は新しい情報が入るたびに更新するものであり、一度出した予測に固執することが最大の失敗要因です。訓練された予測者が情報分析官を約30%上回った差は、主にこの更新の習慣から生まれています (Mellers et al., 2014; Tetlock & Gardner, 2015)。第三に、単一の手法に頼らず複数を組み合わせることが、半世紀の予測研究と最新のコンペティションの双方で一貫して支持されている結論です (Armstrong, 2001; Makridakis et al., 2020)
  • フォーサイトによる補完:予測(forecasting)で扱えない不確実性は、フォーサイト(foresight)で備えます。当てられない未来については、複数のシナリオを描いて先行指標を監視し、どのシナリオが来ても対応できる意思決定を準備する方が、一本の予測に賭けるより合理的です (Schoemaker, 1995; Wack, 1985)。予測が外れるのは方法が悪いからであり、方法は改善できます。ただし、改善された方法にも限界があり、その限界を前提にした意思決定の設計が、予測の次の工程になります

おわりに

このように成長市場を見つけるためのアプローチについて整理しました。ここで整理した方法は、確実に成長市場を予測することはできないものの、科学的なアプローチによって、可能な限り高い確率で予測することができることを示しています。今後のAI時代において、どのような市場になっていくのか予測するためのアプローチとして活用できると考えられます。

参考文献

  • Acemoglu, D., & Linn, J. (2004). Market size in innovation: Theory and evidence from the pharmaceutical industry. Quarterly Journal of Economics, 119(3), 1049–1090.(人口動態から予想される市場規模が新薬開発の方向を決めることを実証した論文)
  • Aghion, P., Dechezleprêtre, A., Hémous, D., Martin, R., & Van Reenen, J. (2016). Carbon taxes, path dependency, and directed technical change: Evidence from the auto industry. Journal of Political Economy, 124(1), 1–51.(燃料価格の上昇が自動車メーカーのクリーン技術特許を増やすことを実証した論文)
  • Aguilar, F. J. (1967). Scanning the business environment. Macmillan.(企業の外部環境スキャニングを体系化し、PEST分析の原型となった著作)
  • Ahmadpoor, M., & Jones, B. F. (2017). The dual frontier: Patented inventions and prior scientific advance. Science, 357(6351), 583–587.(特許と論文の引用ネットワークから科学と技術の距離を測定し、市場価値の高い特許が基礎科学に近いことを示した論文)
  • Andreessen, M. (2011, August 20). Why software is eating the world. The Wall Street Journal.(ソフトウェアがあらゆる産業を再編するという投資テーゼを示した論説)
  • Ansoff, H. I. (1975). Managing strategic surprise by response to weak signals. California Management Review, 18(2), 21–33.(大きな変化に先行する「弱いシグナル」への対応を提唱した論文)
  • Armstrong, J. S. (Ed.). (2001). Principles of forecasting: A handbook for researchers and practitioners. Kluwer Academic Publishers.(予測研究の原則を集大成し、手法の組み合わせが精度を高めることを示したハンドブック)
  • Arrow, K. J., Forsythe, R., Gorham, M., Hahn, R., Hanson, R., Ledyard, J. O., Levmore, S., Litan, R., Milgrom, P., Nelson, F. D., Neumann, G. R., Ottaviani, M., Schelling, T. C., Shiller, R. J., Smith, V. L., Snowberg, E., Sunstein, C. R., Tetlock, P. C., Tetlock, P. E., … Zitzewitz, E. (2008). The promise of prediction markets. Science, 320(5878), 877–878.(予測市場の有効性と政策的な可能性を論じた論文)
  • Arthur, W. B. (1989). Competing technologies, increasing returns, and lock-in by historical events. Economic Journal, 99(394), 116–131.(収穫逓増のもとで初期の偶然が勝者を決め、事前予測が困難になることを理論化した論文)
  • Atanasov, P., Rescober, P., Stone, E., Swift, S. A., Servan-Schreiber, E., Tetlock, P., Ungar, L., & Mellers, B. (2017). Distilling the wisdom of crowds: Prediction markets vs. prediction polls. Management Science, 63(3), 691–706.(統計的に集約した予測調査が予測市場と同等以上の精度を示すことを実証した論文)
  • Bass, F. M. (1969). A new product growth for model consumer durables. Management Science, 15(5), 215–227.(新製品の普及を革新係数と模倣係数で定式化したBassモデルの原論文)
  • Bass, F. M., Gordon, K., Ferguson, T. L., & Githens, M. L. (2001). DIRECTV: Forecasting diffusion of a new technology prior to product launch. Interfaces, 31(3), S82–S93.(発売前にBassモデルで衛星放送の加入者数を予測し、実績とほぼ一致したことを報告した論文)
  • Bloom, N., Hassan, T. A., Kalyani, A., Lerner, J., & Tahoun, A. (2021). The diffusion of disruptive technologies (NBER Working Paper No. 28999). National Bureau of Economic Research.(決算説明・特許・求人のテキストから29の破壊的技術の企業間・地域間の拡散を追跡した論文)
  • Boston Consulting Group. (1968). Perspectives on experience. Boston Consulting Group.(ライトの法則を「経験曲線」として経営戦略に持ち込んだ報告書)
  • Bresnahan, T. F., & Trajtenberg, M. (1995). General purpose technologies: 'Engines of growth'? Journal of Econometrics, 65(1), 83–108.(汎用技術が補完的イノベーションの連鎖を通じて成長を生むことを示した論文)
  • Bryar, C., & Carr, B. (2021). Working backwards: Insights, stories, and secrets from inside Amazon. St. Martin's Press.(Amazonの顧客起点の逆算プロセスを内部者が解説した著作)
  • Brynjolfsson, E., Rock, D., & Syverson, C. (2021). The productivity J-curve: How intangibles complement general purpose technologies. American Economic Journal: Macroeconomics, 13(1), 333–372.(汎用技術への投資が補完的な無形資産の整備を経て生産性に反映されるまでのJカーブを示した論文)
  • Chen, K.-Y., & Plott, C. R. (2002). Information aggregation mechanisms: Concept, design and implementation for a sales forecasting problem (Social Science Working Paper No. 1131). California Institute of Technology.(HP社内の予測市場が公式の売上予測を上回ったことを報告した論文)
  • Christensen, C. M. (1997). The innovator's dilemma: When new technologies cause great firms to fail. Harvard Business School Press.(破壊的イノベーションが既存企業の市場分析から見えない理由を示した著作)
  • Christensen, C. M., Hall, T., Dillon, K., & Duncan, D. S. (2016). Know your customers' "jobs to be done". Harvard Business Review, 94(9), 54–62.(顧客の「片付けたい用事」から市場を再定義するジョブ理論を解説した論文)
  • Chu, J. S. G., & Evans, J. A. (2021). Slowed canonical progress in large fields of science. Proceedings of the National Academy of Sciences, 118(41), e2021636118.(大きく成熟した分野ほど新しいアイデアが定着しにくくなることを示した論文)
  • Collantes, G., & Sperling, D. (2008). The origin of California's zero emission vehicle mandate. Transportation Research Part A: Policy and Practice, 42(10), 1302–1313.(1990年のカリフォルニア州ZEV規制の成立過程を分析し、規制がEV市場を誘導した起点を示した論文)
  • Comin, D., & Hobijn, B. (2010). An exploration of technology diffusion. American Economic Review, 100(5), 2031–2059.(発明から普及までのラグが平均45年に及び、その差が国の所得格差を説明することを示した論文)
  • Costinot, A., Donaldson, D., Kyle, M., & Williams, H. (2019). The more we die, the more we sell? A simple test of the home-market effect. Quarterly Journal of Economics, 134(2), 843–894.(疾病負担の大きい国ほどその治療薬の生産と輸出が増えることを示し、需要が生産立地を動かすことを実証した論文)
  • Cowgill, B., & Zitzewitz, E. (2015). Corporate prediction markets: Evidence from Google, Ford, and Firm X. Review of Economic Studies, 82(4), 1309–1341.(GoogleとFordの社内予測市場が校正された確率として機能し、公式予測の楽観バイアスを補正したことを示した論文)
  • Creutzig, F., Agoston, P., Goldschmidt, J. C., Luderer, G., Nemet, G., & Pietzcker, R. C. (2017). The underestimated potential of solar energy to mitigate climate change. Nature Energy, 2, 17140.(主要機関の太陽光導入量予測が系統的に過小評価を続けた原因を分析した論文)
  • Dalkey, N., & Helmer, O. (1963). An experimental application of the Delphi method to the use of experts. Management Science, 9(3), 458–467.(デルファイ法の最初の実験的適用を報告した論文)
  • David, P. A. (1985). Clio and the economics of QWERTY. American Economic Review, 75(2), 332–337.(QWERTY配列の定着を例に、経路依存によって技術的に最適でない規格が市場を制することを示した論文)
  • David, P. A. (1990). The dynamo and the computer: An historical perspective on the modern productivity paradox. American Economic Review, 80(2), 355–361.(電力の生産性効果が約40年遅れた歴史から、汎用技術の時間構造を示した論文)
  • Day, G. S., & Schoemaker, P. J. H. (2006). Peripheral vision: Detecting the weak signals that will make or break your company. Harvard Business School Press.(組織が弱いシグナルを見落とす理由と、周辺視野を高める方法を示した著作)
  • Dedehayir, O., & Steinert, M. (2016). The hype cycle model: A review and future directions. Technological Forecasting and Social Change, 108, 28–41.(ハイプサイクルの形状が実証的に一般化できるかについて研究上の裏づけが弱いことを整理したレビュー)
  • Drucker, P. F. (1997). The future that has already happened. Harvard Business Review, 75(5), 20–24.(人口動態を「すでに起こった未来」として予測に使う考え方を示した論文)
  • Dubois, P., de Mouzon, O., Scott-Morton, F., & Seabright, P. (2015). Market size and pharmaceutical innovation. RAND Journal of Economics, 46(4), 844–871.(市場規模1%の拡大が新薬数を約0.2%増やすという弾力性を推定した論文)
  • Ebadi, A., Auger, A., & Gauthier, Y. (2022). Detecting emerging technologies and their evolution using deep learning and weak signal analysis. Journal of Informetrics, 16(4), 101344.(深層学習と弱いシグナル分析で新興技術を検出する手法を示した論文)
  • The Economist. (1999, October 7). Cutting the cord.(1980年代の携帯電話市場予測が実績を100倍以上下回った事例を報じた記事)
  • Eloundou, T., Manning, S., Mishkin, P., & Rock, D. (2024). GPTs are GPTs: Labor market impact potential of LLMs. Science, 384(6702), 1306–1308.(大規模言語モデルが影響を与える労働市場の範囲を職業のタスク構成から推定した論文)
  • European Commission Joint Research Centre. (2024). Weak signals in science and technologies 2024. Publications Office of the European Union.(EUが毎年実運用している弱いシグナル検出の報告書)
  • Fama, E. F. (1970). Efficient capital markets: A review of theory and empirical work. Journal of Finance, 25(2), 383–417.(公開情報は既に価格に反映されているとする効率的市場仮説を整理した論文)
  • Farmer, J. D., & Lafond, F. (2016). How predictable is technological progress? Research Policy, 45(3), 647–665.(経験曲線に基づく技術コストの確率予測が実用精度を持つことを示した論文)
  • Felin, T., & Zenger, T. R. (2017). The theory-based view: Economic actors as theorists. Strategy Science, 2(4), 258–271.(市場の有望性は企業独自の理論によって初めて見えるとする理論ベース戦略観を提示した論文)
  • Flyvbjerg, B. (2006). From Nobel Prize to project management: Getting risks right. Project Management Journal, 37(3), 5–15.(参照クラス予測を実務に適用し、計画錯誤への対処法を示した論文)
  • Flyvbjerg, B., Holm, M. S., & Buhl, S. (2002). Underestimating costs in public works projects: Error or lie? Journal of the American Planning Association, 68(3), 279–295.(258件のインフラ事業で9割が費用超過していることを示し、参照クラス予測の必要性を裏づけた論文)
  • Forsythe, R., Nelson, F., Neumann, G. R., & Wright, J. (1992). Anatomy of an experimental political stock market. American Economic Review, 82(5), 1142–1161.(アイオワ電子市場が世論調査より正確に選挙結果を予測したことを報告した論文)
  • Foster, J. G., Rzhetsky, A., & Evans, J. A. (2015). Tradition and innovation in scientists' research strategies. American Sociological Review, 80(5), 875–908.(研究者の保守的なテーマ選択が支配的である一方、新領域への賭けが高インパクトを生むことを数百万本の論文で示した論文)
  • Fuchs, E. R. H. (2010). Rethinking the role of the state in technology development: DARPA and the case for embedded network governance. Research Policy, 39(9), 1133–1147.(DARPAが市場の存在しない段階で技術領域に投資する仕組みを分析した論文)
  • Garfield, E. (1955). Citation indexes for science: A new dimension in documentation through association of ideas. Science, 122(3159), 108–111.(論文の引用索引を提案し、科学計量学の基礎を作った論文)
  • Gates, B. (1996). The road ahead (Rev. ed.). Penguin Books.(短期の変化を過大評価し長期の変化を過小評価する人間の傾向を指摘した著作)
  • Goldfarb, A., Taska, B., & Teodoridis, F. (2023). Could machine learning be a general purpose technology? A comparison of emerging technologies using data from online job postings. Research Policy, 52(1), 104653.(求人情報を用いて機械学習が汎用技術の条件を満たすかを検証した論文)
  • Goldin, C. (2006). The quiet revolution that transformed women's employment, education, and family. American Economic Review, 96(2), 1–21.(女性の就業とキャリア形成の拡大を「静かな革命」として分析した論文)
  • Gompers, P. A., Gornall, W., Kaplan, S. N., & Strebulaev, I. A. (2020). How do venture capitalists make decisions? Journal of Financial Economics, 135(1), 169–190.(885人のVCへの調査で投資判断の要因と重み付けを明らかにした論文)
  • Goodhart, C. A. E. (1984). Monetary theory and practice: The UK experience. Macmillan.(統計量が政策目標になると指標としての信頼性を失うという「グッドハートの法則」を示した著作)
  • Goodwin, P., Dyussekeneva, K., & Meeran, S. (2013). The use of analogies in forecasting the annual sales of new electronics products. IMA Journal of Management Mathematics, 24(4), 407–423.(類似製品のアナロジーを使った新製品の売上予測が判断だけの予測より正確であることを示した論文)
  • Graham, P. (2012). How to get startup ideas. Y Combinator.(「未来に住み、欠けているものを作れ」という起業アイデアの発見法を示したエッセイ)
  • Griliches, Z. (1957). Hybrid corn: An exploration in the economics of technological change. Econometrica, 25(4), 501–522.(ハイブリッドトウモロコシの普及S字カーブを計量的に分析し、普及速度が収益性に比例することを示した論文)
  • Gross, B. (2015). The single biggest reason why start-ups succeed [Video]. TED Conferences.(200社超の分析からタイミングが成功の最大要因であることを示した講演)
  • Grove, A. S. (1996). Only the paranoid survive: How to exploit the crisis points that challenge every company. Currency Doubleday.(PC産業が垂直統合から水平分業へ転換した際の利益の移動を当事者が分析した著作)
  • Habegger, B. (2010). Strategic foresight in public policy: Reviewing the experiences of the UK, Singapore, and the Netherlands. Futures, 42(1), 49–58.(シンガポールRAHSを含む各国政府のフォーサイト制度を比較した論文)
  • Halawi, D., Zhang, F., Yueh-Han, C., & Steinhardt, J. (2024). Approaching human-level forecasting with language models. arXiv preprint arXiv:2402.18563.(検索で情報を補強したLLMが人間の予測集団に接近する精度を示した論文)
  • Hall, B. H., Jaffe, A., & Trajtenberg, M. (2005). Market value and patent citations. RAND Journal of Economics, 36(1), 16–38.(被引用数の多い特許ほど企業価値への寄与が大きいことを実証した論文)
  • Hamming, R. W. (1986). You and your research [Lecture]. Bell Communications Research Colloquium Seminar.(大きな成果を生む研究者は重要な問題を選び、開きつつある領域に早く入ると論じた講演)
  • Hayek, F. A. (1945). The use of knowledge in society. American Economic Review, 35(4), 519–530.(価格が分散した知識を集約する機能を持つことを論じた、予測市場の理論的基礎となる論文)
  • Hill, R., Yin, Y., Stein, C., Wang, X., Wang, D., & Jones, B. F. (2025). The pivot penalty in research. Nature, 642, 999–1006.(研究者が専門から離れたテーマへ転換するとインパクトが下がることを大規模データで示した論文)
  • Jacobsson, S., & Lauber, V. (2006). The politics and policy of energy system transformation—explaining the German diffusion of renewable energy technology. Energy Policy, 34(3), 256–276.(ドイツの再生可能エネルギー法の成立過程と、それが太陽光市場を立ち上げた経緯を分析した論文)
  • Kahn, H., & Wiener, A. J. (1967). The year 2000: A framework for speculation on the next thirty-three years. Macmillan.(RAND研究所発のシナリオ手法を体系化した、シナリオプランニングの原典)
  • Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Intuitive prediction: Biases and corrective procedures. TIMS Studies in Management Science, 12, 313–327.(計画錯誤と、外部視点(参照クラス)による修正手続きを提示した論文)
  • Karger, E., Bastani, H., Yueh-Han, C., Jacobs, Z., Halawi, D., Zhang, F., & Tetlock, P. E. (2024). ForecastBench: A dynamic benchmark of AI forecasting capabilities. arXiv preprint arXiv:2409.19839.(継続更新されるベンチマークで最先端LLMがまだ超予測者に及ばないことを示した論文)
  • Karikó, K., Buckstein, M., Ni, H., & Weissman, D. (2005). Suppression of RNA recognition by Toll-like receptors: The impact of nucleoside modification and the evolutionary origin of RNA. Immunity, 23(2), 165–175.(mRNAワクチンの基盤となった修飾ヌクレオシドの方法を示し、2023年ノーベル賞の対象となった論文)
  • Keating, G. (2012). Netflixed: The epic battle for America's eyeballs. Portfolio/Penguin.(Netflixが創業時から配信への移行を見込み、自社の主力事業を置き換えた経緯を描いた著作)
  • Kerr, W. R., Nanda, R., & Rhodes-Kropf, M. (2014). Entrepreneurship as experimentation. Journal of Economic Perspectives, 28(3), 25–48.(VCのリターンが少数の大成功に依存する偏った分布を持ち、投資が実験として機能することを示した論文)
  • Kharas, H. (2017). The unprecedented expansion of the global middle class: An update (Global Economy & Development Working Paper No. 100). Brookings Institution.(世界の中間層人口の急拡大とアジアへの集中を推計した論文)
  • Knight, F. H. (1921). Risk, uncertainty and profit. Houghton Mifflin.(確率を計算できるリスクと計算できない不確実性を区別した経済学の古典)
  • Krizhevsky, A., Sutskever, I., & Hinton, G. E. (2012). ImageNet classification with deep convolutional neural networks. Advances in Neural Information Processing Systems, 25, 1097–1105.(GPUで訓練した深層ニューラルネットワークが画像認識で圧勝し、深層学習ブームの起点となった論文)
  • Lafond, F., Bailey, A. G., Bakker, J. D., Rebois, D., Zadourian, R., McSharry, P., & Farmer, J. D. (2018). How well do experience curves predict technological progress? A method for making distributional forecasts. Technological Forecasting and Social Change, 128, 104–117.(経験曲線に基づく確率分布予測の手法を提案し、50以上の技術で検証した論文)
  • Lee, C., Kwon, O., Kim, M., & Kwon, D. (2018). Early identification of emerging technologies: A machine learning approach using multiple patent indicators. Technological Forecasting and Social Change, 127, 291–303.(複数の特許指標と機械学習で新興技術を早期に特定する手法を示した論文)
  • Lee, J., Veloso, F. M., & Hounshell, D. A. (2011). Linking induced technological change, and environmental regulation: Evidence from patenting in the U.S. auto industry. Research Policy, 40(9), 1240–1252.(米国の排ガス規制が自動車産業の排ガス浄化技術の特許出願を誘発したことを実証した論文)
  • Levitt, T. (1983). The marketing imagination. Free Press.(「顧客はドリルではなく穴を欲しがっている」という洞察を広めた著作)
  • Lilien, G. L., Morrison, P. D., Searls, K., Sonnack, M., & von Hippel, E. (2002). Performance assessment of the lead user idea-generation process for new product development. Management Science, 48(8), 1042–1059.(3M社でリードユーザー法が通常手法の約8倍の売上ポテンシャルを生んだことを示した論文)
  • Makridakis, S., Spiliotis, E., & Assimakopoulos, V. (2018). Statistical and machine learning forecasting methods: Concerns and ways forward. PLoS ONE, 13(3), e0194889.(純粋な機械学習手法が単純な統計手法を下回ることを示し、予測における機械学習の限界を整理した論文)
  • Makridakis, S., Spiliotis, E., & Assimakopoulos, V. (2020). The M4 Competition: 100,000 time series and 61 forecasting methods. International Journal of Forecasting, 36(1), 54–74.(10万系列の予測コンペティションで複数手法の組み合わせが最も正確であったことを報告した論文)
  • Marx, M., & Fuegi, A. (2020). Reliance on science: Worldwide front-page patent citations to scientific articles. Strategic Management Journal, 41(9), 1572–1594.(特許が引用する論文のデータベースを構築し、科学と産業の接続を大規模に追跡可能にした論文)
  • Mathews, J. A. (1997). A Silicon Valley of the East: Creating Taiwan's semiconductor industry. California Management Review, 39(4), 26–54.(台湾政府がITRIとTSMCを通じて半導体産業を創出した過程を分析した論文)
  • Mazzucato, M. (2013). The entrepreneurial state: Debunking public vs. private sector myths. Anthem Press.(iPhoneを構成する主要技術の多くが公的研究資金に由来することを示し、国家の先行投資の役割を論じた著作)
  • Mellers, B., Ungar, L., Baron, J., Ramos, J., Gurcay, B., Fincher, K., Scott, S. E., Moore, D., Atanasov, P., Swift, S. A., Murray, T., Stone, E., & Tetlock, P. E. (2014). Psychological strategies for winning a geopolitical forecasting tournament. Psychological Science, 25(5), 1106–1115.(訓練・チーム化・確率更新が予測精度を大幅に高めることを予測トーナメントで実証した論文)
  • Meng, J., Way, R., Verdolini, E., & Diaz Anadon, L. (2021). Comparing expert elicitation and model-based probabilistic technology cost forecasts for the energy transition. Proceedings of the National Academy of Sciences, 118(27), e1917165118.(エネルギー技術のコスト予測で統計モデルが専門家の見積もりを上回り、専門家がコスト低下を過小評価することを示した論文)
  • Merton, R. K. (1948). The self-fulfilling prophecy. Antioch Review, 8(2), 193–210.(予測が対象の行動を変えて自らを実現させる「自己成就的予言」を定式化した論文)
  • Myers, K. (2020). The elasticity of science. American Economic Journal: Applied Economics, 12(4), 103–134.(使途指定の研究資金に応じて研究者がテーマを移動することをNIHデータで実証した論文)
  • Nagy, B., Farmer, J. D., Bui, Q. M., & Trancik, J. E. (2013). Statistical basis for predicting technological progress. PLoS ONE, 8(2), e52669.(62の技術データでライトの法則の予測力を検証した論文)
  • Park, M., Leahey, E., & Funk, R. J. (2023). Papers and patents are becoming less disruptive over time. Nature, 613, 138–144.(4,500万本の論文と390万件の特許で破壊的な成果の割合が低下し続けていることを示した論文)
  • Perez, C. (2002). Technological revolutions and financial capital: The dynamics of bubbles and golden ages. Edward Elgar.(技術革命が導入期・バブル・転換点・展開期を辿ることを5つの波で示した著作)
  • Popp, D. (2002). Induced innovation and energy prices. American Economic Review, 92(1), 160–180.(エネルギー価格の上昇が省エネ技術の特許出願を誘発することを実証した論文)
  • Porter, M. E., & van der Linde, C. (1995). Toward a new conception of the environment-competitiveness relationship. Journal of Economic Perspectives, 9(4), 97–118.(適切に設計された規制がイノベーションと新市場を促すことを論じた論文)
  • Raina, R., Madhavan, A., & Ng, A. Y. (2009). Large-scale deep unsupervised learning using graphics processors. Proceedings of the 26th Annual International Conference on Machine Learning, 873–880.(GPUが深層学習の訓練を大幅に高速化することを示し、GPU計算への需要の先行シグナルとなった論文)
  • Rogers, E. M. (1962). Diffusion of innovations. Free Press.(イノベーションの普及がS字カーブを描くことを示した普及理論の原典)
  • Rohrbeck, R., & Kum, M. E. (2018). Corporate foresight and its impact on firm performance: A longitudinal analysis. Technological Forecasting and Social Change, 129, 105–116.(フォーサイト機能を持つ企業が7年後に高い利益率と成長率を示したことを実証した論文)
  • Rohrbeck, R., Battistella, C., & Huizingh, E. (2015). Corporate foresight: An emerging field with a rich tradition. Technological Forecasting and Social Change, 101, 1–9.(企業フォーサイトの研究領域を整理し、予測との関係を位置づけた論文)
  • Rotolo, D., Hicks, D., & Martin, B. R. (2015). What is an emerging technology? Research Policy, 44(10), 1827–1843.(新興技術を5つの属性で定義し、後続研究の共通の枠組みを与えた論文)
  • Rowe, G., & Wright, G. (1999). The Delphi technique as a forecasting tool: Issues and analysis. International Journal of Forecasting, 15(4), 353–375.(デルファイ法の予測精度を実証研究のレビューで検証した論文)
  • Ryan, B., & Gross, N. C. (1943). The diffusion of hybrid seed corn in two Iowa communities. Rural Sociology, 8(1), 15–24.(イノベーションの採用がS字カーブを描くことを最初に発見した普及研究の原点)
  • Satopää, V. A., Baron, J., Foster, D. P., Mellers, B. A., Tetlock, P. E., & Ungar, L. H. (2014). Combining multiple probability predictions using a simple logit model. International Journal of Forecasting, 30(2), 344–356.(集団の確率予測を極端化して集約すると精度が上がることを示した論文)
  • Scherer, F. M., & Harhoff, D. (2000). Technology policy for a world of skew-distributed outcomes. Research Policy, 29(4–5), 559–566.(発明の経済的価値が極端に偏った分布を持ち、少数が価値の大半を占めることを示した論文)
  • Schmookler, J. (1966). Invention and economic growth. Harvard University Press.(発明の方向が需要の大きさに反応することを示した需要牽引説の古典)
  • Schoemaker, P. J. H. (1995). Scenario planning: A tool for strategic thinking. Sloan Management Review, 36(2), 25–40.(シナリオプランニングの手順と戦略的意義を整理した論文)
  • Schoemaker, P. J. H., & Day, G. S. (2009). How to make sense of weak signals. MIT Sloan Management Review, 50(3), 81–89.(弱いシグナルを組織的に検出し解釈する方法を示した論文)
  • Schoenegger, P., Park, P. S., Karger, E., Trott, S., & Tetlock, P. E. (2024b). AI-augmented predictions: LLM assistants improve human forecasting accuracy. arXiv preprint arXiv:2402.07862.(LLMのアシスタントを与えられた人間の予測精度が有意に改善することを示した論文)
  • Schoenegger, P., Tuminauskaite, I., Park, P. S., & Tetlock, P. E. (2024a). Wisdom of the silicon crowd: LLM ensemble prediction capabilities rival human crowd accuracy. Science Advances, 10(45), eadp1528.(LLMのアンサンブルが人間の集合知に匹敵する予測精度を示した論文)
  • Schwartz, P. (1991). The art of the long view: Planning for the future in an uncertain world. Doubleday.(Shell社のシナリオプランニングの実践を体系化し、1986年の原油価格暴落への備えを描いた著作)
  • Siegel, J. J. (2005). The future for investors: Why the tried and the true triumph over the bold and the new. Crown Business.(成長産業への投資が低リターンに終わる「成長の罠」を長期データで示した著作)
  • Singh, A., Triulzi, G., & Magee, C. L. (2021). Technological improvement rate predictions for all technologies: Use of patent data and an extended domain description. Research Policy, 50(9), 104294.(特許データから1,757の技術領域の年率改善率を予測した論文)
  • Sultan, F., Farley, J. U., & Lehmann, D. R. (1990). A meta-analysis of applications of diffusion models. Journal of Marketing Research, 27(1), 70–77.(213件のBassモデル応用研究をメタ分析し、革新係数と模倣係数の典型値を示した論文)
  • Taleb, N. N. (2007). The black swan: The impact of the highly improbable. Random House.(結果の分布が正規分布から外れる領域では稀な出来事が結果を支配し平均的な予測が外れることを論じた著作)
  • Tetlock, P. E. (2005). Expert political judgment: How good is it? How can we know? Princeton University Press.(専門家の予測精度を20年間追跡し、その限界と改善可能性を示した著作)
  • Tetlock, P. E., & Gardner, D. (2015). Superforecasting: The art and science of prediction. Crown.(予測を訓練可能なスキルとして体系化した著作)
  • Tetlock, P. E., Mellers, B. A., & Scoblic, J. P. (2017). Bringing probability judgments into policy debates via forecasting tournaments. Science, 355(6324), 481–483.(予測トーナメントを政策論争に確率的思考を持ち込む手段として提案した論文)
  • Thiel, P., & Masters, B. (2014). Zero to one: Notes on startups, or how to build the future. Crown Business.(コンセンサスから外れた「隠れた真実」への投資を論じた著作)
  • Uzzi, B., Mukherjee, S., Stringer, M., & Jones, B. (2013). Atypical combinations and scientific impact. Science, 342(6157), 468–472.(高インパクト論文が定番の知識に一点の異例な組み合わせを加えた構成を持つことを示した論文)
  • Valentine, D. (2010). View from the top [Lecture]. Stanford Graduate School of Business.(Sequoia Capital創業者が市場の大きさを投資判断の第一基準とする考え方を語った講演)
  • von Hippel, E. (1976). The dominant role of users in the scientific instrument innovation process. Research Policy, 5(3), 212–239.(科学機器のイノベーションの77%がユーザーによるものであることを示し、リードユーザー法の原点となった論文)
  • von Hippel, E. (1986). Lead users: A source of novel product concepts. Management Science, 32(7), 791–805.(先端ユーザーが将来の需要を先取りすることを示したリードユーザー法の原論文)
  • von Hippel, E., Thomke, S., & Sonnack, M. (1999). Creating breakthroughs at 3M. Harvard Business Review, 77(5), 47–57.(3Mの医療事業部がリードユーザー法で新製品コンセプトを得た過程を報告した論文)
  • Wack, P. (1985). Scenarios: Uncharted waters ahead. Harvard Business Review, 63(5), 72–89.(Shell社のシナリオプランニングの実践を当事者が報告した論文)
  • Wang, J., Veugelers, R., & Stephan, P. (2017). Bias against novelty in science: A cautionary tale for users of bibliometric indicators. Research Policy, 46(8), 1416–1436.(新規性の高い論文が短期的に過小評価され長期的に高い影響力を持つことを示した論文)
  • Way, R., Ives, M. C., Mealy, P., & Farmer, J. D. (2022). Empirically grounded technology forecasts and the energy transition. Joule, 6(9), 2057–2082.(経験曲線に基づく確率予測から、エネルギー転換を速く進めるほど総費用が安くなることを示した論文)
  • Wetterstrand, K. A. (2023). DNA sequencing costs: Data. National Human Genome Research Institute.(ヒトゲノム解読コストの推移を示す公的データ)
  • Witt, S. (2025). The thinking machine: Jensen Huang, Nvidia, and the world's most coveted microchip. Viking.(NVIDIAがCUDAへの先行投資で応用市場の出現を待った経緯を描いた著作)
  • Wolfers, J., & Zitzewitz, E. (2004). Prediction markets. Journal of Economic Perspectives, 18(2), 107–126.(予測市場の理論と実証をレビューした論文)
  • Wright, T. P. (1936). Factors affecting the cost of airplanes. Journal of the Aeronautical Sciences, 3(4), 122–128.(累積生産量とコスト低下の関係を発見したライトの法則の原論文)
  • Zhou, Y., Dong, F., Liu, Y., Li, Z., Du, J., & Zhang, L. (2020). Forecasting emerging technologies using data augmentation and deep learning. Scientometrics, 123, 1–29.(データ拡張と深層学習で新興技術を予測する手法を示した論文)
  • Ziegler, M. S., & Trancik, J. E. (2021). Re-examining rates of lithium-ion battery technology improvement and cost decline. Energy & Environmental Science, 14(4), 1635–1651.(リチウムイオン電池のコストが経験曲線に沿って低下してきたことを示した論文)
  • 国立社会保障・人口問題研究所. (2023). 日本の将来推計人口(令和5年推計). 人口問題研究資料第347号.(日本の高齢化率の推移と将来推計を示す公的資料)
  • 科学技術・学術政策研究所. (2019). 第11回科学技術予測調査. NISTEP REPORT No. 183.(1971年から約5年ごとに続く日本のデルファイ調査の最新報告)

The end

Read next ↓

Share this article