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8 sept 2026Masahiro TaimaResearchEconomyPolitics

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Overview

政府とはどのような存在で、何を目的とし、どのような施策を実行しうるのか。動物の群れから現代国家までの政府の役割の系譜、現代国家の7つのタイプ分類、国家の6つの目的×4つの役割による施策の整理、そして施策を選ぶ8段階の手順と定量化の方法まで、政治学・財政学・産業政策論などの最新研究を踏まえて網羅的に整理します。

はじめに

パンデミック、戦争、AI革命など、近年は世界中の国々にとって大きな変化を求められる状況であったことに伴い、各国の政府の判断やアクションが注目される機会が多くあったと思います。そして、国家によって大きく考え方や問題に対して取りうるアプローチも様々あると感じられることも多くありました。

多くの方にとって、あまり馴染みを感じにくく、リスクを感じて話として触れにくい印象がある国家や政府に関して、ここでは、政府とはどのような存在なのか、その役割や目的は何か、どのような施策が実行されうるべきか、一般化された観点について、最新の研究を踏まえて整理したいと思います。そして、我々がどのように今の政府の動向に対してどのように評価をするべきか、そしてどのように政治に参加していくべきかを考える指針になればと思います。

政府の役割については、政治学、財政学、産業政策論、経済安全保障論がそれぞれ膨大な議論を蓄積しています。本記事の新規性は次の4点にあります。

  • 政府の役割を、動物の群れから現代国家まで一つの系譜として、共通の観点で整理したこと:財政学の文献は通常、近代の財政国家から話を始めます。本記事では霊長類の群れ、狩猟採集、農耕、首長制、初期国家まで遡り、7つの時代を「概要・リーダーの選ばれ方・担った役割・財源・現在の相当する仕組み・前の時代から変わった点」という同じ6つの観点で並べました。政府の役割が入れ替わるのではなく積み重なってきたこと、そして「誰がリーダーを選ぶか」が「政府が何をするか」を決めてきたことが一望できます
  • 現代国家を5つの観点で7つのタイプに分類し、タイプごとに目的・役割・施策の特徴を示したこと:理論やエビデンスの整理は、しばしば国の違いを無視して一律に語られます。本記事では政治体制・国家と市場・福祉体制・財源構造・国家能力の5つの観点で現代国家を7つのタイプに分類し、同じ理論から導かれる優先順位がタイプによってどう異なるかを、目的・役割・施策の3つの面から整理しました
  • 国家の6つの目的それぞれについて、権威・組織・財源・情報という4つの役割で施策を共通的に列挙したこと:政府の役割を「お金を使う」ことに限定せず、政策学の標準的な分類(Hood, 1983)に基づく4つの役割を共通の観点とし、経済の繁栄、安全と秩序、公正と安心、健康と教育、持続可能性、自由と良い統治という6つの目的のそれぞれについて、どの役割がどの施策で寄与するのかを同じ型で列挙しました。目的ごとに施策を横並びで比べられ、「その目的は支出以外の役割で達成できないか」を問える構造にしています
  • 施策を選ぶ手順を、分野ごとに別々に定式化されてきた枠組みから共通の骨格として抽出したこと:費用便益分析の教科書、政策分析の手引き、英国・米国の政府指針、医療技術評価の参照ケースは、それぞれ独自の手順を持っています。本記事ではこれらを並べて共通する8段階を抽出し、定量化の3つの方法(費用便益分析・費用効果分析・MVPF)と、定量化できないものの扱い(損益分岐分析・費用最小化・多基準分析)まで、具体例とともに一つの流れで示しました。あわせて、これらの施策の根拠となる2010年代後半以降の研究動向を俯瞰しています

政府の歴史

そもそも政府という仕組みがどこから来たのでしょうか。人類が文字や国家を持つはるか前から、群れで生きる動物には「秩序を保ち、争いを仲裁し、外敵に備える」存在があり、政府の役割の原型はそこにあります。結論として、政府の役割は時代ごとに入れ替わってきたのではなく、積み重なってきたことが歴史から理解できます。

以下では7つの時代を、同じ6つの観点で整理します。

  • 概要:その時代に何が起きたか
  • リーダーの選ばれ方:誰が、どのような根拠で集団を率いたか
  • 担った役割:政府(に相当する存在)が集団に何を提供したか。
  • 財源:その役割を何でまかなったか
  • 現在の相当する仕組み:現在の政府でいえばどの組織・制度に当たるか
  • 前の時代から変わった点

ここから歴史を振り返ります。

動物の群れ:政府の生物学的な原型

  • 概要:霊長類をはじめ群れで暮らす動物には順位制(ドミナンス・ヒエラルキー)があり、最上位の個体(アルファ)は食物や交尾の優先権を持ちます。ただしアルファは「奪う」だけではありません。チンパンジーの観察では、アルファ雄が群れ内の争いに第三者として介入し、弱い側を守って喧嘩を止める「仲裁」を行います(de Waal, 1982)。この仲裁行動(ポリシング)を実験的に取り除くと群れ内の攻撃が増え、毛づくろいや遊びといった協力関係が壊れます。上位個体による秩序維持は、群れ全体が恩恵を受ける「公共財」として機能しているのです(Flack et al., 2006)
  • リーダーの選ばれ方:身体的な強さが基本ですが、それだけではありません。チンパンジーのアルファは他の雄との同盟によって地位を得て維持しており、同盟相手を失えば転落します。「力」と「支持を集める力」の組み合わせという構造は、この段階からすでにあります(de Waal, 1982)。群れの移動では、力ではなく経験や知識を持つ個体が先導する場面も多く見られます(King, Johnson & Van Vugt, 2009)
  • 担った役割:争いの仲裁と秩序維持、外敵への警戒と防衛の調整、移動や採餌の意思決定
  • 財源:食物と交尾の優先的な取り分
  • 現在の相当する仕組み:警察・裁判所(仲裁)、軍(防衛)、内閣・大統領府(集団の意思決定)

狩猟採集社会:ボスを持たないことを選んだ人類

  • 概要:人類の歴史の9割以上を占める狩猟採集の時代、人々は数十人の集団(バンド)で移動しながら暮らしました。この社会は霊長類のような順位制を持たず、際立って平等でした。ただしこの平等は自然に生じたものではなく、集団が「ボスになろうとする個体」を嘲笑・無視・追放、極端な場合は殺害によって積極的に抑え込むことで維持されていました。下位の集団が結集して上位を押さえ込む現象に関して、人類学者はこれを「逆位の支配(reverse dominance hierarchy)」と呼びます(Boehm, 1999)。近年の研究は、時代によって平等な時期と階層的な時期を行き来していた事例を示し、人類は早い段階から権力を集めることも分散させることも「選べた」と論じています(Graeber & Wengrow, 2021)
  • リーダーの選ばれ方:狩猟の腕、経験、説得力による「信望(プレステージ)」です。人間の地位には、力で従わせる『ドミナンス』と、優れた能力を持つ人に周囲が自発的に従う『プレステージ』の2つの経路があります(Henrich & Gil-White, 2001)。狩猟採集社会の地位はほぼプレステージの経路だけで成り立っており、信望を得た人が力で命令しようとすると、集団がそれを抑え込みました。リーダーは状況ごとに変わり、命令する力(強制力)を持ちません。獲物を持ち帰った狩人がわざと軽んじられる「肉をけなす」慣習(獲物を持ち帰った狩人を周囲がわざとけなし、狩人も成果を誇らない慣習。19〜20世紀に人類学者たちが世界各地の狩猟採集民や小規模な部族社会について書き残した民族誌から発見。)は、突出した個人が権力を持つことを防ぐ仕組みでした(Woodburn, 1982)
  • 担った役割:合意形成と紛争の調停、そして分かち合いによる保険。大きな獲物は狩人の家族だけでなく集団全体に分配されます。狩猟の成果は日によって大きく変動するため、分け合うことは「今日獲れた人が明日獲れない人を支える」リスクの分散として機能し(Kaplan & Hill, 1985)、社会保険の原型となりました。
  • 財源:税はなく、分配の義務そのものが負担でした。「持てる者が出す」という累進性の原型でもあります
  • 現在の相当する仕組み:失業保険・公的扶助(リスクの分かち合い)、合議体による意思決定(議会・評議会)
  • 前の時代から変わった点:リーダーの根拠が力からプレステージへ移り、集団がリーダーを抑え込む側に回ったこと。保険の機能が加わったこと

農耕・牧畜と定住:余剰・貯蔵・格差の始まり

  • 概要:約1万2,000年前に始まった農耕と牧畜は、穀物という貯蔵できる「余剰」を生みました。貯蔵できる富は、蓄えることができ、奪うことができ、そして課税することができます。農耕への移行と私有財産の成立は互いを強め合いながら同時に進みました(Bowles & Choi, 2013)。世界各地の遺跡で住居の大きさから格差を推計すると、農耕開始後に格差が拡大し、特に役畜(労働に利用される家畜)を持ったユーラシアで顕著でした(Kohler et al., 2017)。牧畜社会では、家畜という移動できる財産が略奪と防衛の対象となり、戦士的なリーダーが台頭しました(Khazanov, 1984)
  • リーダーの選ばれ方:土地と家畜を多く持つ家系の長老や、氏族(リネージ)の代表です。地位が個人の能力から「家」の財産へ移り始め、世襲への入り口が開きました。牧畜社会では戦闘の指揮能力が重視されました
  • 担った役割:所有権の保護と境界争いの裁定、共同の貯蔵と灌漑・開墾の調整、収穫の変動に備えた備蓄、略奪への防衛
  • 財源:共同労働(労働奉仕)と、村の共同貯蔵への拠出。貨幣も税もまだありません
  • 現在の相当する仕組み:土地登記所(所有権)、農業省(備蓄・農地)、灌漑・水利組合
  • 前の時代から変わった点:「守るべき財産」と「取り上げられる余剰」が生まれ、集団の規模が数十人から数百人へ拡大したこと。また、狩猟採集社会で最も価値のある資産は、狩りの腕、地形と動植物の知識、交渉力といった「身体に備わった資産(embodied wealth)」でしたが、これらは本人が死ねば消え、子どもに直接渡すことはできなかった一方で、農耕・牧畜社会で最も価値のある資産は、土地と家畜という「物的な資産(material wealth)」であり、これは本人が死んでも残り、子どもに渡せたため、親の代の蓄積が子の代の出発点になりました。富→人手(子孫や従者)→防衛力・略奪力→さらに富、という循環が回り始めると、格差は自然には縮まなくなりました。

首長制:分配する者が権威を持つ

  • 概要:農耕社会で最初に現れた恒常的な政治権威が「首長(チーフ)」です。メラネシア(オセアニアにある島々)の「ビッグマン」は、自ら蓄えた富を宴会で気前よく分配することで名声と追従者を得ます。権威の源泉は暴力ではなく分配であり、分配を止めれば追従者は離れます(Sahlins, 1963)。ポリネシアの首長制では地位が世襲され、首長は共同体から貢納を集めて再分配する恒常的な役割を担いました(Service, 1962)
  • リーダーの選ばれ方:ビッグマンは「気前の良さ」で獲得する地位、首長は「血筋」で継承する地位です。この段階で、リーダーの根拠が個人の資質(獲得的地位)から生まれ(帰属的地位)へ移りました。世襲を正当化したのは系譜と神話、つまりイデオロギーです。首長の権力基盤は経済(余剰の管理)、軍事(防衛と征服)、イデオロギー(儀礼と宗教)の3つに整理され、この組み合わせが国家への移行を左右しました(Earle, 1997)
  • 担った役割:集めて配る再分配と、饗宴・儀礼による共同体の統合、戦争の指揮、大型の共同事業
  • 財源:貢納(収穫の一部)、労働奉仕、戦利品。「集めて配る」という財政の基本的な流れが、ここで制度になりました
  • 現在の相当する仕組み:税務当局と社会保障省(集めて配る)、儀礼による統合(数千人の集団に対して同じ集団であると認識させる行為)という点では国家元首・国王や国家行事などがある
  • 前の時代から変わった点:リーダーが世襲され、恒常的な地位になったこと。徴収と再分配が定期的な制度になったこと。人類学ではバンド→部族→首長制→国家という段階で整理されます(Service, 1962; Fried, 1967)

初期国家から近代国家へ:文字・法・穀物税、そして借金ができる財政(約5,000年前〜18世紀)

  • 概要:約5,000年前のメソポタミアとエジプトで最初の国家が生まれました。文字は税と倉庫の記録のために発明され、最古の粘土板の大半は穀物・家畜・労働の帳簿です。国家が生まれた場所は土地が豊かな場所ではなく、穀物のように貯蔵でき取り上げやすい作物が育つ場所でした(Mayshar, Moav & Pascali, 2022)。最初の国家は「穀物国家」だったのです(Scott, 2017)。逃げ場のない土地での戦争の激化(Carneiro, 1970)や騎馬戦争の圧力(Turchin et al., 2013)が大規模社会の形成を促しました。その後、16〜18世紀のヨーロッパでは火器と常備軍によって戦争の費用が急増し、「戦争が国家を作り、国家が戦争を作った」と要約されるように、防衛の必要が徴税と官僚制を発達させました(Tilly, 1990)。17世紀末の英国では、議会の同意なしに課税できない仕組みによって返済が確実な国債制度が確立し(従来の王は借入をしても返済を拒否することができたため返済を確実に期待することはできなかったが、議会が王の課税を管理することができるようになったことで、返済する財源を設定できるなど返済を確実に実施することが可能となった)、政府は低利で大規模な借入ができるようになりました(North & Weingast, 1989)
  • リーダーの選ばれ方:世襲の王です。王権は神の代理として正当化され、継承は血統で決まりましたが、継承戦争は常態でした。王を支える官僚(書記)は書記学校で訓練を受けた専門職として登用され、「血筋で選ばれる支配者」と「能力で選ばれる実務者」の分離が始まります。近代に入ると、課税には身分制議会の同意が必要になり、「金を出す者が発言権を持つ」原則が生まれました。そして、選ぶ側は財産を持つ少数の男性に限られていました
  • 担った役割:城壁と軍隊による防衛、法典による紛争解決、灌漑と道路、穀物倉庫による飢饉への備え。支配層が支配を維持するには、集めた貢納を人々に喜ばれる形で使うこと、公共の秩序を維持すること、支配を正当化する思想を持つこと、の4つが必要でした(Diamond, 1997)
  • 財源:穀物での現物税、賦役、戦利品、王家の直営地から、近代には関税・消費税と国債へ。その土地に定住して毎年取り続ける支配者は、住民が生産を続けられるように課税に上限を設け、他の盗賊から守り、道路や灌漑に投資する動機を持つされました(Olson, 1993)。徴税・契約執行・公共サービスの能力は互いに補完的に発達し、これらが揃った国だけが長期的に豊かになりました(Besley & Persson, 2011)
  • 現在の相当する仕組み:財務省・税務当局、司法省・裁判所、公共事業を担う省庁、食糧の戦略備蓄、国防省、議会(課税の同意)、国債市場
  • 前の時代から変わった点:文字による記録、成文法、常備軍、専門の官僚が揃い、権威が「人」から「制度」へ移ったこと。群れのボスの「安全と秩序の対価として取り分を得る」構造が、税と公共事業という形で制度化されたこと。そして課税に被支配者の代表の同意が必要になり、政府が信用で借金できるようになったこと

産業社会の国家:夜警国家からインフラと社会保険へ(18〜19世紀)

  • 概要:経済学の出発点であるアダム・スミスは、政府の義務を国防、司法、そして「個人には採算が合わないが社会には有益な公共事業と公共施設」の3つに限定しました(Smith, 1776)。19世紀前半の先進国では政府支出はGDPの1割程度にとどまり、「夜警国家(夜警(ガードマン)のように国家の役割を国防や治安維持、私有財産の保護といった必要最小限の機能に限定し、経済や社会生活への介入をしない政治・経済のあり方)」と呼ばれました(Tanzi & Schuknecht, 2000)。しかし産業化と都市化が進むと、鉄道・上下水道・公衆衛生・義務教育といった市場では供給されにくい基盤への公的投資が拡大し、経済が発展するほど政府の役割は拡大するという「ワグナーの法則」が唱えられます(Wagner, 1883)。1880年代のドイツでは疾病・労災・老齢の社会保険が世界で初めて制度化され、政府が家計のリスクを引き受ける「社会保険国家」の原型が生まれました
  • リーダーの選ばれ方:立憲君主制や共和制のもとで、議会の選挙が政府を選ぶ主な手段になりました。ただし選挙権は納税額や財産で制限され、英国では1832年の改革後も有権者は成人男性の2割弱、日本の1890年の第1回総選挙では人口の約1%でした。19世紀後半に選挙権が拡大し始めます(フランス1848年、ドイツ帝国1871年の男子普通選挙)。選挙権の拡大は支配層が革命の脅威を避けるために行った譲歩として説明され(Acemoglu & Robinson, 2000)、有権者の中位が貧しくなるほど再分配への要求は強まり、政府は大きくなります(Meltzer & Richard, 1981)。官僚は縁故や売官から試験による採用へ移り、規則と専門性に基づく官僚制が「合法的支配」の装置として整いました(Weber, 1922)
  • 担った役割:国防・司法・警察と最小限の公共事業から出発し、鉄道・道路・上下水道・教育、社会保険、公衆衛生と都市の秩序へ拡大
  • 財源:関税と間接税の中心から、所得税の本格導入(英国1842年恒久化、プロイセン1891年、米国1913年)と社会保険料という、経済の成長とともに増える財源へ
  • 現在の相当する仕組み:国防省・警察・裁判所、公務員委員会(試験による官僚採用)、社会保障省と年金・医療保険の運営機関、教育省、交通・通信を担う省庁
  • 前の時代から変わった点:選挙が政府を選ぶ標準的な方法になり、有権者の拡大が再分配の要求を政治に持ち込んだこと。政府が「守る」だけでなく「支える」役割を持ち、それを支える所得税と社会保険料を得たこと

20世紀以降の国家:総力戦、福祉国家、縮小、そして回帰(20世紀〜現在)

  • 概要:二度の世界大戦は政府支出を急拡大させ、戦後も戦前の水準には戻りませんでした。危機のたびに政府の規模が一段上がり定着する現象は「転位効果」と呼ばれます(Peacock & Wiseman, 1961)。1930年代の大恐慌を経て、政府が需要を作り出して景気を安定させる役割が理論化されました(Keynes, 1936)。戦後、英国のベヴァリッジ報告(1942年)を起点に先進国は年金・医療・失業・家族手当を包括する福祉国家を築き、その形は北欧型・大陸型・アングロサクソン型に分かれます(Esping-Andersen, 1990)。先進国の政府支出はGDP比で1937年の約24%から1980年には約42%へ拡大し、増加分の大半は社会保障でした(Tanzi & Schuknecht, 2000)。政府は公正と安心を求める有権者に応えて社会支出を増やしましたが、経済学の標準理論は、その副作用として税は、働く意欲と投資の意欲を弱め、成長が鈍るはずだと予想していました。ところが社会支出がGDPの3%未満から25%超へ増えても、成長率にはほとんど差が見られませんでした。理論が予想した代償がデータ上ほとんど見えないというこの謎は『ただ飯のパズル』と呼ばれ、その理由として、高福祉の国は消費税中心の成長に優しい税で財源を集め、保育や職業訓練のように就労を促す給付と組み合わせていたことが挙げられています。重要なのは福祉の規模ではなく、集め方と配り方の設計だという含意です(Lindert, 2004)。東アジアでは政府が産業を選んで育てる「開発国家」が高度成長を主導しました(Johnson, 1982)。1970年代のインフレと停滞を経て「政府の失敗」への批判が強まり、1980年代からは民営化・規制緩和・市場原理の導入が進み、英国の通信・ガス、日本の通信・鉄道・専売が民営化されました。しかし2008年の金融危機で各国は銀行救済と大規模な財政出動に踏み切り、「小さな政府」の時代は事実上終わります。その後の欧州の緊縮政策は乗数(政府投資が国民所得に及ぼす効果の倍率)を過小評価していたという反省を生み(Blanchard & Leigh, 2013)、2020年のパンデミックでは米国だけで約5兆ドル、日本も70兆円超の対策が組まれました。2022年以降は地政学的緊張を背景に経済安全保障を名目とする産業政策が世界的に回帰し、2023年の1年間だけで2,500件を超える措置が導入されました(Evenett et al., 2024)
  • リーダーの選ばれ方:総力戦(国家や組織が持つあらゆる人的・物的・精神的な力を動員して行う戦争の形態)は国民全体の動員を必要とし、その見返りとして選挙権は女性を含む全成人に広がりました(英国1918年・1928年、米国1920年、日本は男子1925年・女性1945年)。同時に一党が国家を掌握する全体主義という別の道も現れました。戦後は大衆民主主義が定着する一方、中央銀行や経済計画機関、強い行政といった選挙で選ばれない専門家の役割が拡大します。1980年代以降は金融政策が政治から切り離されて中央銀行の独立性(短期的な政治的思惑や選挙対策に左右されず、中長期的な物価と経済の安定を守るため)が世界標準になり、他方で首相や大統領への権限集中が進みました。2008年以降は既存の政党と専門家への不信からポピュリズムが台頭し(Norris & Inglehart, 2019)、選挙で選ばれた指導者が司法やメディアの独立を弱める「民主主義の後退」が各地で報告されています(Levitsky & Ziblatt, 2018)。誰が決めるべきか——選挙で選ばれた政治家か、試験で選ばれた官僚か、独立した専門家か——という問いが、再び開かれた状態にあります
  • 担った役割:戦争遂行と景気の安定化に加え、年金・医療・介護・教育、産業政策と公共投資が正面に出ました。1980年代以降は直接供給から規制・監督へ、公営企業の民営化へと役割が縮小・再定義されましたが、2008年以降は危機時の巨額支出、供給網と重要物資の確保、脱炭素の方向づけ、子ども・人的資本への投資が加わり、市場を「形成」しレジリエンスを供給するという新しい役割が載りました
  • 財源:累進所得税の急拡大と戦時国債、中央銀行による国債引き受けから、社会保険料・所得税・法人税・付加価値税(フランス1954年)へ。1980年代以降は減税・民営化収入・消費税への依存と財政ルール、2008年以降は大規模な国債発行と中央銀行の買い入れ、炭素価格を将来の財源とする移行債、国際協調による法人税の下限設定
  • 現在の相当する仕組み:中央銀行と財務省(安定化)、年金・医療保険の運営機関、産業・経済省、民営化された旧国営企業と規制機関、経済安全保障を担う部局、脱炭素移行を推進する機関、子ども政策を統合した省庁、デジタル政府を担う庁
  • 前の時代から変わった点:普通選挙が完成し、政府が景気そのものに責任を持ち、社会保障が支出の最大項目になって政府規模がGDPの4割に達したこと。政府の役割を意図的に縮めた初めての時代を経て、危機のたびに再拡大する「転位効果」が再び現れ、役割が増える一方で金利上昇によって財源の制約が明確になったこと

政府の役割の変遷のまとめ

  • 歴史を踏まえると、政府の役割は「仲裁と防衛(群れ)」→「分かち合いによる保険(狩猟採集)」→「所有の保護と備蓄(農耕)」→「集めて配る再分配(首長制)」→「防衛・法・公共事業・備蓄と、借金ができる財政(初期国家から近代国家へ)」→「インフラと社会保険(産業社会)」→「景気安定化・福祉・産業育成、縮小、そして市場形成とレジリエンス(20世紀以降)」と、各時代の課題に応じて一層ずつ積み重なってきたことが分かります。縮小を試みた時代を除けば、古い役割はなくならず、新しい役割が上に載ります
  • その結果、先進国の政府支出は今日GDPの4割前後に達しています(米国は4割弱、日本は4割台、フランスは5割超)。支出の最大項目は多くの国で社会保障であり、これは19世紀後半に芽が出て戦後に載った層です
  • ただし、先進国の政府支出は、100%に向かうのではなく、政治的な限界(税負担が一定を超えると有権者の反発が起きる)や、経済的な限界(税率が高くなるほど、働く意欲や投資の意欲の低下は加速度的に増える)によって、4〜5割台で高齢化に応じてゆっくり上向きに漂うとされます。

現代国家の分類

ここまでの積み重ねの結果として存在する現代の国家は、一つの形をしていません。同じ「政府」という言葉でも、何を、誰のために、何でまかなうかは国によって大きく異なります。

分類の5つの観点

  • 政治体制(誰が選ぶか):指導者がどのように選ばれ、交代するか
    • 民主制:競争的な選挙で指導者が交代する。さらに、多数派が単独で決める「多数決型」(英国・米国など二大政党制)と、多くの勢力の合意で決める「合意型」(比例代表制と連立政権が常態の北欧・大陸欧州)に分かれ、合意型はより手厚い福祉を持つ傾向があります(Lijphart, 1999)
    • 競争的権威主義:選挙は行われるが、メディアや司法が偏っていて公平ではなく、実質的に政権交代が起きにくい(Levitsky & Way, 2010)
    • 権威主義:競争的な選挙がなく、党や王族など閉じた集団の内部で指導者が決まる。近年の民主主義指標では、世界人口の約7割がこのタイプと競争的権威主義のもとで暮らしています(V-Dem Institute, 2025)
  • 国家と市場の関係(どこまで市場に任せるか):企業の資金調達・労使関係・技能形成を誰が調整するか(Hall & Soskice, 2001)
    • 自由市場型:株式市場・流動的な労働市場・一般的なスキル教育を通じて、市場の競争で調整する
    • 調整型:銀行・業界団体・労使団体の長期的な交渉と、企業特殊的な職業訓練を通じて調整する
    • 国家資本主義:国家が主要企業を所有または支配し、資源配分の最終決定を握る(Bremmer, 2010; Musacchio & Lazzarini, 2014)
  • 福祉体制(どう支えるか):政府・市場・家族のどれが生活のリスクを引き受けるか(Esping-Andersen, 1990)
    • 自由主義型:市場を基本とし、政府は所得や資産の審査を伴う最小限の給付で補完する
    • 保守主義型:職域ごとの社会保険で、働いていたときの地位と所得水準を維持する
    • 社会民主主義型:全住民に普遍的な給付とサービスを提供し、格差の縮小を目指す
    • 生産主義型:福祉を経済成長に従属させ、教育などの生産的な支出を優先し、家族と企業に多くを委ねる(Holliday, 2000)
  • 財源構造(何でまかなうか):政府収入の源泉は何か
    • 税国家:国民と企業から税と社会保険料を集める。中心となる財源によって、所得税中心(自由市場型)、付加価値税を含めた全方位(北欧)、社会保険料中心(大陸欧州)の違いがあります
    • レンティア国家:石油などの資源収入や外国からの援助(レント)が政府収入の大半を占める。税に頼らない政府は国民の同意を必要としないため、代表制が育ちにくいことが知られています(Beblawi & Luciani, 1987; Ross, 2001)
  • 国家能力(できるか):徴税・法執行・サービス提供を実行する「能力」の高低と、議会・司法・市民が国家を縛る「制約」の強弱、という2軸の組み合わせ。Acemoglu & Robinson(2019)は、ホッブズが国家権力の比喩に用いた海の怪物「リヴァイアサン」(Hobbes, 1651)を借りて4つの型に名前を付けています。これは著者独自の呼称ですが、国家の「専制的権力」と「基盤的権力」を区別したMann(1984)以来の標準的な2軸と対応しています
    • 能力が高く、制約も強い(足枷のリヴァイアサン):自由と繁栄が両立する唯一の型で、この状態に至る道が細いことを著者は「狭い回廊」と呼びます
    • 能力が高く、制約が弱い(専制のリヴァイアサン):秩序と投資は実現できるが、権力の濫用を止める仕組みがない
    • 外見は整っているが、能力が弱い(張り子のリヴァイアサン):法律と組織はあるが、執行が恣意的で行き届かない
    • 能力そのものがない(不在のリヴァイアサン):治安や徴税が及ばない地域を持つ

この5つの観点を組み合わせると、現代の国家はおおむね次の7つのタイプに整理できます。

自由市場型国家

  • 5つの観点での位置
    • 政治体制:民主制(多数決型が多い)
    • 国家と市場:自由市場型
    • 福祉体制:自由主義型
    • 財源構造:税国家(所得税・法人税中心)
    • 国家能力:能力が高く制約も強い
  • 概要:市場の競争を基本とし、政府は規制とセーフティネットに役割を限定する。19世紀の夜警国家の系譜を最も強く残すタイプ
  • リーダーの選ばれ方:競争的な選挙。多数決型(英国・米国など)が多く、政権交代のたびに政策が大きく振れやすい
  • 担った役割:国防・司法・競争政策、基礎研究とインフラ。再分配は所得や資産の審査を伴う限定的な給付が中心
  • 財源:所得税と法人税が中心、付加価値税は低いか存在しない。政府支出はGDPの35〜45%
  • 代表的な国:米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランド
  • 強みと課題:新陳代謝が速く、イノベーションと雇用創出に強い。一方、格差が大きく、医療などの基礎的サービスへのアクセスに差が出やすい。近年は米国のCHIPS法やIRAのように、このタイプでも産業政策への回帰が起きています

社会民主主義型国家

  • 5つの観点での位置
    • 政治体制:民主制(合意型)
    • 国家と市場:調整型
    • 福祉体制:社会民主主義型
    • 財源構造:税国家(所得税・付加価値税・社会保険料をすべて高水準で)
    • 国家能力:能力が高く制約も強い(能力と社会的信頼がともに最高水準)
  • 概要:普遍的な福祉と高い税負担を、高い社会的信頼と労使の協調で支えるタイプ。政府支出の規模は最大級だが、市場の競争と企業の新陳代謝は妨げない
  • リーダーの選ばれ方:比例代表制による合意型の民主制。連立政権が常態で、政策の連続性が高い
  • 担った役割:保育から高等教育まで無償の人的資本投資(②・③)、手厚い所得保障と積極的労働市場政策(③)、透明性の高い行政(①)
  • 財源:所得税・付加価値税・社会保険料をすべて高水準で徴収し、政府支出はGDPの5割前後。ノルウェーは石油収入を政府年金基金(運用資産1.7兆ドル超)に隔離し、財政と切り離している
  • 代表的な国:スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド
  • 強みと課題:格差が小さく、女性の就業率と社会的流動性が高い。人口規模が小さく同質性が高いという条件に依存しており、移民の増加と高齢化のもとで制度の持続性が問われています

保守主義・コーポラティズム型国家

  • 5つの観点での位置
    • 政治体制:民主制(合意型、または混合型)
    • 国家と市場:調整型
    • 福祉体制:保守主義型
    • 財源構造:税国家(社会保険料中心)
    • 国家能力:能力が高く制約も強い
  • 概要:19世紀のビスマルク型社会保険を起点に、職域ごとの保険で生活水準を維持するタイプ。労使団体と政府の交渉(コーポラティズム)で経済を調整する
  • リーダーの選ばれ方:比例代表制または混合制の民主制。労使団体・州政府など多くの拒否権プレーヤーがいる
  • 担った役割:年金・医療・失業の社会保険、職業訓練と産業インフラ、EUという超国家的な枠組みへの主権の一部委譲
  • 財源:社会保険料への依存が大きく、労働コストが高い。政府支出はGDPの45〜57%(フランスは先進国で最大)
  • 代表的な国:ドイツ、フランス、オーストリア、ベルギー、オランダ、イタリア
  • 強みと課題:製造業と職業訓練に強く、雇用が安定している。一方、社会保険料が雇用のコストを押し上げ、若年層や非正規層が制度の外に置かれやすい。財政ルールはEUの共通枠組みに縛られ、2024年の改革と防衛費の免責条項が焦点になっています

東アジア開発型国家

  • 5つの観点での位置
    • 政治体制:民主制(日本・韓国・台湾)から長期一党支配(シンガポール)まで
    • 国家と市場:調整型(国家主導の伝統が強い)
    • 福祉体制:生産主義型から出発し、高齢化で保守主義型に接近
    • 財源構造:税国家(税負担は低めで、社会保険料が急増。シンガポールは強制貯蓄)
    • 国家能力:能力が高く制約も強い(試験で選ばれた官僚制の能力が高い)
  • 概要:戦後の開発国家(第2章の「福祉国家と開発国家」)の系譜。政府が産業を選んで育てる能力と、家族と企業に多くを委ねる小さな福祉を組み合わせてきた
  • リーダーの選ばれ方:日本・韓国・台湾は競争的な選挙による民主制、シンガポールは選挙はあるが一党が長期支配する体制。いずれも試験で選ばれた強い官僚制を持つ
  • 担った役割:産業政策とインフラ、教育、経済安全保障。福祉は成長に従属する「生産主義型」で出発したが、高齢化で急拡大している
  • 財源:税負担は先進国の中で低めで、政府支出はGDPの25〜45%。日本は高齢化で社会保障が膨張し、大陸型の水準に近づいた。シンガポールは強制貯蓄(中央積立基金)で福祉をまかない、政府支出をGDPの2割弱に抑えている
  • 代表的な国:日本、韓国、台湾、シンガポール
  • 強みと課題:官僚制の能力と長期の産業戦略に強く、半導体など戦略産業で世界的な地位を持つ。一方、急速な高齢化と少子化により、小さな福祉を前提にした財政構造が持続しなくなっており、「開発国家から福祉国家へ」の転換を短期間で迫られています

国家資本主義・権威主義型国家

  • 5つの観点での位置
    • 政治体制:権威主義(党内選抜)
    • 国家と市場:国家資本主義
    • 福祉体制:4類型の外(都市と農村、正規と非正規で分断された限定的な福祉)
    • 財源構造:税国家に国有企業の収益と土地収入が加わる
    • 国家能力:能力が高く制約が弱い
  • 概要:共産党などの単一の政治組織が国家を掌握し、主要産業を国有企業や国家系ファンドを通じて支配するタイプ。市場は使うが、資源配分の最終決定は党・国家が握る
  • リーダーの選ばれ方:党内の選抜と昇進。競争的な選挙はなく、指導者の交代は党の内部規範で決まる
  • 担った役割:産業政策とインフラ投資を最大規模で行い、治安と国防に大きな資源を投じる。福祉は都市と農村、正規と非正規で大きく異なる
  • 財源:国有企業の利益、土地の使用権売却、国有銀行を通じた信用配分。予算外の資金が大きく、政府の実質的な規模は統計より大きい。中国の産業支援はGDP比約4%と推計されています(IMF, 2025)
  • 代表的な国:中国、ベトナム、ロシア(資源への依存が強い点ではレンティア型の性格も持つ)
  • 強みと課題:長期の投資を迅速かつ大規模に実行でき、インフラと製造業で圧倒的な成果を上げた。一方、資本の非効率な配分、過剰投資、地方政府の債務、そして選挙による軌道修正が働かないことによる政策の硬直が課題です

レンティア国家

  • 5つの観点での位置
    • 政治体制:権威主義(世襲王政など)
    • 国家と市場:国家資本主義に近い(国営資源企業と政府系ファンドが中核)
    • 福祉体制:4類型の外(資源収入の配分と公共部門雇用による生活保障)
    • 財源構造:レンティア国家
    • 国家能力:能力が高く制約が弱い(湾岸諸国は行政能力が高い一方、社会による制約が弱い)
  • 概要:石油・ガスなどの資源収入(レント)が政府収入の大半を占め、国民から税を集める必要が小さい国家。「税なくして代表なし」の逆で、税を取らないため代表制への圧力も弱い(Beblawi & Luciani, 1987)
  • リーダーの選ばれ方:王族による世襲(湾岸諸国)、または資源収入で支持を買う権威主義的な指導者。資源収入が多い国ほど民主化が遅れる傾向が確認されています(Ross, 2001)
  • 担った役割:資源収入を国民に配分すること、公共部門での雇用、エネルギー・食料への補助金、大規模なインフラと国防
  • 財源:資源収入と政府系ファンドの運用益。個人所得税がない国が多い。湾岸諸国は2018年以降に付加価値税を導入し、資源後の税国家への移行を模索している
  • 代表的な国:サウジアラビア、UAE、クウェート、カタール。ノルウェーも資源収入を持つが、税国家の制度の上に基金を載せた点で異なる
  • 強みと課題:財政余力が大きく、大胆な投資(サウジアラビアの「ビジョン2030」など)ができる。一方、資源価格への依存、民間部門の未発達、そして「配る政府」から「集める政府」への転換の難しさが課題です

新興・低所得型国家

  • 5つの観点での位置
    • 政治体制:民主制から競争的権威主義まで幅が広い
    • 国家と市場:混合(国家主導の部門と大きな非公式経済が並存)
    • 福祉体制:限定的で非公式(家族とコミュニティに依存)
    • 財源構造:税国家だが徴税能力が弱く、援助・資源収入・開発金融に依存
    • 国家能力:外見は整っているが能力が弱い(張り子)、または能力そのものがない(不在)
  • 概要:税を集め、法を執行し、サービスを届ける能力そのものが制約になっている国家。制度の形は先進国から輸入しているが、実質が伴わない「形だけの模倣」が起きやすい(Andrews, Pritchett & Woolcock, 2017)
  • リーダーの選ばれ方:選挙制の国が多いが、政党が地域・民族・宗教に沿って組織され、選挙が資源の配分をめぐる争いになりやすい
  • 担った役割:基礎教育・保健・道路・電力が中心だが、供給が需要に追いつかない。治安の維持自体が課題の国もある
  • 財源:税収はGDPの1〜2割にとどまり(IMFは15%を開発の転換点の目安としています)、非公式経済が就業者の過半を占める。援助、資源収入、開発金融が重要な財源
  • 代表的な国:インド、インドネシア、ブラジル、ナイジェリア、ケニア、バングラデシュなど(発展段階の幅は大きい)
  • 強みと課題:若い人口と高い成長余地を持つ。インドの生体認証IDと即時決済網のように、デジタル基盤で先進国を飛び越えて国家能力を高める事例も現れている。一方、徴税と執行の能力が財政のすべての前提であり、「執行能力」の問題が最も切実に現れるタイプです

タイプ分けから見えること

  • 政府の規模(GDP比の支出)は、タイプによって2割弱から6割近くまで3倍以上の幅があります。「大きい政府か小さい政府か」という問いは、それ自体では答えを持たず、どのタイプの国家がどの役割を担うのかという文脈の中でしか意味を持ちません
  • タイプは固定ではありません。東アジア開発型国家は高齢化で保守主義・コーポラティズム型国家に近づき、自由市場型国家は産業政策に回帰し、レンティア型は税国家への移行を試み、国家資本主義型は成長の減速で配分の効率を問われています。

政府の目的

望ましい姿は国家によって異なります。そのような国家の目的は憲法や国家戦略に書かれています。

米国憲法の前文は「正義、国内の平穏、共同の防衛、一般の福祉、自由」を、フランスは「自由・平等・友愛」を、日本国憲法は「生命、自由及び幸福追求」を掲げます。国連の持続可能な開発目標(SDGs、2015年)は17の目標と169のターゲットで、国家が目指すべき姿を国際的に共有する試みです。

目的の測り方についても、GDPだけでは足りないという合意が広がっています。所得ではなく人が「何をなしうるか」(潜在能力)で豊かさを測るべきだという提案(Sen, 1999)を受けて、国連開発計画は1990年から所得・寿命・教育を合成した人間開発指数(HDI)を公表しています。経済的成果に加えて健康・教育・環境・主観的幸福を政策評価に組み込むべきだとした報告書(Stiglitz, Sen & Fitoussi, 2009)を受け、OECDは11分野の「より良い暮らし指標」を整備しました(OECD, 2011)。

国家の目的を列挙した枠組みは、政治思想・経済学・国際機関のそれぞれに存在します。主なものを出典ごとに並べると次のとおりです。

  • 米国憲法前文の6目的(1787年):より完全な連邦、正義、国内の平穏、共同の防衛、一般の福祉、自由
  • 政府の3義務(Smith, 1776):国防、司法、公共事業・公共施設
  • 「5つの巨人」(Beveridge, 1942):窮乏、疾病、無知、不潔(住宅)、怠惰(失業)の克服
  • 財政の3機能(Musgrave, 1959):資源配分、所得再分配、経済安定化
  • 「政治的財」の階層(Rotberg, 2003):安全→法の支配→政治参加→医療・教育→インフラ→通貨・金融の規制
  • 国家の10機能(Ghani & Lockhart, 2008):法の支配、正当な暴力の独占、行政管理、財政管理、人的資本への投資、社会政策による市民権、インフラ、市場の形成、公共資産の管理、公的借入
  • ウェルビーイングの8次元(Stiglitz, Sen & Fitoussi, 2009):物質的な生活水準、健康、教育、仕事を含む個人の活動、政治的発言と統治、社会的つながり、環境、経済的・物理的な不安全
  • より良い暮らし指標の11分野(OECD, 2011):住宅、所得、仕事、コミュニティ、教育、環境、市民参加、健康、生活満足度、安全、ワークライフバランス
  • SDGsの「5つのP」(UN, 2015):人(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、連携(Partnership)
  • 繁栄指数の12の柱(Legatum Institute, 2023):安全、個人の自由、統治、社会資本、投資環境、企業環境、インフラ・市場アクセス、経済の質、生活条件、健康、教育、自然環境
  • 世界ガバナンス指標の6次元(Kaufmann, Kraay & Mastruzzi, 2011):発言と説明責任、政治的安定、政府の有効性、規制の質、法の支配、腐敗の抑制

これらは出発点も粒度も異なりますが、共通して現れる次元があり、本稿では、次の6つの目的について主に整理します。

  • 経済の繁栄:人々が豊かに暮らせる経済を持つこと
    • 対応する枠組み:憲法前文「一般の福祉」、SSF「物質的な生活水準・仕事」、OECD「所得・仕事」、SDGs「繁栄」、レガタム「経済の質・企業環境」
    • 指標:1人あたりGDP、労働生産性、就業率、実質賃金の中央値、潜在成長率
    • 政府が介入する根拠:市場の失敗の是正、供給力の底上げ
  • 安全と秩序:外敵・犯罪・災害・供給の途絶から人々を守ること
    • 対応する枠組み:憲法前文「国内の平穏・共同の防衛」、スミス「国防」、Rotberg「安全(第一の政治的財)」、SSF「物理的な不安全」、OECD「安全」、SDGs「平和」
    • 指標:殺人率・犯罪被害率、災害による死者と被害額、国防力、重要物資の供給途絶リスク、世界平和度指数
    • 政府が介入する根拠:純粋公共財、レジリエンス
  • 公正と安心:所得と機会の格差を許容できる範囲に収め、リスクに対する安心を提供すること。住宅と社会的つながりもここに含めます
    • 対応する枠組み:憲法前文「正義」、ベヴァリッジ「窮乏・怠惰・不潔」、Musgrave「再分配」、SSF「経済的な不安全・社会的つながり」、OECD「住宅・コミュニティ」、SDGs「人」
    • 指標:ジニ係数、相対的貧困率、子どもの貧困率、世代間の所得移動性、社会保険のカバー率
    • 政府が介入する根拠:再分配(社会の価値判断)、保険市場の失敗
  • 健康と教育:人々が長く健康に生き、能力を伸ばせること
    • 対応する枠組み:ベヴァリッジ「疾病・無知」、Rotberg「医療・教育」、Ghani & Lockhart「人的資本への投資」、SSF・OECD・HDIの「健康・教育」
    • 指標:平均寿命と健康寿命、乳児死亡率、国際学力調査(PISA)のスコア、就学年数、人間開発指数(HDI)
    • 政府が介入する根拠:人的資本の外部性、情報の非対称性、価値財
  • 持続可能性:将来世代に環境・財政・人口の負債を残さないこと
    • 対応する枠組み:SSF・OECD「環境」、SDGs「地球」、Ghani & Lockhart「財政管理・公的借入」、レガタム「自然環境」
    • 指標:温室効果ガス排出量と再生可能エネルギー比率、公的債務のGDP比と利払い費、出生率と人口動態、インフラの健全度
    • 政府が介入する根拠:世代間の外部性、将来世代は市場と選挙に参加できないこと
  • 自由と良い統治:人々の自由が守られ、政府が有能で、信頼され、説明責任を負うこと
    • 対応する枠組み:憲法前文「自由」、スミス「司法」、Rotberg「法の支配・政治参加」、Ghani & Lockhart「法の支配・正当な暴力の独占」、SSF「政治的発言と統治」、OECD「市民参加」、レガタム「個人の自由・統治」、世界ガバナンス指標の6次元
    • 指標:自由民主主義指数(V-Dem)、法の支配指数(世界正義プロジェクト)、腐敗認識指数、政府への信頼(OECD調査)、世界銀行の世界ガバナンス指標(Kaufmann, Kraay & Mastruzzi, 2011)
    • 政府が介入する根拠:国家能力と制約の両立、政府の失敗の抑制

注意点としては以下のようなものがあります。

  • 目的どうしにはトレードオフと補完の両方がある:安全と自由、成長と環境、効率と公正はしばしば対立します。一方で、格差の縮小が成長を持続させる(Ostry, Berg & Tsangarides, 2014)、子どもへの投資が公正と成長を同時に満たす(Hendren & Sprung-Keyser, 2020)など、補完的な関係も実証されています。複数の目的に同時に寄与する施策を優先する、というのが第10章で示す選択の原則の一つです
  • 目的の重みは政治が決める:どの目的をどれだけ重視するかは、理論では決まりません。これまでは、誰がリーダーを選ぶかがこの重みを決めてきました。
  • 指標は操作される:指標が目標になると、指標だけが改善して実態が変わらない、という問題(グッドハートの法則)が起きます。学力テストの点数、犯罪の認知件数、GDPの押し上げのための公共事業は、その典型例です。複数の指標を組み合わせ、定期的に見直すことが必要になります

政府の役割

国家の目的が定まると、政府はその目的を実現することを担うことになります。ここでは具体的にどのように目的の実現を担うのか、政府の役割について整理します。

政府の役割の分類

政府は何をする存在なのでしょうか。政策学では、政府が使える手段を「政府が持つ資源」の種類で分類するのが標準的な方法です。最も広く使われるHood(1983)の枠組みは、政府の資源を4つに分けます。

  • 権威(Authority)― ルールを作り、守らせる:法律で命じ、禁じ、許可する力。立法、規制、免許・資格、基準、司法、競争政策。契約と所有権の保護もここに含まれます
  • 組織(Organization)― サービスを直接供給する:政府が自ら人と設備を持って行う活動。国防、警察、公立学校、公立病院、公営インフラ、公的年金の運営、統計機関
  • 財源(Treasure)― お金を配り、集める:補助金、給付、融資、税制優遇、政府調達によって行動を促し、その裏側で課税・社会保険料・国債によって資金を集める。本記事の「財源」には、配ることと集めることの両面を含めます
  • 情報(Nodality)― 情報を整え、調整する:政府が社会の情報の結節点にいることを使う。統計の公表、警告、開示義務、標準の設定、広報。金融政策や外交・通商交渉、危機対応のような「調整」は、情報を軸に他の資源を組み合わせる活動として、本記事ではこの区分に含めます

政策手段の分類は他にもありますが、いずれもこの4つに還元できます。規制(鞭)・経済的手段(飴)・情報(説教)の3分類(Vedung, 1998)は、権威・財源・情報に対応します。市場の自由化、補助金と課税、ルールの設定、非市場的な供給、保険の5類型(Weimer & Vining, 2017)は、順に情報・権威、財源、権威、組織、財源に対応します。直接供給から租税支出、バウチャー、情報提供まで14の手段を列挙した分類(Salamon, 2002)も、この4資源のいずれかに分類できます。世界銀行は国家の機能を、純粋公共財の供給といった最小限のものから、外部性や情報の不完全性への対応、民間活動の調整や再分配といった積極的なものまで階層で整理しましたが(World Bank, 1997)、これは「何のために」の分類であり、国家の目的に近いものです。

なぜ政府が必要なのか(市場の失敗)

市場は多くの財・サービスを効率的に配分しますが、うまく働かない状況がいくつか知られています。政府が資源配分に介入する正当性は、伝統的にこの「市場の失敗」に求められてきました。

公共財と集合行為

  • 国防や司法のように、誰かが使っても他の人の利用が減らず(非競合性)、料金を払わない人を排除できない(非排除性)財は、市場に任せると過少供給になります(Samuelson, 1954)。払わなくても恩恵を受けられるなら誰も払わない、という「フリーライダー」の問題です。政府はこのようなサービスを供給する主体になります
  • 全員が協力すれば全員が得をするのに、個々には協力しない方が得な状況を「集合行為問題」と呼びます(Olson, 1965)。例えば、予防接種は、周囲の大半が接種していれば、自分は副反応のリスクを避けて接種しなくても感染から守られますが、皆がそう考えると集団の免疫は崩れます。気候変動において一国が排出を減らしても、他国が減らさなければ効果は薄く、費用だけを負うことになります。これらは、集団にとって合理的な行動と、個人にとって合理的な行動がズレるということです。政府の歴史の章において、群れの仲裁(ポリシング)は、この問題を上位個体が解決していた例です。政府は、強制力によって集合行為問題を解く装置だと言えます

外部性

  • 基礎研究や公衆衛生のように、便益が投資した本人以外にも広く及ぶ活動は、私的な便益だけで判断すると社会的に望ましい水準より少なくなります。逆に、汚染のように費用の一部を他人が負担する活動は、その分だけ本人の負担が軽くなるため、社会的に望ましい水準より多く行われます。汚染で近隣に生じる損害を工場が負担しないなら、工場は社会全体では作るべきでない量まで作り続けます
  • 古典的な処方は、外部性の大きさに応じた課税や補助(ピグー税・補助金)です。一方、当事者間の交渉費用が小さければ、所有権を明確にするだけで市場が外部性を解決できる、という指摘もあります(Coase, 1960)。この場合の政府の役割は「お金を使う」ことではなく、権利を定めて取引費用を下げることになります

情報の非対称性

  • 売り手と買い手の一方だけが商品の質やリスクを知っている状態です。中古車市場の分析が古典で、買い手が車の良し悪しを見分けられないと、良い車の売り手は正当な価格で売れずに市場から去り、質の悪い車だけが残って市場そのものが縮む、というメカニズムが示されました(Akerlof, 1970)。医療の経済学はこの問題を軸に体系化されています(Arrow, 1963)
  • 逆選択:医療保険を自由加入にすると、病気になりそうな人ほど加入し、健康な人は加入しません。保険会社が保険料を上げると健康な人がさらに抜け、最後には保険が成り立たなくなります。これを防ぐには全員を強制的に加入させるしかなく、これが公的医療保険や強制加入の年金の理論的根拠です。多くの国の国民皆保険は、この逆選択への制度的な回答です
  • モラルハザード:保険に入ると本人がリスクに無頓着になったり、必要以上にサービスを使ったりする問題です。医療では、患者が費用を意識しなくなるだけでなく、医師の側が患者より多くを知っているために需要を作り出す(過剰診療)ことも起きます。自己負担割合や診療報酬の設計は、この問題を抑える道具です
  • 金融:銀行はいつでも引き出せる預金で、何年も返ってこない貸出を行っています(満期変換)。普段は問題ありませんが、「他の人が引き出しに来る」と皆が思うと、先着順の窓口では自分も急ぐのが合理的になり、貸出を投げ売りせざるをえなくなって、健全な銀行でも破綻します。破綻の原因が銀行の中身ではなく預金者の予想そのものであるため、民間の約束では解決できません(Diamond & Dybvig, 1983)。これを防ぐのが預金保険と、中央銀行による最後の貸し手機能です

自然独占

  • 規模の経済(作れば作るほど単価が下がる)はほとんどの産業にあります。自然独占と呼ぶのは、そのうち市場全体を1社で供給する方が2社以上で供給するより安くなる状態に限ります
  • 決め手は規模の経済の大きさではなく、「市場全体の需要」に対して「平均費用が下がりきる規模(最小効率規模)」がどれだけ大きいかです。世界市場を相手にする自動車や半導体は、規模の経済が巨大でも効率的な企業が何社も並び立ちます。水道や送電網は、市場が地理的に閉じているうえに、費用のほぼすべてが管や電線という設備の固定費です
  • ネットワーク産業で本質的なのは密度の経済です。水道管の敷設費は顧客の数ではなく敷設する距離で決まるため、同じ街に2社が参入すると費用が2倍になる一方で需要は増えません。このため1つの区域内では1社で供給する方が必ず安くなります。ただし1社の最適な規模がどこまでか(都市か、地域か、国か)は実証の問題で、水道では地域規模を超えると費用が下がらなくなるという研究が多く、多くの国が地域ごとの事業者に分かれているのはこのためです
  • もう一つの鍵は埋没費用です。地中の管は撤退しても回収できないため、独占企業が高い料金を取っていても新規参入者は現れません。固定費が大きくても埋没していなければ(航空機は別路線に回せる)、参入の脅威が独占企業を規律します(Baumol, Panzar & Willig, 1982)。固定費の大きさは「1社の方が安いか」を決め、埋没費用の大きさは「その1社を放置してよいか」を決めます
  • 対処は公有だけではありません。公的所有、民間所有と料金規制(英国の水道、米国の電力)、期間を定めた運営権の委託(フランスの水道)、そして設備と利用の分離(発電・小売は競争、送電網だけ規制)という選択肢があり、多くの国が自然独占なのは「管や電線」の部分だけだという認識のもとで、その上のサービスを競争に開いてきました

不完全競争と市場支配力

  • 自然独占でなくても、少数の企業が価格支配力を持てば、価格は上がり供給は絞られます。競争政策(独占禁止法、企業結合審査)はこれに対する規制であり、産業政策の成功条件として「競争の維持」が挙がる(第4章)のもこのためです

市場が答えられない問い

  • 市場の失敗がなくても、市場の結果が公正とは限りません。所得と機会の分配をどこまで是正するかは、効率ではなく社会の価値判断の問題であり、これが再分配の根拠です
  • 教育や文化のように、社会が「本人の需要以上に消費されるべきだ」と判断する財を、Musgraveは「価値財(メリット財)」と呼びました。近年は、人が短期的な誘惑や情報の過負荷で自分の利益に反する選択をすることを踏まえ、選択の設計(ナッジ)で行動を促す介入も政府の道具に加わっています(Thaler & Sunstein, 2008)

政府に任せることの限界(政府の失敗)

市場の失敗は政府介入の根拠となりますが、一方で政府もまた失敗します。以下のような失敗があります。

  • 政治の誘因:政治家や官僚も自らの利益に沿って行動するため、予算は「社会的に最適な水準」ではなく「政治的に通りやすい水準」に決まりやすい(Buchanan & Tullock, 1962)。補助金や規制は、それを獲得するための働きかけ(レントシーキング)を生み、資源を浪費します(Tullock, 1967)
  • 情報の限界:何をどれだけ作るべきかの情報は、社会に分散して存在し、中央には集まりません。価格はその分散した情報を集約する仕組みであり、政府が価格に代わって配分を決めるには限界があります(Hayek, 1945)
  • 時間の非整合性:政府が「将来こうする」と約束し、人々がそれを信じて行動を決めた時点で、政府には約束を破ることが得になる状況が生まれます。人々はそれを見越すので約束は最初から信じられず、結果として誰も得をしません(Kydland & Prescott, 1977)。インフレを抑えるという約束、時限的な補助金を打ち切るという約束、経営に失敗した銀行を救済しないという約束は、いずれもこの構造を持ちます。悪意や無能の問題ではなく、善意で有能な政府にも起きる点が重要です
  • 能力の制約:近年の研究は、政府の失敗は介入それ自体に内在するのではなく、政策の野心が国の政治的・行政的な能力を超えたときに生じる、と整理し直しています(Juhász & Lane, 2024)。同じ政策でも、それを執行できる国と、できない国があります

政府が国家に介入する理論的な根拠

以上の市場の失敗と政府の失敗を踏まえ、政府が施策を実施する根拠は次の4つに整理できます。

  • 市場の失敗の是正:公共財・外部性・情報の非対称性・自然独占への対応。手段は支出だけでなく規制・資格・開示が中心
  • 供給力・成長の底上げ:人的資本・知識・インフラへの投資で経済の生産能力を高める
  • 再分配と安心:所得・機会の格差を縮め、リスクに対する保険を提供する
  • 安全保障・レジリエンス:国防・防災・供給網・パンデミックといった「止まらないこと」への投資

国家の目的を達成するため政府の施策

ここでは、先述した主な国家の6つの目的(経済の繁栄、安全と秩序、公正と安心、健康と教育、持続可能性、自由と良い統治)に対して、政府がどのような施策を実行するのかについて整理します。施策については先述の政府の4つの役割の分類ごとに記載します。

  • 権威(Authority):ルールを作り、守らせる
  • 組織(Organization):サービスを直接供給する
  • 財源(Treasure):お金を配り、集める
  • 情報(Nodality):情報を整え、調整する

経済の繁栄の実現に関する政府の施策

目的と指標

人々が豊かに暮らせる経済を持つこと。1人あたりGDP、労働生産性、就業率、実質賃金の中央値で測ります。短期には景気の安定(失業と物価)、長期には供給力(生産性と人的資本)、そして特定の産業や技術を育てるイノベーション政策が決め手になります。

権威(Authority)による施策

  • 競争政策:独占禁止法の執行と企業結合の審査で価格支配力を抑え、新規参入を守ります。多くの先進国で企業の集中度が高まり、それが投資と賃金を抑えているという実証があり(Philippon, 2019)、予算を使わずに投資と新陳代謝を促す手段として重要性が高まっています。補助金は競争的な産業に向けたときに生産性を高める(Aghion et al., 2015)ため、競争政策は産業政策の一部でもあります
  • 参入・許認可規制の見直し:開業、建設、免許の手続きを簡素化し、審査期間を短縮します。許認可の期間や手続きの複雑さは、補助金の額以上に企業の投資判断を左右し、EUのChips法2.0が「許認可12カ月以内」を柱にしたように、補助金の額から建てるまでの時間へ競争の焦点が移っています
  • 契約と所有権の保護:登記制度、契約執行、担保法、破産法。取引費用を下げ、見知らぬ相手との取引と長期の投資を可能にする、市場経済の土台です(North, 1990)
  • 労働市場の規則:解雇規制、有期雇用の扱い、労働時間の規制。硬直すぎると企業の新陳代謝と若年層の雇用を妨げ、緩すぎると企業が人的資本に投資しなくなります。規則の設計そのものが生産性に影響します
  • 倒産・事業再生法制:立ち行かない企業を速やかに整理し、資源を生産性の高い企業へ再配分する仕組み。ゾンビ企業の温存を防ぐには、支援より退出の制度が効きます(Caballero, Hoshi & Kashyap, 2008)
  • 輸出管理と対内投資審査:先端技術の輸出規制、外国資本による買収の審査。経済安全保障の手段であると同時に、国内産業の保護として機能することもあり、目的の区別が必要です(第5章)
  • 知的財産制度:特許・著作権による発明への一時的な独占の付与。研究開発の誘因を作る一方、期間が長すぎると後続のイノベーションを妨げます
  • イノベーション志向の公共調達ルール:政府調達で価格だけでなく新技術の採用を評価する規則。政府が「最初の顧客」になることで、補助金とは別の経路でイノベーションを引き出します

組織(Organization)による施策

  • 公教育:初等・中等教育を政府が直接供給します。教育の外部性と、貧しい家庭の子どもも受けられる機会の平等が根拠で、長期成長の最大の決定要因の一つです(第7章)
  • 基礎研究機関:国立大学、国立研究所、公的研究資金の配分機関。回収に何十年もかかり、成果が誰のものにもならない基礎研究は、政府が担わなければ過少になります。公的研究費の民間特許への波及は明確です(Azoulay et al., 2019)
  • コア・インフラ:道路、港湾、空港、上下水道、電力網、通信網。地方政府が整備するコア・インフラの産出弾力性(労働や資本などの生産要素を1%増やしたときに、生産量(産出量)が変化する量)は長期で約0.19と、公共資本の中で最も高い(Bom & Ligthart, 2014)
  • ハイリスクハイリターンの研究委託機関:任期付きのプログラムマネージャーに大きな裁量を与え、失敗を許容する少額・多数の研究委託を行う機関。米国ARPA-H、英国ARIA、ドイツSPRINDが各国版です(Azoulay, Fuchs, Goldstein & Kearney, 2019)
  • 公的ベンチャーファンド・政府系金融:民間資金の呼び水として政府が出資・融資する機関。成功例(イスラエルのYozma)の共通点は「民間の判断に乗る」「時限的」「規模を市場に合わせる」です(Lerner, 2009)
  • 政府調達:国防・宇宙・医療などで政府が最初の大口顧客になること。インターネットやGPSはこの経路で生まれました(Mazzucato, 2013)
  • 産業インフラの整備:工業団地、研究開発拠点、試験設備、計算資源の公的な整備と共用

財源(Treasure)による施策

  • 自動安定化装置:累進所得税と失業給付は、政府が何もしなくても不況時に需要を支えます。社会保障が大きい国ほど自動的な緩衝も大きい
  • 裁量的な財政出動:不況時に政府が意図的に支出を増やしたり減税したりする景気対策。乗数は不況期に1〜1.5、平時には0〜0.5と局面で大きく異なるため、タイミングが効果を決めます(Auerbach & Gorodnichenko, 2012; Ramey, 2019)
  • 公共投資:インフラの新設と維持更新。GDP比1%の公共投資は4年後に約1.5%のGDP増と民間投資の呼び込みをもたらしますが、効果は計画と執行の質に依存します(Abiad, Furceri & Topalova, 2016)
  • 金融政策:中央銀行による金利の操作と物価の安定。現代では日々の景気調整の主役であり、政治から独立していることがその効果の条件です
  • 人的資本への投資:教育・訓練への公費負担。国際学力調査のスコアが1標準偏差高い国は長期の年間成長率が約2ポイント高い(Hanushek & Woessmann, 2015)
  • 研究開発の直接支援:公的研究費1ドルは民間の研究開発を1.2〜1.5ドル誘発し、研究開発税制は0.7〜0.9ドルにとどまる(IMF, 2024)。基礎に近い研究は直接支援、応用に近い研究は税制という使い分けが示唆されます
  • 時限的な補助金:特定の産業・技術への直接補助。近年の実証研究は、産業政策は一律に非効率でも万能でもなく設計の巧拙が結果を分けると示しており(Juhász, Lane & Rodrik, 2024)、成功条件は時限性、成果連動、撤退ルール、競争維持、国の能力に合わせた野心の5つに集約されます
  • 研究開発税制:研究開発費の一部を税額控除する。追加性はあるが制度設計に依存し、中小企業向けの拡充は研究開発と特許を増やして近接企業にも波及します(Dechezleprêtre et al., 2023)
  • 投資減税・即時償却:設備投資の税負担を軽くする。米国のボーナス償却は対象投資を10〜17%増やし、反応は中小企業ほど大きい(Zwick & Mahon, 2017)
  • 政府出資:補助金の代わりに政府が株式を持つ。米国のインテル出資(2025年)のように、上振れ益を政府が取る一方、経営への関与というリスクを抱えます(第5章)
  • 信用保証・政府系融資:中小企業やスタートアップの資金制約を緩める。危機時には雇用を守るが、返済開始後の倒産増加と新陳代謝の遅れという副作用があります。経営難の企業への融資を続ける「ゾンビ貸出」が健全な企業の投資と雇用を抑えたことは、1990年代の日本で実証されています(Caballero, Hoshi & Kashyap, 2008)
  • 初期段階の研究開発補助金:米国SBIRのように若い企業に少額の補助を出す。受給企業がベンチャー資金を得る確率をほぼ2倍にします(Howell, 2017)

情報(Nodality)による施策

  • 統計機関:GDP、物価、雇用、人口の統計を作成し公表する。市場参加者と政府の判断の共通の基盤であり、統計の独立性と信頼性は経済のインフラです
  • デジタル公共基盤:デジタルID、即時決済網、行政データの連携基盤。インドのAadhaarとUPIのように、政府が「土台」だけを作り、その上のサービスを民間に委ねる設計が、取引費用を大きく下げます
  • 標準の設定:技術標準、会計基準、度量衡、データ形式。互換性を保証することで市場を広げ、取引費用を下げます。国際標準の形成に関与し、自国産業の技術を標準に反映させることも含まれます
  • 通商交渉:関税、投資協定、原産地規則、供給網に関する国際的な取り決め。国内の施策だけでは決まらない市場の広さと安定性を左右します
  • 経済見通しの公表:政府と独立機関による成長・物価・財政の予測。企業と家計の期待を揃え、政策の予見可能性を高めます
  • 産業データと特許統計の整備:どの産業・技術に外部性や学習効果があるかを判断するための基礎データ。産業政策を測定可能にする試み(Juhász et al., 2025)はこの延長にあります
  • 官民の対話の場:政府が産業界と密に情報交換しつつ、個別企業の利害から独立した判断を保つ「埋め込まれた自律性」の制度化(Evans, 1995; Rodrik, 2022)
  • 技術ロードマップとミッションの設定:脱炭素や高齢化対応といった社会課題をミッションとして掲げ、複数の産業を横断して投資を方向づける(Mazzucato, 2018)
  • 同盟国との補助金協調:各国が独自に補助を出すと世界全体では過剰投資になる(Goldberg et al., 2024)。補助金の相互上限や工程の分担は、単独の財政努力より効率的です

安全と秩序の実現に関する政府の施策

目的と指標

外敵・犯罪・災害・供給の途絶から人々を守ること。殺人率や犯罪被害率、災害による死者と被害額、国防力、重要物資の供給途絶リスクで測ります。第2章で見たとおり、群れの仲裁と防衛に始まる政府の最も古い役割です。

権威(Authority)による施策

  • 刑法と司法制度:犯罪の定義、捜査と裁判の手続き、刑罰。治安の土台であり、第9章の法の支配と一体です
  • 耐震・防災の基準と建築確認:建物と構造物に耐震性・耐火性を義務づけ、着工前に審査する。災害による死者を減らす最も費用対効果の高い手段の一つで、基準の執行能力が結果を決めます
  • 土地利用規制:洪水・津波・土砂災害のリスクが高い区域での建築を制限し、都市機能を安全な場所に集約する。人口減少下の縮退(第8章)とも重なります
  • 輸出管理と対内投資審査:先端半導体や軍民両用技術の輸出規制、外国資本による重要インフラ・技術の買収審査。米国の2022年以降の対中輸出管理が代表例です
  • 重要物資の指定と供給確保義務:半導体・蓄電池・重要鉱物・医薬品などを指定し、備蓄や調達先の多角化を求める。日本の経済安全保障推進法やEUの重要原材料法がこの型です
  • サイバーセキュリティ基準:重要インフラの事業者に防御水準と報告義務を課す

組織(Organization)による施策

  • 軍と沿岸警備:国防は純粋公共財の原型であり、市場では供給されません。装備の国内調達比率が経済効果を左右し、輸入装備への支出は国内乗数がほとんどありません
  • 警察・消防・救急:治安と災害対応の直接供給。警察官の増員は犯罪を減らし、その社会的便益は費用を上回るという推計があります(Chalfin & McCrary, 2018;第9章)
  • 防災インフラとその維持:堤防、ダム、防潮堤、耐震化された橋梁。新設より予防保全の方が長期の費用は半分近く安い
  • 戦略備蓄:石油、食料、医薬品、重要鉱物の政府備蓄。初期国家の穀物倉庫に始まる、最も古いレジリエンスの手段です
  • サイバー防衛・情報機関:国家によるサイバー攻撃への対処と、脅威に関する情報の収集

財源(Treasure)による施策

  • 防衛費と装備調達:NATOは2035年までにGDP比3.5%+1.5%の目標に合意し、各国が増額中です。輸入装備への支出は国内乗数がほとんどなく、成長戦略としては語れません
  • 防災投資と予防保全:複数年の総額を先に示す方式(日本の5年計画、米国のインフラ投資雇用法)が各国で採られています。予防保全は事後保全より長期費用を大きく下げます
  • 供給網の多角化への補助:理論的には、政策が促すべきは国内回帰ではなく調達先の多角化です(Grossman, Helpman & Lhuillier, 2023)
  • 戦略産業への補助:半導体などへの巨額補助。各国の補助金競争は世界全体で過剰投資を招くため(Goldberg et al., 2024)、同盟国との協調が前提になります
  • 災害保険と公的再保険:民間保険が引き受けられない巨大災害リスクを政府が最終的に引き受ける仕組み。保険料の設計を通じて立地の誘因にも影響します
  • 復興財源の事前確保:災害後の復興のための基金や特別税の枠組みを事前に用意しておく

情報(Nodality)による施策

  • 同盟と集団安全保障:一国で防衛を完結させる財政余地はなく、同盟は防衛費の最大の「節約」手段です
  • ハザードマップと早期警報:災害リスクの可視化と警報システム。低コストで死者を大きく減らします
  • インテリジェンスの共有:同盟国間での脅威情報の共有
  • 補助金協調と貿易ルール:WTOの補助金規律、同盟国間での補助金上限や共同投資
  • 危機時の情報発信:パンデミックや災害時に、政府が信頼できる情報を迅速に出すこと。政府への信頼と直結します

公正と安心の実現に関する政府の施策

目的と指標

所得と機会の格差を社会が許容できる範囲に収め、病気・失業・老いといったリスクに対する安心を提供すること。ジニ係数、相対的貧困率、子どもの貧困率、世代間の所得移動性、社会保険のカバー率で測ります。

権威(Authority)による施策

  • 最低賃金:適度な水準の引き上げは雇用をほとんど減らさずに低賃金労働者の所得を高めることが、近年の大規模な実証で示されています(Cengiz et al., 2019)。財政支出を伴わない再分配の手段です
  • 労働規制:労働時間の上限、有期雇用と無期雇用の均等待遇、育児休業の権利。労働者の交渉力を補い、リスクの一部を雇用者に負わせます
  • 公的保険への強制加入:年金・医療・失業保険への加入義務。逆選択への制度的な回答であり、人々がリスクへの備えを先送りしがちなことへの対応でもあります
  • 差別禁止法:性別・人種・障害・年齢による雇用・賃金・住宅の差別を禁じる。機会の平等の法的な基盤です
  • 借家人の保護と住宅規制:家賃の急騰や不当な立ち退きから借家人を守る規則。住宅は公正と安心に含まれる次元で、供給を抑える副作用との均衡が問われます
  • 消費者保護と高利貸しの規制:情報の非対称性から弱い立場の家計を守る規則

組織(Organization)による施策

  • 公的年金・医療・介護の運営機関:社会保険の徴収と給付を担う組織。制度の複雑さと運営の効率が、給付が届くかどうかを左右します
  • 公営住宅と住宅供給:低所得層への住宅の直接供給。住宅費の高騰は先進国共通の課題で、供給側の規制緩和と組み合わせて論じられます
  • 公共職業安定所:職業紹介と訓練の窓口。積極的労働市場政策の実施機関です
  • 公立保育と児童福祉:保育の直接供給は、女性の就業と子どもの発達の両方に効きます
  • 福祉事務所と相談窓口:公的扶助の認定と、生活困難の早期発見

財源(Treasure)による施策

  • 累進課税と資産課税:所得税の累進性、相続税、資産課税。再分配の財源であると同時に、再分配そのものです
  • 子どもへの給付:児童手当、子ども税額控除、教育・保育の費用補助。低所得層の子どもへの投資はMVPFが平均5を超え、将来の税収で元が取れるものも多い(Hendren & Sprung-Keyser, 2020)
  • 失業給付と公的扶助:失業時の所得保障と、最低生活の保障。消費の平準化という保険機能を持ちます(Chetty & Finkelstein, 2013)
  • 職業訓練と積極的労働市場政策:効果は2〜3年後に現れ、訓練型・女性・長期失業者で大きい(Card, Kluve & Weber, 2018)。短期の指標で打ち切らない設計が必要です
  • 給付付き税額控除:働く低所得者に税額控除の形で給付する(米国EITCなど)。就労を促しながら再分配する手段です
  • 地域間の財政移転:地方交付税やEUの結束基金のように、地域間の税収格差を埋める
  • 現金給付・ベーシックインカム:無条件の現金給付。実験では就業率が約4ポイント低下し、労働時間は週1〜2時間減少と、影響は限定的だがゼロではない(Vivalt et al., 2026)

情報(Nodality)による施策

  • 申請不要の自動給付:税務データを使って対象者に自動的に給付する。給付が届かない最大の理由である手続きの複雑さを取り除き、追加予算なしに効果を高めます
  • 制度の簡素化とワンストップ化:複数の給付を一つの窓口・一つの申請にまとめる
  • 貧困・格差統計の整備:相対的貧困率、子どもの貧困率、世代間移動性の測定。政策の効果を測る前提です
  • 労使の対話:賃金と労働条件を労使団体と政府の交渉で調整する(大陸ヨーロッパ型のコーポラティズム)
  • 選択の設計(ナッジ):企業年金への自動加入は、加入率を大幅に高めます(Madrian & Shea, 2001)。自由を制限せずに備えを促す手段です

健康と教育の実現に関する政府の施策

目的と指標

人々が長く健康に生き、能力を伸ばせること。平均寿命と健康寿命、乳児死亡率、国際学力調査のスコア、就学年数、そしてこれらを合成した人間開発指数(HDI)で測ります。健康と教育は、それ自体が目的であると同時に、経済の繁栄と公正の両方に寄与する「人的資本」でもあります。

権威(Authority)による施策

  • 義務教育と就学年限:一定年齢までの就学を義務づける。教育の外部性と価値財の性格に基づく、最も古い教育政策です
  • 教員・医師の免許:買い手(生徒・患者)が質を判断できない専門サービスの質を、資格制度で保証する。情報の非対称性への回答です
  • 医薬品・医療機器の承認:安全性と有効性を審査してから市場に出す。承認の速さと厳しさの均衡が問われます
  • 公的医療保険への強制加入:逆選択を防ぐための加入義務。米国も2010年の医療保険改革で導入しました
  • 健康に有害な財への規制と課税:たばこ・アルコール・砂糖入り飲料への課税、広告規制、表示義務。外部性と、本人の長期の利益に反する選択への対応です
  • 学校の設置基準とカリキュラム:教員配置、施設、教育内容の最低基準を定める

組織(Organization)による施策

  • 公立学校と公立大学:初等から高等教育までの直接供給。実証研究が最も一貫して支持するのは教員の質で、付加価値の高い教員に教わった生徒は成人後の所得が高い(Chetty, Friedman & Rockoff, 2014)
  • 公立病院・保健所・救急:医療の直接供給と地域の保健行政。人口減少地域では医療の供給体制の再編が課題です
  • 公衆衛生:予防接種、上下水道と水質管理、感染症の監視。寿命の延びの大半は医療ではなく公衆衛生によるものです
  • 研究機関:医学研究への公的投資。米国NIHの研究費1,000万ドルは民間特許を約2.3件増やします(Azoulay et al., 2019)
  • 学校給食と学校保健:栄養と健康の保障を学校で行う。低所得層の子どもへの効果が大きい

財源(Treasure)による施策

  • 教育費の公費負担と無償化:授業料の無償化と就学援助。効果は「誰に届くか」で決まり、低所得層の進学率がどう変わるかが評価の焦点です(Hendren & Sprung-Keyser, 2020)
  • 幼児教育への投資:人的資本投資の収益率は年齢とともに下がり、不利な環境の子どもへの幼少期の投資が最も高い(Heckman, 2006)
  • 奨学金と所得連動型の返済:高等教育の費用を、卒業後の所得に応じて返済する仕組み。資金制約による進学の断念を防ぎます
  • 医療・介護給付と診療報酬の設計:公的保険の給付範囲と、医療機関への支払い方式。支払い方式(出来高か包括か)は医療の量と質の誘因を左右します
  • 予防・健診への支出:必ずしも総医療費を減らしませんが、健康寿命を延ばし、労働参加と生活の質を高めます
  • 教員の給与と研修:教員の質が最も重要な投入要素である以上、優秀な人材を教職に引きつける処遇は教育投資の中核です

情報(Nodality)による施策

  • 学力調査と学校の評価:国際学力調査(PISA)や国内の学力調査で成果を測る。ただし指標が目標になると点数だけが改善する問題に注意が必要です
  • 電子カルテと医療データ:診療情報の標準化と連携。医療の質の測定、重複投薬の防止、研究の基盤になります
  • 診療ガイドラインと医療技術評価:費用効果分析(QALY)に基づいて公的保険で採用する治療を決める(第10章)
  • 健康情報と食品表示:栄養表示、健康リスクの情報提供。最も安い介入手段です
  • 国際比較と相互学習:OECDの教育・医療統計による各国比較は、制度設計の参考になります

持続可能性の実現に関する政府の施策

目的と指標

将来世代に環境・財政・人口の負債を残さないこと。温室効果ガス排出量と再生可能エネルギー比率、公的債務のGDP比と利払い費、出生率と人口動態、インフラの健全度で測ります。

権威(Authority)による施策

  • 炭素価格と排出量取引:温室効果ガスの排出に価格をつける。最適な気候政策は炭素価格と研究開発補助の組み合わせであり(Acemoglu, Aghion, Bursztyn & Hemous, 2012)、規制か価格かの選択は不確実性の所在で決まります(Weitzman, 1974;第10章)
  • 燃費・省エネ・建築物の性能基準:自動車の燃費基準、家電の省エネ基準、建築物の断熱基準。価格が効きにくい分野で排出を減らす規制です
  • 財政ルール:債務や赤字の上限、投資的支出を区別するゴールデンルール(政府は日常的な経常支出を借金で賄わず、借金は将来世代にも便益が残る投資的支出に限る)、支出の伸びの上限。将来世代の負担を制度で縛る仕組みです
  • 土地利用規制と都市の集約:人口が減る地域で都市機能を集約し、インフラの維持範囲を絞る(コンパクトシティ)
  • 年金の自動調整ルール:平均寿命や人口構成の変化に応じて給付や支給開始年齢を自動的に調整する仕組み。政治的な先送りを防ぎます
  • 仕事と子育ての両立を支える法制:育児休業の権利、短時間勤務、保育を受ける権利。両立が容易な国ほど出生率が高い(Doepke et al., 2023)

組織(Organization)による施策

  • 送電網と系統運用:再生可能エネルギーの拡大には送電網の増強と調整が不可欠で、自然独占として公的または規制された主体が担います(第3章)
  • インフラの維持管理と撤退の計画:既存インフラの点検・予防保全と、維持できない施設の統廃合。「どこから撤退するか」を決める組織的な能力が問われます
  • 独立財政機関:政府から独立して長期の財政見通しと政策コストを検証する機関。将来世代の代理人として機能します
  • 保育の公的供給:女性の就業と出生率の両立を支える直接供給
  • 森林・水資源・沿岸の管理:自然資本の公的な管理

財源(Treasure)による施策

  • 脱炭素の税額控除と移行債:米国IRAの税額控除、日本のGX経済移行債のように、初期の投資を財政で先行させる。学習曲線の急な技術ほど初期の補助が正当化されます(Way et al., 2022)
  • 予防保全への長期投資:事後保全を続けた場合の維持更新費は、予防保全に転換した場合のほぼ2倍になるという推計があります
  • 化石燃料補助金の改革:エネルギー価格を抑える補助金は排出を増やし財政を圧迫します。撤廃と低所得層への直接給付の組み合わせが標準的な処方です
  • 児童手当と保育補助:出生率への効果は「正だが小さい」と評価されており、生まれた子どもへの投資として正当化する方が実証に合います(Doepke et al., 2023)
  • 給付の調整:年金・医療の給付を人口構成に合わせて調整し、制度の持続性を保つ
  • 資源収入の基金化:資源国が石油収入を政府系ファンドに隔離し、将来世代に残す(ノルウェー、第2章)

情報(Nodality)による施策

  • 排出量の計測と開示:企業に気候関連の情報開示を義務づける国際的な枠組み。投資家と市場が排出を評価できるようにします
  • 長期の財政見通しの公表:30〜50年先の債務と社会保障費の推計を独立機関が公表し、先送りのコストを可視化する
  • 人口推計と将来の需要予測:学校・病院・インフラの配置を人口動態に合わせて計画する基礎です
  • 気候資金と国際協調:パリ協定、COP29で合意された年3,000億ドルの気候資金目標。気候変動は一国では解決できない国際公共財の問題です
  • 技術予測の共有:再生可能エネルギーのコスト低下の実績と予測を共有し、投資判断の前提を揃える

自由と良い統治の実現に関する政府の施策

目的と指標

人々の自由が守られ、政府が有能で、信頼され、説明責任を負うこと。自由民主主義指数、法の支配指数、腐敗認識指数、政府への信頼、世界ガバナンス指標で測ります。この目的は他の5つの目的の「実行条件」でもあります。有能で信頼される政府がなければ、どの施策も設計どおりには実行されません。

権威(Authority)による施策

  • 憲法と権力分立:立法・行政・司法の分離と相互の抑制。国家の能力を高めながら制約を強める(第2章の「能力が高く、制約も強い」型)ための基本設計です
  • 司法の独立:裁判官の任命と身分保障を政治から切り離す。契約の執行と権力の制約の両方の前提です
  • 情報公開法:政府の文書と意思決定を市民が閲覧できる権利。腐敗と恣意的な決定を抑える最も安い手段の一つです
  • 腐敗防止法と利益相反規制:公務員の贈収賄、政治資金、天下りの規制
  • 公務員制度:試験による採用、実績に基づく昇進、政治的な任免からの保護。「試験で選ばれる実務者」の層を守る制度です
  • 選挙制度と政治資金規制:誰がリーダーを選ぶかを決める規則そのもの
  • 規制影響評価の義務化:新しい規制を導入する際に費用と便益の分析を義務づける。規制の過剰を抑える規制です

組織(Organization)による施策

  • 裁判所:手続きが遅く複雑な国ほど契約の執行が弱く、信用取引が縮みます(Djankov et al., 2003)。司法の効率は企業の資金調達コストという形で経済全体に波及します
  • 警察:治安の直接供給。増員の便益は費用を上回るという推計がある一方、取り締まりの偏りと過剰な収監のコストも大きい(Chalfin & McCrary, 2018)
  • 登記・徴税機関:所有権の記録と税の徴収。徴税は情報の問題であり、電子インボイスなどのデジタル化は徴税能力を直接高めます(Pomeranz, 2015)
  • 独立財政機関と監査機関:財政見通しの検証(英国OBR、米国CBO)と、支出の事後監査(会計検査院)
  • 統計機関:政府から独立した統計の作成。統計への信頼は、他のすべての政策の評価の前提です
  • 選挙管理機関:選挙の公正な実施

財源(Treasure)による施策

  • 司法・警察・行政のデジタル化への投資:裁判手続きのオンライン化、許認可の電子化、行政データの連携。執行能力への投資であり、目的⑥への投資は他の5つの目的への投資でもあります
  • 公務員の給与と人材育成:有能な人材を行政に引きつけ、留める処遇。腐敗の抑制にも効きます
  • 地方政府への財源保障:地方が担うサービス(教育・福祉・インフラ)の財源を、税源の偏りを補って保障する
  • 徴税機関への投資:徴税能力への投資は、投じた費用の何倍もの税収を回収する、収益率の最も高い公的投資の一つです

情報(Nodality)による施策

  • 政府データの公開:予算、契約、統計、政策評価のオープンデータ化。市民と研究者による監視を可能にします
  • 統計の独立性の確保:政府に不都合な統計も公表される仕組み
  • 政策評価の公表とEBPM:施策の効果を測り、結果を予算に反映させる
  • 市民参加の仕組み:パブリックコメント、住民投票、参加型予算。狩猟採集社会の「逆位の支配」(第2章)以来、リーダーを縛る仕組みは選ぶ仕組みと同じくらい重要でした
  • 国際的な規範への参加:OECDの腐敗防止条約、ガバナンス指標による相互評価

実施すべき施策を選択する手法

ここまで6つの目的について施策を列挙してきましたが、政府の財源・人員・政治的資本は限られています。すべてを実施することはできないため、選択をしなければなりません。ここでは、施策を選ぶために経済学と公共政策論が蓄積した理論的な方法を整理します。

前提として政府支出は次のような性質があります。

  • 政府支出は6つの目的に均等ではない:OECD平均(2023年)では、政府支出の約31%が社会保護、約19%が保健、約11%が教育で、約6割が使われています(EUではこの比率は約7割に達します)。経済業務は約11%、国防と治安は合わせて約9%、環境と住宅は約3%、一般行政と利払いが約14%です(OECD, 2025)。
  • 予算に見えるのは財源と組織:権威と情報は予算上ほぼゼロに見えますが、費用は規制される側の民間が負担しています。予算が苦しいほど政府は規制に寄りやすく、規制が過剰になるのはこのためです(後述)
  • 配分の大半は過去の法律で決まっている:年金・医療の給付水準と利払いは法定で、予算編成で動くのは前年からの数%の調整です(漸増主義:Wildavsky, 1964)。配分が大きく動くのは戦争・恐慌・パンデミックのような危機のときで、段が上がって戻らないという形(増えた予算が次の基準となる)をとります(Baumgartner & Jones, 1993)。

施策の検討の手順

施策を選ぶ手順は、分野ごとに別々に定式化されてきました。費用便益分析の標準教科書の10手順(Boardman et al., 2018)、政策分析の「8つの道筋」(Bardach & Patashnik, 2023)、英国グリーンブックのROAMEFサイクル(HM Treasury, 2026)、米国の規制影響分析の指針(OMB, 2003)、医療技術評価の参照ケース(Drummond et al., 2015; NICE, 2022)です。並べると骨格は共通しており、次の8段階に整理できます。

  1. 問題と介入の根拠:その問題は市場の失敗か、単に望ましくない結果か。市場の失敗なら4つの根拠のどれか。市場の失敗がなければ、介入の理由は分配や価値判断に限られます。同時に、政府が介入すればより悪くなる可能性を点検します。不完全な市場を「完全な政府」と比べて介入を正当化するのは誤りで(Demsetz, 1969)、政府側の失敗(費用と収入の乖離、組織内部の目標、派生的な外部性、分配の不公平:Wolf, 1979)を含めて、実現可能な選択肢どうしを比べます
  2. 目的・基準・誰の便益を数えるか:6つの目的のどれをどれだけ重視するかは政治が決めますが、決めたことを明示します。誰の便益と費用を数えるか(国民か、居住者か、将来世代か)と、成果を何で測るかを、施策を選ぶ前に固定します。後から選ぶと都合のよい指標が選ばれます
  3. 代替案の構築:「何もしない」を必ず含め、同じ目的を達成できる手段を4つの役割にわたって並べます。米国の指針が、規制案に対して性能基準・市場的手段・情報提供・非規制の代替案を検討させるのはこのためです。一般に、予算上の費用は情報→権威→財源→組織の順に増えますが、これは社会的費用の順序ではありません(次節)。情報的な介入は費用対効果が高い一方(自動加入は1ドルあたり年100ドルの追加拠出、税制優遇は2.77ドル:Benartzi et al., 2017)、実際の政府機関で測ると効果は学術論文の値のごく一部にすぎません(DellaVigna & Linos, 2022)。安い手段から検討しつつ、効果が足りるかを別に確認します
  4. 証拠の収集と効果の予測:施策が成果指標をどれだけ動かすかを、比較対照のある方法で推定します。信頼度の順に、無作為化実験→自然実験(制度の境目や導入時期の差を使う)→統計的な調整→専門家の判断です(Angrist & Pischke, 2010)。医療ではGRADE基準がこの階層を標準化しています(Guyatt et al., 2008)。既存の系統的レビューを先に引き、なければ小さく試して測ります
  5. 共通単位への換算と比較:異なる成果を比べるため、便益を金額(費用便益分析)、健康単位(費用効果分析)、受益者の支払意思額(MVPF)に変換し、費用との比率で並べます。単価(統計的生命の価値、時間の価値、割引率)は施策ごとに選ばず、政府共通の表から取ります。
  6. 不確実性と分配の確認:主要な前提を上下に振って結論が変わるかを確かめ、低所得層への便益に重みをつけるかを明示し、取り返しがつかない被害には上乗せをします。あわせて、財源(債務の持続可能性)、執行能力(人員と手続き)、政治(継続性)の制約の中で実行できるかを確かめます。制約を超える施策は、正しくても失敗します
  7. 決定と説明:比率の高い順に並べ、予算または閾値に達したところで線を引き、前提と判断を公表します。分析は決定への入力であって決定そのものではなく、測れない便益がある場合は「正当化されるには最低いくら必要か」を逆算して示します(損益分岐分析)
  8. 監視・事後評価・反映:導入後に効果を測り、終了条件と照らし、結果を次の予算に戻します。この段階を持つのはグリーンブックと米国の事後レビュー(2011年の大統領令)だけで、学術的な枠組みは勧告で終わっています。実務で最も弱い環がここにあることは、この章の後半で見ます

施策を定量化する方法

第5段階「共通単位への換算と比較」で使う物差しは3つあります。いずれも「効果の推定値」を「費用と比べられる単位」に翻訳する手続きで、どれを使うかは便益を金額にできるかどうかで決まります。

  • 費用便益分析(すべてを金額にできる場合):
    • 概要:便益と費用をともに金額に換算し、将来分を割引して現在価値にし、便益÷費用(費用便益比)または便益−費用(純現在価値)で比べます。インフラ、規制、防災が主な対象です。手順は標準教科書(Boardman et al., 2018)が定式化し、英国グリーンブック(HM Treasury, 2026)と米国OMB通達A-4(OMB, 2003)が政府共通の単価と割引率を定めています。英国は2026年2月の改訂で分量を4割以上削り、「費用便益比が1未満でも自動的に低い価値とは言えない」と明記して、地域への効果を重視する方向に転じました。
    • 例:道路事業では、走行時間の短縮・走行費用の減少・事故の減少を金額に換算して便益とし、建設費と50年分の維持費を割引して比べます。事故減少の金額化には「統計的生命の価値」を使い、米国運輸省は1人あたり約1,300万ドル(2023年)を採用しています。
    • 限界:便益の見積もりは楽観に偏りやすく、分析が実際に決定を変えた証拠は限定的です(Hahn & Tetlock, 2008)
  • 費用効果分析(便益を金額にしたくない、またはできない場合):
    • 概要:便益を金額にせず、成果を共通の自然単位で測り、1単位あたりの費用で比べます。医療では「質で調整した生存年(QALY)」が標準単位で、この枠組みはWeinstein & Stason(1977)が定式化し、教科書(Drummond et al., 2015)と英国NICEの手法指針(NICE, 2022)が実務の標準です。
    • 例:年3万ポンドの新薬が生存を1QALY延ばすなら1QALYあたり3万ポンドで英国の閾値(2026年4月から2.5〜3.5万ポンド)内、4万ポンドで0.5QALYなら8万ポンドで原則不採用です。日本は2019年から1QALYあたり500万円(抗がん剤などは750万〜1,000万円)を基準に、超える薬は保険収載したまま価格を引き下げています。
    • 限界:閾値の根拠は弱く、英国の医療費の実際の機会費用は1QALYあたり約1.3万ポンドと推計されています(Claxton et al., 2015)
  • MVPF(給付・税制など、受益者の価値で測れる場合):
    • 概要:Marginal Value of Public Funds。受益者が受け取る価値を、政府の純費用(支出から、将来の税収増や他の給付の減少を差し引いたもの)で割ります。受益者が受け取る価値は、受益者の「支払意志額(Willingness to Pay)」をベースに測定します。異なる政策を「公的資金1円あたりの受益者の価値」で横断比較でき、因果推論の推定値を厚生の言葉に翻訳する手続きとして整理されています(Hendren & Sprung-Keyser, 2020; Finkelstein & Hendren, 2020)。
    • 例:10億円の子ども向け給付で受益者が12億円分の価値を得、将来の税収増と給付減で4億円が政府に戻るなら、MVPF=12÷(10−4)=2.0です。子ども向けの医療保険拡大は税収増が費用を上回り、MVPFは無限大(元が取れる)と推計され、成人向けの政策は0.5〜2にとどまります。
    • 限界:受益者の「価値」を測るには、その人がいくら払う意思があるかの推定が必要で、給付以外の施策(国防・規制)には使いにくい

定量化できないものの扱い

国防の抑止力や法の支配の価値は、反事実が観察できず、便益を金額にできません。それでも判断を恣意に任せないための標準的な対応が3つあります。

  • 損益分岐分析(測れない便益の下限を示す):
    • 概要:「この施策が正当化されるには、測れない便益が最低いくら必要か」を費用から逆算して示します。便益の金額を当てるのではなく、判断の閾値を明示する方法で、米国OMB通達A-4と英国グリーンブックが、便益を定量化できない場合の手順として定めています(OMB, 2003; HM Treasury, 2026)。
    • 例:重要インフラのサイバーセキュリティ基準の遵守費用が年100億円なら、「年1,000億円規模の障害の発生確率を年10ポイント下げられるか」が判断の分岐点になります。決定者はこの確率が現実的かどうかを判断すればよく、便益そのものを金額にする必要はありません
  • 目的を固定して費用だけ比べる(費用最小化):
    • 概要:「どれだけの安全が必要か」ではなく「一定の安全を最も安く達成する手段はどれか」に問いを変えます。国防の分野でこの方法を確立したのはRAND研究所のHitch & McKean(1960)で、以後の各国の防衛計画の基礎になっています。
    • 例:「洪水による死者を年10人減らす」という目標を固定し、堤防の増強(500億円)、早期警報と避難計画(50億円)、危険区域からの移転補助(200億円)の費用を比べます。目標の水準は政治が決め、達成手段の比較は分析が担う、という分業です
  • 多基準分析(複数の指標に明示的な重みをつける):
    • 概要:金額に換算できない複数の基準を点数化し、事前に決めた重みで合成します。理論はKeeney & Raiffa(1976)が体系化し、英国政府は実務向けの手引きを公表しています(DCLG, 2009)。重みは政治が決めますが、決めたことが記録に残り、重みを変えたら順位がどう変わるかを検証できる点が長所です。
    • 例:災害時の物資拠点の候補地を、費用(重み40%)、被災地への到達時間(30%)、拠点自体の被災リスク(20%)、住民の受容(10%)でそれぞれ0〜100点で採点し、合成点で比べます。
    • 限界:重みと採点に恣意が入る余地が大きく、費用便益分析の代替ではなく、金額化できない部分を補う補助手段と位置づけられています

現代国家の分類ごとの目的・役割・施策の特徴

以前、整理した7つの国家のタイプについて、それぞれの目的・役割・施策の特徴を整理します。

自由市場型国家

  • 目的:経済の繁栄(生産性と雇用創出)と自由と良い統治が優先され、公正と安心は「機会の平等」と限定的なセーフティネットに絞られます。安全と秩序は国防に厚く、治安は州・地方に委ねられがちです
  • 役割:権威(競争政策、契約の執行、規制の見直し)と財源のうち税制が主役で、組織による直接供給は国防・司法・基礎研究に限られます
  • 施策:同じ「子どもへの投資」を社会民主主義型国家が公立保育の直接供給(組織)で行うのに対し、児童税額控除(財源)で行います。医療も公的供給ではなく、保険市場への規制と補助で組み立てます。近年はCHIPS法やIRAのように産業政策への回帰も起きています
  • 優先すべきこと:最大の課題は政策の継続性です。政権交代で10年の投資計画が3年で覆る(米国IRAの例)ことが、補助金競争の中で最大のリスクになります。法律で財源を固定する、超党派の枠組みを作る、独立機関に評価を委ねる、といった継続性の装置が優先されます

社会民主主義型国家

  • 目的:公正と安心、健康と教育、持続可能性が同時に高く、それを経済の繁栄と両立させることを前提にします。「格差の縮小は成長を妨げない」という第3章の知見を制度として実装している型です
  • 役割:財源(普遍的な給付)と組織(公的な保育・教育・医療・職業訓練)を大規模に使い、権威は労使協調の枠組みの中で使います。高い社会的信頼のおかげで、情報(統計・開示)の質と行政の透明性が高い
  • 施策:積極的労働市場政策や保育の直接供給は、この型でしか大規模には成立していません。人口が小さく同質性が高いことが前提で、制度だけを移植しても同じ結果は出にくい
  • 優先すべきこと:政府規模は既に大きく、追加の財源余地は小さい。優先すべきは支出の中身の入れ替え(高齢者向けから子ども・教育・気候へ)と、高い社会的信頼を維持するための透明性です。ノルウェーの基金のように資源収入を隔離する設計は、他の資源国への手本になります

保守主義・コーポラティズム型国家

  • 目的:公正と安心のうち「働いていたときの地位と所得水準の維持」が中心で、格差の縮小そのものより安定が重視されます。安全と秩序はEUとNATOによる共同化、経済の繁栄は製造業と職業訓練の質で担います
  • 役割:財源のうち社会保険料が主役で、給付は職域に紐づきます。権威は労使団体との交渉のルールとして使われ、直接の規制より協約による調整が多い
  • 施策:職業訓練が企業と労使団体の共同で行われ、政府は枠組みを提供する側に回ります。財政ルールはEUの共通枠組みに縛られ、一国の裁量が小さい
  • 優先すべきこと:社会保険料が労働コストを押し上げているため、財源を保険料から税へ移すことと、EUレベルでの共同投資(ドラギ報告の提言)による規模の確保が焦点です。財政ルールは「投資を消費と区別する」方向へ改革されましたが、その運用が試されています

東アジア開発型国家

  • 目的:経済の繁栄(産業と輸出)と健康と教育(とくに教育)が最優先で、安全と秩序は近年、経済安全保障として急浮上しています。公正と安心は長く家族と企業(終身雇用)に委ねられ、政府の役割は小さかった
  • 役割:組織(試験で選ばれた官僚制による計画と調整)と財源のうち産業政策が主役です。教育は組織(公立学校)で手厚く供給し、福祉は「成長に役立つもの」から整備されました
  • 施策:半導体への巨額補助、官民の対話、長期の産業戦略は、この型の官僚制の能力があって初めて機能します。同じ産業政策を能力の弱い国が行うと、政府の失敗が先に現れます
  • 優先すべきこと:高齢化で福祉支出が急増し、産業投資の財源が圧迫されています。子どもへの投資を成長戦略として位置づけ直すこと、半導体などで既に強い工程に集中すること、そして官僚制の執行能力を維持することが優先されます。「子どもへの投資」を最も急ぐタイプです

国家資本主義・権威主義型国家

  • 目的:経済の繁栄(投資とインフラ)と安全と秩序が最優先で、自由と良い統治は目的から外れます。公正と安心は都市と農村、正規と非正規で大きく分断されたままです
  • 役割:組織(国有企業、国有銀行)と権威(統制、許認可)が主役で、市場は手段として使います。情報(開示・独立した統計・評価)は最も機能しにくい役割です
  • 施策:数年で高速鉄道網や送電網を建設できる速度と規模がこの型の強みです。一方、「測って見直してやめる」仕組みは、選挙による軌道修正がないため制度的に最も導入しにくい
  • 優先すべきこと:投資の規模と速度には強いが、非効率な配分と過剰投資を修正する仕組みが弱い。理論が示す「競争の維持」「撤退ルール」は、このタイプでこそ重要になりますが、制度的に最も導入しにくい

レンティア国家

  • 目的:安全と秩序、そして資源収入の配分による「安心」(公正と安心のうち安心の側)が中心です。自由と良い統治は優先されず、経済の繁栄は資源部門に依存します
  • 役割:財源のうち「配ること」(補助金、公共部門雇用、無税)が主役で、「集めること」は行われません。組織は国営資源企業と政府系ファンドが中核です
  • 施策:税がないため国民が政府を監視する動機も弱く、権威(規制)と情報(開示)が発達しません。近年の付加価値税導入は、税国家への移行を通じて統治の型そのものを変えようとする試みです
  • 優先すべきこと:資源収入が続くうちに、収入を基金に隔離し、非資源部門への投資と税制度の構築を進めること。「配る政府」から「集める政府」への移行は、リーダーの選ばれ方(第2章)にも影響する、最も根本的な転換です

新興・低所得型国家

  • 目的:健康と教育、経済の繁栄、基礎的な安全と秩序が優先されますが、達成を阻むのは目的の設定ではなく執行能力です。持続可能性(環境・財政)は後回しになりがちです
  • 役割:権威と組織は形の上では整っていても実効性が弱いため、行政の裁量を通さない手段、つまり情報(デジタルIDと決済基盤)と財源のうち現金給付が、最も効果を上げやすい役割になります
  • 施策:インドのAadhaarとUPIは、先進国が組織(役所の窓口)で行ってきた給付や本人確認を、情報基盤で代替した例です。徴税能力が弱いため財源が援助と資源に依存し、政府の説明責任が国民ではなく援助国に向きやすい
  • 優先すべきこと:徴税と執行の能力がすべての前提です。先進国の制度を形だけ輸入するより、デジタル公共基盤(第4章)のように国家能力を直接高める投資と、問題駆動型の段階的な制度構築が優先されます

政府の役割や施策に関する最新研究の動向

主に2010年代後半から2026年までに発表された研究を整理します。

政府の役割をめぐる研究の見方がこの10年で次のように変わっています。

見方を変えた3つの背景

  • データと手法の進歩:行政記録や企業レベルのデータが研究に使えるようになり、無作為化実験や自然実験で因果関係を識別する手法が標準になりました(Angrist & Pischke, 2010)。「相関」に基づいていた通説が、「因果」のエビデンスで検証し直された結果、産業政策や最低賃金のように結論が反転した分野が現れました
  • 2008年の金融危機とゼロ金利:金融政策が効かない状況が10年以上続いたことで、財政政策の効果と債務の持続可能性が改めて実証研究の中心になりました
  • パンデミックと地政学的緊張:供給網の断絶、経済安全保障、政府の執行能力といった、それまで経済学の周縁にあった論点が主題になりました

以下、各トピックで研究の動向を概観します。

産業政策:「一律に非効率」から「設計次第で効く」へ

  • 1990年代以降の通説は、政府は勝者を選べず産業政策は既得権益化するというものでした。2010年代後半から、韓国の重化学工業化(Lane, 2025; Choi & Levchenko, 2025)や中国の造船業(Barwick, Kalouptsidi & Zahur, 2025)といった個別の政策を因果的に評価した研究が蓄積し、対象産業と下流産業の長期的な成長が確認される一方、参入補助の浪費や過剰投資も定量化されました。総括として、産業政策は一律に非効率でも万能でもなく、設計の巧拙が結果を分ける、というのが現在の到達点です(Juhász, Lane & Rodrik, 2024)
  • 一方で、理論が想定する規模の経済に基づく最適な産業政策の厚生効果は「劇的とは言えない」とする研究もあり(Bartelme et al., 2025)、過度な期待への歯止めになっています
  • 実務では2023年に世界で2,500件を超える産業政策が導入され(Evenett et al., 2024)、IMFは介入の8割以上が補助金型で、1件の直接支援が3年後に対象産業の付加価値を約0.5%高めると推計しています(IMF, 2025)。米国CHIPS法の雇用効果を測った最初の研究は、雇用増は総額に比して小さく、便益は「国内に製造能力があること」自体として評価する必要があると示しました(Erten, Stiglitz & Verhoogen, 2025)。半導体では国境を越えた学習効果が大きく、各国が独自に補助すると世界全体で過剰投資になることも示されています(Goldberg et al., 2024)

財政政策:乗数の局面依存性と債務の再検討

  • 政府支出の乗数は多くの推定で0.6〜1.0に収まるという合意が形成されましたが(Ramey, 2019)、不況期には1〜1.5、拡大期には0〜0.5と局面で大きく異なります(Auerbach & Gorodnichenko, 2012)。2010年代の欧州の緊縮政策が成長を予測以上に下押ししたことは、当時の乗数の想定が過小だったことを示しました(Blanchard & Leigh, 2013)。公共投資は消費的支出より乗数が大きく、不確実性の高い局面では2を超えます(IMF, 2020)
  • 債務については、利子率が成長率を下回る状態では債務の財政コストは小さいという議論(Blanchard, 2019)と、実質純利払い費をGDP比2%以下に保つことを目安とする提案(Furman & Summers, 2020)が2010年代末に広がりました。「ただ乗り」できる赤字の余地は貯蓄需要にも依存し、米国は小さく日本は相対的に大きいという推計もあります(Mian, Straub & Sufi, 2025)。しかし2022年以降の金利上昇でこの前提は崩れ、投資的支出を経常支出と区別する財政ルールや独立財政機関の役割が再び焦点になっています

再分配と人的資本:政策を横断的に比べる

  • 異なる政策を「公的資金1ドルあたりの受益者の価値」で比較する指標(MVPF)が整備され、133の政策の比較から、低所得層の子どもへの投資は将来の税収で元が取れるものが多く、成人向けの政策は0.5〜2にとどまることが示されました(Hendren & Sprung-Keyser, 2020)。育つ環境が子どもの生涯所得を左右することも、住宅移転実験で確認されています(Chetty, Hendren & Katz, 2016)
  • 最低賃金は雇用を減らすという通説は、138回の引き上げを分析した研究で、適度な水準では雇用をほとんど減らさないことが示され(Cengiz et al., 2019)、財政支出を伴わない再分配手段として見直されました
  • 職業訓練などの積極的労働市場政策は短期には効果がゼロに見えるが2〜3年後に正になる(Card, Kluve & Weber, 2018)、無条件の現金給付は労働供給を減らすがその影響は限定的(Vivalt et al., 2026)、といった実験・メタ分析の結果が、長年の政策論争を実証に置き換えつつあります

国家能力と政治経済学:政府の失敗を分解する

  • 徴税・法執行・サービス提供の能力が補完的に発達した国だけが長期的に豊かになるという国家能力論(Besley & Persson, 2011)を土台に、国家の能力と社会による制約の2軸で国家の型を分ける枠組みが広く参照されるようになりました(Acemoglu & Robinson, 2019)
  • 政府の失敗は介入に内在するのではなく、政策の野心が国の政治的・行政的な能力を超えたときに生じる、という整理が主流になりました(Juhász & Lane, 2024)。途上国では、先進国の制度の形だけを模倣して実質が伴わない「能力の罠」が分析されています(Andrews, Pritchett & Woolcock, 2017)
  • 先進国でも執行能力が問われています。米国の州間高速道路の建設費が1マイルあたり3倍以上になった要因は資材や賃金では説明できず(Brooks & Liscow, 2023)、住宅・エネルギー・交通の供給不足の原因を規制と手続きに求める議論が政策論争の中心に入りました(Klein & Thompson, 2025)

経済安全保障とレジリエンス:新しい公共財

  • 供給網の安定が公共財として扱われるようになり、国内回帰は必ずしもリスクを減らさないこと(Baldwin & Freeman, 2022)、政策が促すべきは国内回帰ではなく調達先の多角化であること(Grossman, Helpman & Lhuillier, 2023)が理論的に示されました
  • 世界経済が貿易ブロックに分断された場合のコストは世界GDPの0.2%から7%まで幅があり、技術の分断が加わると一部の国で8〜12%に達すると推計されています(Aiyar et al., 2023)

イノベーションと技術:研究投資の必要性とAIの期待値

  • 研究生産性は年5%以上のペースで低下し続けており、成長率を維持するだけでも研究投入を増やし続ける必要があります(Bloom, Jones, Van Reenen & Webb, 2020)。政府研究費の民間特許への波及は明確で(Azoulay et al., 2019)、米国特許の約3割は連邦資金による研究に依拠しています(Fleming et al., 2019)。IMFは公的研究費が税制より民間研究開発の誘発効果が大きいと推計しました(IMF, 2024)
  • AIの生産性効果については、慎重なマクロ推計では今後10年で全要素生産性を0.5〜0.7%程度押し上げるにとどまる(Acemoglu, 2025)一方、コールセンターの実験では生産性が平均15%上がり効果は経験の浅い労働者で最大(Brynjolfsson, Li & Raymond, 2025)と、マクロとミクロで見え方が異なります

気候とエネルギー:移行の費用の見直し

  • 最適な気候政策は炭素価格と研究開発補助の組み合わせであるという理論(Acemoglu, Aghion, Bursztyn & Hemous, 2012)に加え、再生可能エネルギーのコスト低下が予測を一貫して上回ってきた実績から、移行を速める方が遅らせるより安上がりになる可能性が高いという分析が出ています(Way et al., 2022)
  • 米国IRAの地域限定の税額控除は対象地域の太陽光投資を大きく増やしたが地域雇用への効果は検出されなかったという初期評価(Keuzenkamp et al., 2026)は、場所に基づく政策の限界を改めて示しました

おわりに

本稿では、政府の歴史的な経緯から出発し、政府の役割、目的、施策に関して、網羅的に整理をしました。今後、自分の住んでいる国や世界において問題が発生した時に、どのように解決を図っていくのか、その指針の一つになれればと思います。

参考文献

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  • Acemoglu, D. (2025). The Simple Macroeconomics of AI. Economic Policy, 40(121), 13–58.
    • 概要:AIによる全要素生産性の上昇は今後10年で0.5〜0.7%程度と、慎重な推計を示した。
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    • 概要:最適な気候政策は炭素税と研究開発補助の組み合わせであり、早期の介入ほど低コストで済む。
  • Acemoglu, D., & Robinson, J. A. (2000). Why Did the West Extend the Franchise? Democracy, Inequality, and Growth in Historical Perspective. Quarterly Journal of Economics, 115(4), 1167–1199.
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  • Aghion, P., Cai, J., Dewatripont, M., Du, L., Harrison, A., & Legros, P. (2015). Industrial Policy and Competition. AEJ: Macroeconomics, 7(4), 1–32.
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  • Aiyar, S., et al. (2023). Geoeconomic Fragmentation and the Future of Multilateralism. IMF Staff Discussion Note 2023/001.
    • 概要:貿易分断のコストは世界GDPの0.2〜7%、技術分断が加わると一部の国で8〜12%に達する。
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    • 概要:買い手が品質を見分けられない市場では良質な財が退出し市場が縮小することを、中古車市場を例に示した。
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    • 概要:医療市場の特殊性を情報の非対称性と不確実性から説明し、医療経済学の出発点となった。
  • Auerbach, A. J., & Gorodnichenko, Y. (2012). Measuring the Output Responses to Fiscal Policy. AEJ: Economic Policy, 4(2), 1–27.
    • 概要:乗数は景気拡大期に0〜0.5、不況期に1〜1.5と局面で大きく異なることを示した。
  • Azoulay, P., Fuchs, E., Goldstein, A. P., & Kearney, M. (2019). Funding Breakthrough Research: Promises and Challenges of the "ARPA Model". Innovation Policy and the Economy, 19, 69–96.
    • 概要:DARPA型の研究資金配分の特徴(任期付きマネージャーの裁量、失敗許容)と他分野への移植可能性を検討。
  • Azoulay, P., Graff Zivin, J. S., Li, D., & Sampat, B. N. (2019). Public R&D Investments and Private-sector Patenting. Review of Economic Studies, 86(1), 117–152.
    • 概要:NIH研究費1,000万ドルが民間特許2.3件を生み、半分は別の疾患領域に波及する。
  • Baldwin, R., & Freeman, R. (2022). Risks and Global Supply Chains: What We Know and What We Need to Know. Annual Review of Economics, 14, 153–180.
    • 概要:国内回帰は必ずしもリスクを減らさず、リスクと報酬を比較する枠組みが必要と論じた。
  • Bardach, E. S., & Patashnik, E. M. (2023). A Practical Guide for Policy Analysis: The Eightfold Path to More Effective Problem Solving (7th ed.). CQ Press.
    • 概要:政策分析の実務手順を「8つの道筋」(問題の定義→証拠の収集→代替案の構築→基準の選択→結果の予測→トレードオフの直視→決定→説明)として示した定番の入門書。
  • Bartelme, D., Costinot, A., Donaldson, D., & Rodríguez-Clare, A. (2025). The Textbook Case for Industrial Policy: Theory Meets Data. Journal of Political Economy, 133(5), 1527–1573.
    • 概要:規模の経済に基づく最適産業政策の厚生効果は、開放経済でも「劇的とは言えない」規模にとどまる。
  • Barwick, P. J., Kalouptsidi, M., & Zahur, N. B. (2025). Industrial Policy Implementation: Empirical Evidence from China's Shipbuilding Industry. Review of Economic Studies, 92(6).
    • 概要:中国造船業への約6,240億元の補助はシェアを40ポイント高めたが利益は1,530億元にとどまり、参入補助は浪費的だった。
  • Baumgartner, F. R., & Jones, B. D. (1993). Agendas and Instability in American Politics. University of Chicago Press.
    • 概要:政策は長い安定と稀な急変(断続平衡)を繰り返すことを示した。後続の研究は予算配分の変化にも同じ分布が見られることを確認している。
  • Baumol, W. J., Panzar, J. C., & Willig, R. D. (1982). Contestable Markets and the Theory of Industry Structure. Harcourt Brace Jovanovich.
    • 概要:埋没費用が小さければ独占市場でも参入の脅威が価格を規律する「コンテスタブル市場」の理論を体系化した。
  • Beblawi, H., & Luciani, G. (Eds.) (1987). The Rentier State. Croom Helm.
    • 概要:資源収入に依存し国民から税を取らない「レンティア国家」の概念を提示した。
  • Benartzi, S., Beshears, J., Milkman, K. L., et al. (2017). Should Governments Invest More in Nudging? Psychological Science, 28(8), 1041–1055.
    • 概要:情報的介入(ナッジ)の1ドルあたりの行動変化は、退職貯蓄で年100ドルの追加拠出(税制優遇は2.77ドル)など、従来手段を大きく上回る場合があると示した。
  • Besley, T., & Persson, T. (2011). Pillars of Prosperity. Princeton University Press.
    • 概要:徴税・契約執行・公共サービスの能力が補完的に発達した国だけが豊かになるという国家能力論。
  • Beveridge, W. (1942). Social Insurance and Allied Services. HMSO.
    • 概要:包括的な社会保険と国民最低限の保障を提言し、戦後の福祉国家の設計図となった報告書。
  • Blanchard, O. (2019). Public Debt and Low Interest Rates. American Economic Review, 109(4), 1197–1229.
    • 概要:利子率が成長率を下回る状態では公的債務の財政コストはなく、厚生コストも小さい可能性を論じた。
  • Blanchard, O. J., & Leigh, D. (2013). Growth Forecast Errors and Fiscal Multipliers. American Economic Review, 103(3), 117–120.
    • 概要:欧州の財政再建期に成長予測が系統的に下振れしたことから、当時の乗数想定が過小だったと示した。
  • Bloom, N., Jones, C. I., Van Reenen, J., & Webb, M. (2020). Are Ideas Getting Harder to Find? American Economic Review, 110(4), 1104–1144.
    • 概要:米国の研究生産性は年5%以上低下し続けており、成長維持には研究投入の増加が必要と示した。
  • Boardman, A. E., Greenberg, D. H., Vining, A. R., & Weimer, D. L. (2018). Cost-Benefit Analysis: Concepts and Practice (5th ed.). Cambridge University Press.
    • 概要:費用便益分析の標準教科書。代替案の特定から勧告までの10の手順を定式化し、分析の各段階で必要な判断(誰の便益を数えるか、割引率、感度分析)を体系化した。
  • Boehm, C. (1999). Hierarchy in the Forest: The Evolution of Egalitarian Behavior. Harvard University Press.
    • 概要:狩猟採集社会の平等は、集団が支配的な個人を積極的に抑え込む「逆位の支配」によって維持されたと論じた。
  • Bom, P. R. D., & Ligthart, J. E. (2014). What Have We Learned from Three Decades of Research on the Productivity of Public Capital? Journal of Economic Surveys, 28(5), 889–916.
    • 概要:68研究のメタ分析。公共資本の産出弾力性は短期0.08・長期0.12、コア・インフラは0.19。
  • Bowles, S., & Choi, J.-K. (2013). Coevolution of farming and private property during the early Holocene. PNAS, 110(22), 8830–8835.
    • 概要:農耕と私有財産は互いを強め合いながら同時に成立したことをモデルと考古学的証拠で示した。
  • Bremmer, I. (2010). The End of the Free Market: Who Wins the War Between States and Corporations? Portfolio.
    • 概要:国家が市場を政治目的に用いる「国家資本主義」の台頭を論じた。
  • Brooks, L., & Liscow, Z. (2023). Infrastructure Costs. AEJ: Applied Economics, 15(2), 1–30.
    • 概要:米国州間高速道路の建設費は1マイルあたり3倍以上に増え、資材・賃金では説明できないことを示した。
  • Brynjolfsson, E., Li, D., & Raymond, L. (2025). Generative AI at Work. Quarterly Journal of Economics, 140(2), 889–942.
    • 概要:生成AIの導入でカスタマーサポートの生産性が平均15%上がり、効果は経験の浅い労働者で最大だった。
  • Buchanan, J. M., & Tullock, G. (1962). The Calculus of Consent. University of Michigan Press.
    • 概要:政治家・官僚も自己利益で動くという公共選択論の基礎。「政府の失敗」論の源流。
  • Caballero, R. J., Hoshi, T., & Kashyap, A. K. (2008). Zombie Lending and Depressed Restructuring in Japan. American Economic Review, 98(5), 1943–1977.
    • 概要:1990年代日本のゾンビ貸出が健全企業の投資と雇用を抑えたことを示した。
  • Card, D., Kluve, J., & Weber, A. (2018). What Works? A Meta Analysis of Recent Active Labor Market Program Evaluations. Journal of the European Economic Association, 16(3), 894–931.
    • 概要:職業訓練などの効果は短期ではほぼゼロだが2〜3年後に正になり、訓練型・女性・長期失業者で大きい。
  • Carneiro, R. L. (1970). A Theory of the Origin of the State. Science, 169(3947), 733–738.
    • 概要:逃げ場のない環境での人口増加と戦争が国家形成を促したとする「環境制約」理論。
  • Cengiz, D., Dube, A., Lindner, A., & Zipperer, B. (2019). The Effect of Minimum Wages on Low-Wage Jobs. Quarterly Journal of Economics, 134(3), 1405–1454.
    • 概要:米国の138回の最低賃金引き上げを分析し、低賃金の雇用がほとんど減らずに賃金が上がったことを示した。
  • Chalfin, A., & McCrary, J. (2018). Are U.S. Cities Underpoliced? Theory and Evidence. Review of Economics and Statistics, 100(1), 167–186.
    • 概要:警察官の増員が犯罪を減らし、その社会的便益が費用を上回ることから、米国の多くの都市は警察が過少だと論じた。
  • Chetty, R., & Finkelstein, A. (2013). Social Insurance: Connecting Theory to Data. In Handbook of Public Economics, Vol. 5, 111–193. Elsevier.
    • 概要:社会保険の最適設計を理論とデータで接続した総説。保険機能と逆選択の是正が根拠。
  • Chetty, R., Friedman, J. N., & Rockoff, J. E. (2014). Measuring the Impacts of Teachers II: Teacher Value-Added and Student Outcomes in Adulthood. American Economic Review, 104(9), 2633–2679.
    • 概要:付加価値の高い教員に教わった生徒は成人後の所得と大学進学率が高いことを大規模データで示した。
  • Chetty, R., Hendren, N., & Katz, L. F. (2016). The Effects of Exposure to Better Neighborhoods on Children. American Economic Review, 106(4), 855–902.
    • 概要:13歳前に貧困地区から転出した子どもは20代半ばの所得が約31%高い。
  • Choi, J., & Levchenko, A. A. (2025). The Long-Term Effects of Industrial Policy. Journal of Monetary Economics, 152.
    • 概要:韓国で補助を受けた企業は支援終了後30年成長を続け、政策がなければ厚生は3〜4%低かったと推計。
  • Claxton, K., Martin, S., Soares, M., et al. (2015). Methods for the estimation of the National Institute for Health and Care Excellence cost-effectiveness threshold. Health Technology Assessment, 19(14).
    • 概要:英国NHSの支出の実際の機会費用は1QALYあたり約1万2,936ポンドと推計され、NICEの当時の閾値(2〜3万ポンド)は高すぎる可能性を示した。
  • Coase, R. H. (1960). The Problem of Social Cost. Journal of Law and Economics, 3, 1–44.
    • 概要:取引費用が小さければ所有権の明確化だけで外部性は当事者間の交渉で解決できると論じ、政府の役割を「権利の設計」として捉え直した。
  • DCLG (2009). Multi-criteria Analysis: A Manual. Department for Communities and Local Government.
    • 概要:英国政府の多基準分析の実務手引き。基準の設定、採点、重みづけ、感度分析の手順を示し、費用便益分析を補う位置づけを明記した。
  • de Waal, F. (1982). Chimpanzee Politics: Power and Sex among Apes. Jonathan Cape.
    • 概要:チンパンジーの群れにおける権力闘争と、アルファ雄による争いの仲裁行動を記録した古典。
  • Dechezleprêtre, A., Einiö, E., Martin, R., Nguyen, K.-T., & Van Reenen, J. (2023). Do Tax Incentives Increase Firm Innovation? AEJ: Economic Policy, 15(4), 486–521.
    • 概要:英国の中小企業向け研究開発税制は研究開発と特許を増やし、近接企業への波及も確認された。
  • DellaVigna, S., & Linos, E. (2022). RCTs to Scale: Comprehensive Evidence from Two Nudge Units. Econometrica, 90(1), 81–116.
    • 概要:米国の2つの政府ナッジ部門の126の無作為化実験(対象2,300万人)を分析し、効果は平均1.4ポイント(対照群比8.0%増)で、学術誌の平均8.7ポイント(同33.4%増)を大きく下回ることを示した。差の約7割は出版バイアスと検定力の低さによる。
  • Demsetz, H. (1969). Information and Efficiency: Another Viewpoint. Journal of Law and Economics, 12(1), 1–22.
    • 概要:現実の制度を実現不可能な理想と比べて欠陥を論じる「ニルヴァーナの誤謬」を指摘し、実現可能な選択肢どうしを比較すべきだと論じた。
  • Diamond, D. W., & Dybvig, P. H. (1983). Bank Runs, Deposit Insurance, and Liquidity. Journal of Political Economy, 91(3), 401–419.
    • 概要:健全な銀行でも預金者の不安が自己実現的に取り付けを引き起こすことを示し、預金保険の理論的根拠を与えた。
  • Diamond, J. (1997). Guns, Germs, and Steel: The Fates of Human Societies. W. W. Norton.
    • 概要:食料生産から国家形成への経路を描き、支配層が支配を維持する4条件(武装の独占、貢納の還元、秩序維持、正当化の思想)を整理した。
  • Djankov, S., La Porta, R., Lopez-de-Silanes, F., & Shleifer, A. (2003). Courts. Quarterly Journal of Economics, 118(2), 453–517.
    • 概要:109カ国の裁判手続きを比較し、手続きの形式性が高い国ほど司法が遅く、契約執行の質が低いことを示した。
  • Doepke, M., Hannusch, A., Kindermann, F., & Tertilt, M. (2023). The Economics of Fertility: A New Era. In Handbook of the Economics of the Family, Vol. 1, 151–254. Elsevier.
    • 概要:先進国では仕事と子育ての両立のしやすさが出生率を決めるようになったと整理し、出生率政策の効果が限定的であることを示した。
  • Drummond, M. F., Sculpher, M. J., Claxton, K., Stoddart, G. L., & Torrance, G. W. (2015). Methods for the Economic Evaluation of Health Care Programmes (4th ed.). Oxford University Press.
    • 概要:医療の経済評価の標準教科書。費用効果分析・費用効用分析・費用便益分析の手順と、不確実性の扱い、意思決定への接続を体系化した。
  • Earle, T. (1997). How Chiefs Come to Power: The Political Economy in Prehistory. Stanford University Press.
    • 概要:首長の権力基盤を経済・軍事・イデオロギーの3つに整理し、首長制から国家への移行条件を論じた。
  • Erten, B., Stiglitz, J. E., & Verhoogen, E. (2025). Employment Impacts of the CHIPS Act. Brookings Papers on Economic Activity.
    • 概要:CHIPS法の雇用効果は対象郡で110〜180人、全国で直接約1.5万人と、総額に比して小さいことを示した。
  • Esping-Andersen, G. (1990). The Three Worlds of Welfare Capitalism. Princeton University Press.
    • 概要:福祉国家を社会民主主義型・保守主義型・自由主義型の3類型に整理した。
  • Evans, P. (1995). Embedded Autonomy: States and Industrial Transformation. Princeton University Press.
    • 概要:産業界と密に連携しつつ個別利害から独立を保つ「埋め込まれた自律性」が産業政策成功の条件と論じた。
  • Evenett, S., Jakubik, A., Martín, F., & Ruta, M. (2024). The Return of Industrial Policy in Data. IMF Working Paper 24/1 / The World Economy, 47(7), 2762–2788.
    • 概要:2023年に世界で2,500件超の産業政策が導入され、71%が貿易歪曲的、約7割が先進国によるものと集計。
  • Finkelstein, A., & Hendren, N. (2020). Welfare Analysis Meets Causal Inference. Journal of Economic Perspectives, 34(4), 146–167.
    • 概要:公的資金の限界価値(MVPF)を、因果推論の成果を政策横断の厚生比較に翻訳する共通指標として位置づけた。
  • Flack, J. C., Girvan, M., de Waal, F. B. M., & Krakauer, D. C. (2006). Policing stabilizes construction of social niches in primates. Nature, 439, 426–429.
    • 概要:上位個体による仲裁(ポリシング)を除去すると群れの攻撃が増え協力関係が壊れることを実験で示した。
  • Fleming, L., Greene, H., Li, G., Marx, M., & Yao, D. (2019). Government-funded research increasingly fuels innovation. Science, 364(6446), 1139–1141.
    • 概要:米国特許の約3割が連邦資金による研究に依拠し、その割合は1970年代の3倍に増加。
  • Fried, M. H. (1967). The Evolution of Political Society. Random House.
    • 概要:平等社会→ランク社会→階層社会→国家という政治的進化の枠組みを提示した。
  • Furman, J., & Summers, L. H. (2020). A Reconsideration of Fiscal Policy in the Era of Low Interest Rates. Brookings/PIIE.
    • 概要:債務残高より実質純利払い費(GDP比2%以下)を持続可能性の目安にすべきと提案。
  • Ghani, A., & Lockhart, C. (2008). Fixing Failed States: A Framework for Rebuilding a Fractured World. Oxford University Press.
    • 概要:法の支配から公的借入まで、近代国家が果たすべき10の機能を列挙し、国家再建の枠組みとした。
  • Goldberg, P. K., Juhász, R., Lane, N., Lo Forte, G., & Thurk, J. (2024). Industrial Policy in the Global Semiconductor Sector. NBER Working Paper 32651.
    • 概要:半導体では国境を越えた学習効果が大きく、各国が独自に補助すると世界全体で過剰投資になる。
  • Graeber, D., & Wengrow, D. (2021). The Dawn of Everything: A New History of Humanity. Farrar, Straus and Giroux.
    • 概要:先史社会が季節的に平等と階層を行き来していた事例を示し、「平等から階層へ」という一方向の物語を批判した。
  • Grossman, G. M., Helpman, E., & Lhuillier, H. (2023). Supply Chain Resilience: Should Policy Promote International Diversification or Reshoring? Journal of Political Economy, 131(12), 3462–3496.
    • 概要:政策が促すべきは国内回帰ではなく調達先の多角化であることを理論的に示した。
  • Guyatt, G. H., Oxman, A. D., Vist, G. E., et al. (2008). GRADE: An Emerging Consensus on Rating Quality of Evidence and Strength of Recommendations. BMJ, 336(7650), 924–926.
    • 概要:医療の証拠の質を「高・中・低・非常に低」の4段階で格付けし、推奨の強さと分けて示すGRADE基準を提示。無作為化実験を最上位とする証拠の階層を実務標準にした。
  • Hahn, R. W., & Tetlock, P. C. (2008). Has Economic Analysis Improved Regulatory Decisions? Journal of Economic Perspectives, 22(1), 67–84.
    • 概要:規制の経済分析を義務づけて数十年経つが、決定の内容への影響は限定的だったと総括し、それでも分析の質を高める方向を支持した。
  • Hall, P. A., & Soskice, D. (Eds.) (2001). Varieties of Capitalism: The Institutional Foundations of Comparative Advantage. Oxford University Press.
    • 概要:資本主義を市場で調整する「自由市場経済」と団体交渉で調整する「調整型市場経済」に分け、制度の補完性を論じた。
  • Hanushek, E. A., & Woessmann, L. (2015). The Knowledge Capital of Nations. MIT Press.
    • 概要:在学年数ではなく学力(認知スキル)が長期成長を説明し、1標準偏差で年率約2ポイントの差になる。
  • Hayek, F. A. (1945). The Use of Knowledge in Society. American Economic Review, 35(4), 519–530.
    • 概要:経済に必要な知識は社会に分散しており、価格がそれを集約する。中央計画には情報の限界があると論じた。
  • Heckman, J. J. (2006). Skill Formation and the Economics of Investing in Disadvantaged Children. Science, 312(5782), 1900–1902.
    • 概要:人的資本投資の収益率は年齢とともに下がり、不利な環境の子どもへの幼少期投資が最も高い。
  • Hendren, N., & Sprung-Keyser, B. (2020). A Unified Welfare Analysis of Government Policies. Quarterly Journal of Economics, 135(3), 1209–1318.
    • 概要:133政策のMVPFを比較。低所得層の子どもへの投資は平均5超で自己回収するものも多く、成人向けは0.5〜2。
  • Henrich, J., & Gil-White, F. J. (2001). The evolution of prestige: Freely conferred deference as a mechanism for enhancing the benefits of cultural transmission. Evolution and Human Behavior, 22(3), 165–196.
    • 概要:人間の地位には力で従わせる「ドミナンス」と、能力ある者に自発的に従う「プレステージ」の2経路があると論じた。
  • Hitch, C. J., & McKean, R. N. (1960). The Economics of Defense in the Nuclear Age. Harvard University Press.
    • 概要:RAND研究所の研究に基づき、国防を「一定の目標を最小費用で達成する」問題として分析するシステム分析・費用効果分析の方法を確立した。
  • HM Treasury (2026). The Green Book: Appraisal and Evaluation in Central Government. HM Treasury.
    • 概要:英国政府の事業評価の統一指針。根拠→目的→評価→監視→事後評価→反映のROAMEFサイクルを政策の全過程に置き、2026年改訂で分量を4割以上削って費用便益比への偏重を弱めた。
  • Hobbes, T. (1651). Leviathan. (邦訳『リヴァイアサン』)
    • 概要:自然状態の悲惨さから、人々が自由を放棄して絶対的な主権者に服従する社会契約を導いた。「リヴァイアサン」は以後、強大な国家権力の比喩として定着した。
  • Holliday, I. (2000). Productivist Welfare Capitalism: Social Policy in East Asia. Political Studies, 48(4), 706–723.
    • 概要:東アジアの福祉を経済成長に従属させる「生産主義型」として、Esping-Andersenの3類型に第4の型を加えた。
  • Hood, C. (1983). The Tools of Government. Macmillan.
    • 概要:政府の政策手段を情報・権威・財源・組織の4資源に分類する枠組み(NATO)を提示した。
  • Howell, S. T. (2017). Financing Innovation: Evidence from R&D Grants. American Economic Review, 107(4), 1136–1164.
    • 概要:エネルギー省SBIRの初期補助金は、受給企業がVC資金を得る確率を約2倍にした。
  • IMF (2020). Fiscal Monitor, October 2020: Public Investment for the Recovery, Chapter 2.
    • 概要:不確実性の高い局面で公共投資の乗数は2を超え、GDP比1%の投資が2年でGDPを最大2.7%押し上げると推計した。
  • IMF (2024). Fiscal Monitor, April 2024: Expanding Frontiers — Fiscal Policies for Innovation and Technology Diffusion, Chapter 2.
    • 概要:公的研究費は税制より民間研究開発の誘発効果が大きく、GDP比0.5%の研究支援上乗せで長期GDPを最大2%高めうる。
  • IMF (2025). World Economic Outlook, October 2025, Chapter 3: Industrial Policy — Managing Trade-Offs to Promote Growth and Resilience.
    • 概要:介入の8割以上が補助金型で、1件の直接支援は3年後に付加価値0.5%・生産性0.3%を高める。中国の支援はGDP比約4%。
  • Johnson, C. (1982). MITI and the Japanese Miracle. Stanford University Press.
    • 概要:日本の高度成長を通産省主導の産業政策で説明し、「開発国家」概念を広めた。
  • Juhász, R., & Lane, N. (2024). The Political Economy of Industrial Policy. Journal of Economic Perspectives, 38(4), 27–54.
    • 概要:政府の失敗は介入に内在するのではなく、政策の野心が国の政治的・行政的能力を超えたときに生じる。
  • Juhász, R., Lane, N., Oehlsen, E., & Pérez, V. C. (2025). Measuring Industrial Policy: A Text-Based Approach. NBER Working Paper 33895.
    • 概要:政策文書のテキスト分析で産業政策を測定。高所得国が低所得国の6〜18倍の頻度で用い、比較優位のある産業を対象にしている。
  • Juhász, R., Lane, N., & Rodrik, D. (2024). The New Economics of Industrial Policy. Annual Review of Economics, 16, 213–242.
    • 概要:因果識別に基づく新しい実証研究を総括し、産業政策は「設計次第で効く」という評価に転じたことを示す。
  • Kaplan, H., & Hill, K. (1985). Food sharing among Ache foragers: Tests of explanatory hypotheses. Current Anthropology, 26(2), 223–246.
    • 概要:狩猟採集民の食物分配がリスク分散(保険)として機能していることを実証的に検証した。
  • Kaufmann, D., Kraay, A., & Mastruzzi, M. (2011). The Worldwide Governance Indicators: Methodology and Analytical Issues. Hague Journal on the Rule of Law, 3(2), 220–246.
    • 概要:世界銀行の世界ガバナンス指標(発言と説明責任、政治的安定、政府の有効性、規制の質、法の支配、腐敗の抑制)の方法論を示した。
  • Keeney, R. L., & Raiffa, H. (1976). Decisions with Multiple Objectives: Preferences and Value Tradeoffs. Wiley.
    • 概要:複数の目的をもつ意思決定を、各目的の効用と目的間の重みで合成する多属性効用理論として体系化した古典。
  • Keuzenkamp, J., Mazza, J., Rijkers, B., & Stapleton, K. (2026). The effectiveness of green place-based industrial policy: Evidence from the Inflation Reduction Act. PNAS.
    • 概要:IRAのエネルギー・コミュニティ加算は太陽光投資を大きく増やしたが、地域雇用への効果は検出されなかった。
  • Keynes, J. M. (1936). The General Theory of Employment, Interest and Money. Macmillan.
    • 概要:不況期に政府が需要を創出して雇用を安定させる役割を理論化し、財政の「経済安定化」機能の起点となった。
  • Khazanov, A. M. (1984). Nomads and the Outside World. Cambridge University Press.
    • 概要:遊牧社会の政治組織が、隣接する農耕国家との交易・略奪の関係の中で発達したことを示した。
  • King, A. J., Johnson, D. D. P., & Van Vugt, M. (2009). The origins and evolution of leadership. Current Biology, 19(19), R911–R916.
    • 概要:動物から人間まで、集団行動におけるリーダーシップと追従の進化的起源を整理した総説。
  • Klein, E., & Thompson, D. (2025). Abundance. Avid Reader Press.
    • 概要:住宅・エネルギー・交通の供給不足の原因を規制と手続きに求め、供給側の制度改革を訴えた。
  • Kohler, T. A., et al. (2017). Greater post-Neolithic wealth disparities in Eurasia than in North America and Mesoamerica. Nature, 551, 619–622.
    • 概要:住居の規模から格差を推計し、農耕開始後、特に役畜を持ったユーラシアで格差が拡大したことを示した。
  • Kydland, F. E., & Prescott, E. C. (1977). Rules Rather than Discretion: The Inconsistency of Optimal Plans. Journal of Political Economy, 85(3), 473–491.
    • 概要:政府が将来の約束を破る誘因を持つ「時間の非整合性」を示し、裁量よりルールが望ましい場合があることを論じた。
  • Lane, N. (2025). Manufacturing Revolutions: Industrial Policy and Industrialization in South Korea. Quarterly Journal of Economics, 140(3), 1683–1741.
    • 概要:韓国の重化学工業化は対象産業と下流産業を成長させ、効果は政策終了後も持続した。
  • Legatum Institute (2023). The Legatum Prosperity Index 2023. Legatum Institute.
    • 概要:安全、自由、統治、社会資本、経済、健康、教育、環境など12の柱で167カ国の繁栄を測る指数。
  • Lerner, J. (2009). Boulevard of Broken Dreams. Princeton University Press.
    • 概要:政府によるベンチャー支援の成功例と多数の失敗を比較し、「民間の判断に乗る・時限的・規模を市場に合わせる」を条件とした。
  • Levitsky, S., & Way, L. A. (2010). Competitive Authoritarianism: Hybrid Regimes after the Cold War. Cambridge University Press.
    • 概要:選挙は行われるが公平でない「競争的権威主義」を独立した体制類型として分析した。
  • Levitsky, S., & Ziblatt, D. (2018). How Democracies Die. Crown.
    • 概要:選挙で選ばれた指導者が司法・メディア・選挙制度を内側から弱める「民主主義の後退」の過程を比較分析した。
  • Lijphart, A. (1999). Patterns of Democracy: Government Forms and Performance in Thirty-Six Countries. Yale University Press.
    • 概要:民主制を多数決型と合意型に分け、合意型がより手厚い福祉と安定した政策をもたらすことを示した。
  • Lindert, P. H. (2004). Growing Public: Social Spending and Economic Growth since the Eighteenth Century, Vol. I: The Story. Cambridge University Press.
    • 概要:社会支出の大幅な拡大が成長を妨げなかった「ただ飯のパズル」を歴史データで示し、その理由を税の構成(消費税中心)、就労と生産性を高める給付の設計、普遍主義による事務費の低さに求めた。
  • Madrian, B. C., & Shea, D. F. (2001). The Power of Suggestion: Inertia in 401(k) Participation and Savings Behavior. Quarterly Journal of Economics, 116(4), 1149–1187.
    • 概要:企業年金への自動加入が加入率を大幅に高めることを示し、デフォルト設定という政策手段の有効性を実証した。
  • Mann, M. (1984). The Autonomous Power of the State: Its Origins, Mechanisms and Results. European Journal of Sociology, 25(2), 185–213.
    • 概要:国家の権力を、社会の同意なしに行動できる「専制的権力」と、社会に浸透して政策を実行する「基盤的権力」に区別した。
  • Mayshar, J., Moav, O., & Pascali, L. (2022). The Origin of the State: Land Productivity or Appropriability? Journal of Political Economy, 130(4), 1091–1144.
    • 概要:国家の成立を決めたのは土地の豊かさではなく、穀物のように貯蔵でき取り上げやすい作物の存在だったと示した。
  • Mazzucato, M. (2013). The Entrepreneurial State. Anthem Press.
    • 概要:インターネットやGPSなど画期的技術の源流に政府投資があることを示し、リスクを取る「起業家的国家」を提唱。
  • Mazzucato, M. (2018). Mission-oriented innovation policies: challenges and opportunities. Industrial and Corporate Change, 27(5), 803–815.
    • 概要:社会課題をミッションとして設定し、複数産業を横断して投資を方向づける政策の設計原則を整理。
  • Meltzer, A. H., & Richard, S. F. (1981). A Rational Theory of the Size of Government. Journal of Political Economy, 89(5), 914–927.
    • 概要:選挙権の拡大で有権者の中位所得が下がると再分配要求が強まり、政府規模が拡大することをモデル化した。
  • Mian, A. R., Straub, L., & Sufi, A. (2025). A Goldilocks Theory of Fiscal Deficits. American Economic Review, 115(12), 4253–4291.
    • 概要:「ただ乗り」できる赤字の余地は貯蓄需要にも依存し、米国は小さく日本は相対的に大きいと推計。
  • Musacchio, A., & Lazzarini, S. G. (2014). Reinventing State Capitalism: Leviathan in Business, Brazil and Beyond. Harvard University Press.
    • 概要:国家が企業の過半株主・少数株主として関与する現代の国家資本主義の類型と効果を実証的に分析した。
  • Musgrave, R. A. (1959). The Theory of Public Finance. McGraw-Hill.
    • 概要:財政の機能を資源配分・所得再分配・経済安定化の3つに整理した古典。本記事の「介入の4つの根拠」の出発点。
  • NICE (2022). NICE Health Technology Evaluations: The Manual (PMG36). National Institute for Health and Care Excellence.
    • 概要:英国の医療技術評価の手法指針。決定問題の設定、比較対照、NHSの視点、QALYによる成果測定、確率的感度分析、閾値による判断を「参照ケース」として定める。閾値は2026年4月に2.5〜3.5万ポンドへ改定。
  • Norris, P., & Inglehart, R. (2019). Cultural Backlash: Trump, Brexit, and Authoritarian Populism. Cambridge University Press.
    • 概要:先進国におけるポピュリズムの台頭を、文化的価値観の変化への反動として実証的に分析した。
  • North, D. C. (1990). Institutions, Institutional Change and Economic Performance. Cambridge University Press.
    • 概要:所有権と契約執行などの制度が取引費用を通じて経済成果を決めると論じ、新制度派経済学の基礎を築いた。
  • North, D. C., & Weingast, B. R. (1989). Constitutions and Commitment: The Evolution of Institutions Governing Public Choice in Seventeenth-Century England. Journal of Economic History, 49(4), 803–832.
    • 概要:17世紀末英国の議会主権と国債制度の確立が政府の借入コストを下げ、財政国家の基礎を作ったと論じた。
  • OECD (2011). How's Life? Measuring Well-being. OECD Publishing.
    • 概要:所得・仕事・健康・教育・環境・主観的幸福など11分野で各国の暮らしを測る「より良い暮らし指標」を提示した。
  • OECD (2025). Government at a Glance 2025. OECD Publishing.
    • 概要:OECD各国の政府活動を比較する統計集。機能別(COFOG)の政府支出構成(2023年、OECD平均)は社会保護31%、保健19%、一般行政14%、教育11%、経済業務11%、国防5%、公共の秩序・安全4%など。
  • Olson, M. (1965). The Logic of Collective Action. Harvard University Press.
    • 概要:全員が協力すれば全員が得をするのに個々には協力しない「集合行為問題」を定式化し、公共財の過少供給と利益団体の論理を説明した。
  • Olson, M. (1993). Dictatorship, Democracy, and Development. American Political Science Review, 87(3), 567–576.
    • 概要:「流浪の盗賊」から「定住の盗賊」への移行で支配者が課税を抑え公共財を供給する動機を持つと論じた。
  • OMB (2003). Circular A-4: Regulatory Analysis. Office of Management and Budget.
    • 概要:米国の規制影響分析の指針。必要性の説明、代替案(性能基準・市場的手段・情報提供・非規制を含む)の検討、便益と費用の推定、不確実性と分配の分析を求める。2023年改訂は2025年に撤回され本版に復帰。
  • Ostry, J. D., Berg, A., & Tsangarides, C. G. (2014). Redistribution, Inequality, and Growth. IMF Staff Discussion Note 14/02.
    • 概要:格差の小さい国ほど成長が速く持続的で、再分配自体は極端な場合を除き成長を害さない。
  • Peacock, A. T., & Wiseman, J. (1961). The Growth of Public Expenditure in the United Kingdom. Princeton University Press.
    • 概要:戦争などの危機のたびに政府支出の水準が一段上がって定着する「転位効果」を示した。
  • Philippon, T. (2019). The Great Reversal: How America Gave Up on Free Markets. Harvard University Press.
    • 概要:米国で企業の集中が進み競争が弱まった結果、投資と賃金が抑えられたと実証し、競争政策の重要性を論じた。
  • Pomeranz, D. (2015). No Taxation without Information: Deterrence and Self-Enforcement in the Value Added Tax. American Economic Review, 105(8), 2539–2569.
    • 概要:付加価値税の取引記録が自己執行的に脱税を抑えることを、チリの実験で示した。徴税は情報の問題であることを実証した研究。
  • Ramey, V. A. (2019). Ten Years after the Financial Crisis: What Have We Learned from the Renaissance in Fiscal Research? Journal of Economic Perspectives, 33(2), 89–114.
    • 概要:金融危機後の膨大な研究を整理し、政府支出乗数は0.6〜1.0の範囲に収まると結論。
  • Rodrik, D. (2022). An Industrial Policy for Good Jobs. The Hamilton Project, Brookings.
    • 概要:産業政策の目的を製造業保護ではなく「良い仕事」の創出に置き、サービス業を含む協働型の設計を提案。
  • Ross, M. L. (2001). Does Oil Hinder Democracy? World Politics, 53(3), 325–361.
    • 概要:石油収入が多い国ほど民主化が遅れることを、税・支出・抑圧の経路から実証した。
  • Rotberg, R. I. (Ed.) (2003). When States Fail: Causes and Consequences. Princeton University Press.
    • 概要:国家が供給すべき「政治的財」を安全、法の支配、政治参加、医療・教育、インフラの順に階層化し、国家の失敗をその供給の欠如として定義した。
  • Sahlins, M. (1963). Poor Man, Rich Man, Big-Man, Chief: Political Types in Melanesia and Polynesia. Comparative Studies in Society and History, 5(3), 285–303.
    • 概要:分配によって追従者を得る「ビッグマン」と、世襲の地位に基づく「首長」を対比した政治人類学の古典。
  • Salamon, L. M. (Ed.) (2002). The Tools of Government: A Guide to the New Governance. Oxford University Press.
    • 概要:直接供給、規制、補助金、融資、保険、租税支出、バウチャー、情報提供など14の政策手段を体系的に比較した。
  • Samuelson, P. A. (1954). The Pure Theory of Public Expenditure. Review of Economics and Statistics, 36(4), 387–389.
    • 概要:非競合性・非排除性を持つ公共財は市場では過少供給になることを定式化。
  • Scott, J. C. (2017). Against the Grain: A Deep History of the Earliest States. Yale University Press.
    • 概要:最初の国家は穀物を税の基盤とする「穀物国家」であり、文字・城壁・徴税が一体で発達したと論じた。
  • Sen, A. (1999). Development as Freedom. Oxford University Press.
    • 概要:豊かさを所得ではなく人が「何をなしうるか」(潜在能力)で測るべきだと論じ、人間開発指数の理論的基礎を与えた。
  • Service, E. R. (1962). Primitive Social Organization: An Evolutionary Perspective. Random House.
    • 概要:政治組織の発展をバンド→部族→首長制→国家の段階で整理した。
  • Smith, A. (1776). An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations. (邦訳『国富論』)
    • 概要:第5編で政府の義務を国防・司法・公共事業の3つに限定し、公共事業の範囲を「個人には採算が合わないが社会に有益なもの」と定義した。
  • Stiglitz, J. E., Sen, A., & Fitoussi, J.-P. (2009). Report by the Commission on the Measurement of Economic Performance and Social Progress.
    • 概要:GDPに加え健康・教育・環境・主観的幸福を政策評価に組み込むべきとした報告書。
  • Tanzi, V., & Schuknecht, L. (2000). Public Spending in the 20th Century: A Global Perspective. Cambridge University Press.
    • 概要:先進国の政府支出はGDP比で1870年の約1割から1990年代の4割超へ拡大し、その大半が社会保障であることを示した。
  • Thaler, R. H., & Sunstein, C. R. (2008). Nudge: Improving Decisions about Health, Wealth, and Happiness. Yale University Press.
    • 概要:選択の設計(デフォルトの設定など)で人々の行動を促す「ナッジ」を政府の手段として提唱した。
  • Tilly, C. (1990). Coercion, Capital, and European States, AD 990–1990. Blackwell.
    • 概要:戦争遂行の必要が徴税と官僚制を発達させ、近代国家を形成したという国家形成論。
  • Tullock, G. (1967). The Welfare Costs of Tariffs, Monopolies, and Theft. Western Economic Journal, 5(3), 224–232.
    • 概要:補助金や規制を獲得するための働きかけ(レントシーキング)が資源を浪費することを示した。
  • Turchin, P., Currie, T. E., Turner, E. A. L., & Gavrilets, S. (2013). War, space, and the evolution of Old World complex societies. PNAS, 110(41), 16384–16389.
    • 概要:3,000年にわたる国家の興亡をシミュレーションで再現し、騎馬戦争の激化が大規模社会の形成を最もよく説明すると示した。
  • UN (2015). Transforming Our World: The 2030 Agenda for Sustainable Development (A/RES/70/1). United Nations.
    • 概要:17の目標と169のターゲットからなる持続可能な開発目標(SDGs)を定めた国連総会決議。人・地球・繁栄・平和・連携の「5つのP」で国家が目指す姿を国際的に共有した。
  • V-Dem Institute (2025). Democracy Report 2025. University of Gothenburg.
    • 概要:世界の民主主義の状態を毎年測定する報告書。近年は世界人口の約7割が権威主義体制下にあると報告している。
  • Vedung, E. (1998). Policy Instruments: Typologies and Theories. In M.-L. Bemelmans-Videc, R. C. Rist, & E. Vedung (Eds.), Carrots, Sticks and Sermons: Policy Instruments and Their Evaluation (pp. 21–58). Transaction Publishers.
    • 概要:政策手段を規制(鞭)・経済的手段(飴)・情報(説教)の3つに分類した、政策学で最も引用される類型の一つ。
  • Vivalt, E., Rhodes, E., Bartik, A. W., Broockman, D. E., & Miller, S. (2026). The Employment Effects of a Guaranteed Income. Quarterly Journal of Economics, forthcoming (NBER WP 32719).
    • 概要:月1,000ドルの無条件給付で就業率が約4ポイント低下、労働時間は週1〜2時間減少。影響は限定的だがゼロではない。
  • Wagner, A. (1883). Finanzwissenschaft.
    • 概要:経済が発展するほど政府活動の範囲と支出が拡大するという「ワグナーの法則」を提示。
  • Way, R., Ives, M. C., Mealy, P., & Farmer, J. D. (2022). Empirically grounded technology forecasts and the energy transition. Joule, 6(9), 2057–2082.
    • 概要:再エネのコスト低下は予測を一貫して上回っており、速い移行は遅い移行より数兆ドル安上がりになる可能性が高い。
  • Weber, M. (1922). Wirtschaft und Gesellschaft. Mohr. (邦訳『経済と社会』『支配の諸類型』)
    • 概要:支配の正当性を伝統的・カリスマ的・合法的の3類型に整理し、近代官僚制を合法的支配の装置として分析した。
  • Weimer, D. L., & Vining, A. R. (2017). Policy Analysis: Concepts and Practice (6th ed.). Routledge.
    • 概要:政策手段を市場の自由化・促進、補助金と課税、ルールの設定、非市場的な供給、保険とクッションの5類型に整理した政策分析の標準的教科書。
  • Weinstein, M. C., & Stason, W. B. (1977). Foundations of Cost-Effectiveness Analysis for Health and Medical Practices. New England Journal of Medicine, 296(13), 716–721.
    • 概要:医療の費用効果分析の枠組みを定式化し、QALYあたりの費用で医療行為を比較する方法の基礎を築いた。
  • Weitzman, M. L. (1974). Prices vs. Quantities. Review of Economic Studies, 41(4), 477–491.
    • 概要:不確実性のもとで数量規制と価格(税)のどちらが望ましいかは、費用曲線と被害曲線の傾きで決まることを示した。
  • Wildavsky, A. (1964). The Politics of the Budgetary Process. Little, Brown.
    • 概要:予算は合理的な最適化ではなく、前年を基準に小さな増減を交渉で決める「漸増主義」で編成されることを示した、予算過程研究の古典。
  • Wolf, C., Jr. (1979). A Theory of Non-Market Failure: Framework for Implementation Analysis. Journal of Law and Economics, 22(1), 107–139.
    • 概要:市場の失敗に対応する「非市場(政府)の失敗」を、費用と収入の乖離、組織内部の目標、派生的な外部性、分配の不公平として類型化した。
  • Woodburn, J. (1982). Egalitarian Societies. Man, 17(3), 431–451.
    • 概要:即時利得型の狩猟採集社会がいかに個人の権力蓄積を防いでいるかを民族誌から示した。
  • World Bank (1997). World Development Report 1997: The State in a Changing World. Oxford University Press.
    • 概要:国家の機能を最小限(純粋公共財)、中間(外部性・独占・情報の不完全性・社会保険)、積極的(調整・再分配)の階層で整理し、国家能力に応じた役割の選択を論じた。
  • Zwick, E., & Mahon, J. (2017). Tax Policy and Heterogeneous Investment Behavior. American Economic Review, 107(1), 217–248.
    • 概要:米国のボーナス償却は対象投資を10〜17%増やし、中小企業の反応が大企業より約2倍大きかった。

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