はじめに

グローバル化やSNSなどでの知識の共有が進むことで、生成AIや建設用3Dプリンター、ドローンなど新しい技術の発展が加速しています。

ここでは、都市や建築の変遷の歴史を振り返り、その中で技術がどのように都市や建築に影響を与えてきたのか、整理します。

そして、この整理を踏まえて、今後、新たに出現する技術が、人の社会や都市・建築にどのような形で活用され得るのか、考えるヒントになればと思います。


人類が誕生する前の時代(紀元前800万年以前)

生物は環境に合わせて進化し、様々な種が生まれることになりました。

人類(ホモ・サピエンス)がチンパンジーと分化したのは800万年前前後とされます。(Diogo et al., 2017)

人だけでなく、他の生物も自らが住むための巣をつくることは一般的に見られます。

巣は外敵や外部環境から生命を守り、生存と繁殖に特化した機能を持ちます。これは人のつくる家や構造物と共通した機能です。


鳥の巣
チンパンジーの巣

道具や言葉の発明:狩猟採集時代(紀元前800万年 – 紀元前1万年)

道具の活用や、言葉による複雑なコミュニケーションが可能となり、より大きな集団で生活するようになります。

けものや魚を捕らえ、木ノ実や貝などを集める生活をします。

紀元前約 40 万年に遡る前期旧石器時代の道具や、火が普及した痕跡が発見されたテラアマタ

農業・牧畜の発明:農耕牧畜時代(紀元前1万年以降)

農業や牧畜といった、食糧を生産する技術が発明されます。

農業が発展し、野菜、穀物、果物などの植物を栽培し、食料供給をすることが可能になりました。

家畜(牛、羊、山羊など)を飼い、乳製品や肉を提供するために牧畜が行われます。

農業と牧畜に依存する生活が定着し、定住生活が一般的となりました。

スコットランドに位置する石造りの新石器時代の集落である Skara Brae


四大河川文明(紀元前3000年 – 紀元前2000年)

大きな河川の付近で文明が発展しました。メソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・ 黄河文明の4つがあります。

ウル(紀元前3800 – 500年)

メソポタミア文明のシュメール人による都市です。周辺に自然の障壁がないため、環濠城壁化しました。氏族共同体の狭い範囲の都市化の例です。

住居は、泥のレンガと泥の漆喰でできています。ほとんど全ての基礎部分は現存します。

ジッグラトとは、ウル第三王朝(BC2200)に建設されたウルの守護神に捧げる神殿です。

メソポタミア文明は、16世紀に鉄製武器を使うヒッタイトによってバビロンが侵略され滅亡しました。

ジッグラト
ウルの場所
平面図
メソポタミア文明の都市
基礎部分

儒教の都市構想

都市の特徴は以下の通りです。

  • 都市は正方形で1辺が3.9km(9里)

  • 四方に各3つの城門、計12門

  • 南北東西それぞれ門に通じる3本ずつの道路。中央が車道、両側が人道(右側が男性用、左側が女性用)、幅員16m

  • 城壁で囲われる

  • 中央に王宮

  • 儒教の経典である周礼(BC800-BC400)の都市構想である条坊制に基づく都市構造

  • 南北中央に朱雀大路を配置する。

  • 南北東西に格子状の道路を配置することが最も機能的だとされた。

同じような都市構造は朝鮮半島や日本にも伝わりました。

都市プラン
中国最古の技術書である周礼に記載された三礼図(理想的な都市モデル)
儒教の都市構想に基づいて建設された長安(紀元前1045年 – 紀元前771年)
儒教の都市構想に基づいて建設された長安(紀元前1045年 – 紀元前771年)
現在の長安(紀元前1045年 – 紀元前771年)

アゴラ(政治集会所や市場)

古代ギリシャの都市アクロポリスの付近に建設された政治集会所や市場としての機能を持つアゴラが建設されました。

アゴラ

ローマ、ギリシャの植民都市(紀元前700年 – 500年)

ローマはキヴィタス、ギリシャはポリスと呼ばれる植民都市を拡大しました。敵の都市を征服して、元々の都市構造を踏まえて、土地の再分配や追加の建設をしていきます。

ロンドン、パリ、バルセロナなど多くの西ヨーロッパの都市の基礎はローマ植民地であり、都市には現在でも面影が残ります。

矩形の城壁であり、南北、東西の道路が城壁と交わるところに城門が設けられました。主要な道路は、他の植民都市とつながっていました。

鉄器の開発と普及(紀元前600 – 紀元前500)が農業の生産性を向上させました。

AD117でのローマ帝国の範囲

フロレンティア(紀元前59年 – 紀元前6年)

フィレンツェの起源となったローマの植民都市です。人口が増えると、城壁を外側に移動させました。計画的に成長させやすいように格子状のプランが採用されています。

フロレンティアのイメージ
フロレンティアの平面図
現在のフィレンツェ

トリノ

ローマの植民都市であり、ローマ時代から17世紀末に至るまで拡張を繰り返してきました。

ローマ時代
格子状のプラン
16世紀末
火薬の発明で新たな武器を配置する土塁や稜堡が設けられた
17世紀初頭
1670年頃
バロック時代の芸術様式を備えつつ、拡張をしている
17世紀末
バロック時代の芸術様式を備えつつ、拡張をしている

中世ヨーロッパ(12世紀 – 13世紀)

弩弓の発明など武器の改良によって、城壁が頑丈になり、防衛のために丘や島などに都市を建設します。

15世紀末には大砲の球が石から鉄球に変わり、火薬が使われるようになったことで、高い城壁が不要になり、18世紀のバロック時代には撤去されることになります。

宗教による統率力の強化により、神殿に代わって教会や修道院が多く建設されることになります。

街路網も不規則、迷路状に配置されます。建築はロマネスクとゴシック様式が代表的です。

人口が増えても城壁を外側に移動させずに、高密度に成長し、過密、不衛生、疫病などの問題を抱えました。

オスマン帝国がビザンツ帝国に侵攻したことでギリシャの知識人がイタリアに亡命したことから、14-16世紀にイタリアでルネサンスが始まり、古代ローマやギリシャの文化を再復興させる運動が始まったことで、幾何学的な理想都市が考案されました。

カルカソンヌはフランスの都市であり、中世の城塞です。丘の上に立地され、世界遺産に登録されています。

カルカソンヌ

蒸気機関の発明:産業革命による近代都市(19世紀から20世紀前半)

18世紀後半の産業革命。手作業から機械による大量生産に変化しました。

雇用が増大した都市部には農村から労働者とその家族が大量に流入しました。ロンドンの人口は1801年の87万人から、1900年には650万人に増えました。

交通の発達によって都市も拡大しました。馬車から鉄道、帆船から蒸気船に変わりました。

18世紀末のフランス革命を契機にして、民主主義が進められる一方で、ギリシャ、ローマ帝国以来の植民都市も増え、例えばイギリスは、国外の各地で植民都市を建設しました。

上下水道の整備が間に合わず、不衛生が問題となり、1830年から1832年にイギリスの都市でコレラが蔓延しました。

鉄やガラスの大量生産が可能となり、鉄やガラスを用いた建築物がつくられることになる。

ロンドンの街並み(工場からの排気ガスに覆われている)
ロンドンの街並み(工場が多く立ち並ぶ)

ロンドン市街地の変遷 (Saarinen, 1945)

1840年のロンドン市街地
1860年のロンドン市街地
1880年のロンドン市街地
1900年のロンドン市街地
1914年のロンドン市街地
1929年のロンドン市街地
1851年の大博覧会を開催するロンドンで建設された鋳鉄と板ガラスでできた建造物

公衆衛生法、建築条例、住居法が制定される(19世紀半ば)

住宅需要が増大し、過密問題が深刻になり、公衆衛生や道路整備が問題となる。産業革命が始まったイギリスに続いて、欧州やアメリカなど他国でも同様の問題が引き起こされました。

イギリスで1848年に公衆衛生法が制定されます。建築条例によって、道路の確保、壁面線、建物高さなどがゾーニングによってコントロールされることになります。

上下水道は整備され、工場と住宅地の地域が分離されるようになります。ドイツ、フランス、アメリカ各国に法律制定の動きが広がります。近隣住区論などが生まれます。

公衆衛生法などの条例によって整備された都市(日笠端, 1993)

自動車の発明:都市交通網の発展(20世紀初め)

ベルトコンベア式の大量生産によって自動車が安価に提供できるようになり普及しました。

自動車の普及により、人々は都市中心部から離れた場所に住むことが可能になるとともに、道路網の拡充や高速道路の建設を行いました。また、住宅にはガレージや駐車場が必要とされるようになります。

大型ショッピングモールや郊外型店舗が増加し、これにより都市の商業地域の配置にも影響を与えました。加えて、大気汚染や騒音汚染の増加に繋がり、都市計画における緑地の確保や交通量の管理などが重要な課題となりました。

Ford Model T
郊外大規模ショッピング施設

飛行機の発明:グローバルで都市が連携(20世紀半ば)

飛行機によって、世界中の都市が短時間で結ばれ、国際的なビジネス、貿易、観光のハブとなる都市が台頭しました。

多くの人々が飛行機を利用して旅行をするようになり、観光地としての都市や地域が国際的に注目されるようになりました。

大規模な空港は、騒音問題や安全性の確保など、都市計画において特別な配慮が必要な施設となりました。

最初の有人飛行をしたライトフライヤー号
空港

インターネットの発明:物理的環境に依存せずにコミュニケーションが可能となる(20世紀末)

交通、エネルギー、公共サービスなどの都市インフラを効率的に管理するスマートシティが登場しました。

場所にとらわれずに仕事をするリモートワークが可能になりました。これにより、都市の交通渋滞の軽減や、都心部への人口集中の緩和が進みました。

インターネットによる情報の流通が容易になったことで、都市と地方の間の経済的・文化的な交流が活発になりました。

エンターテイメント、教育、ヘルスケアなどの多くのサービスがオンラインで提供されるようになり、都市の生活様式も大きく変化しました。

これからの都市や建築に大きな影響を与える21世紀の新技術(21世紀以降)

AI

現実の都市をサイバー上で再現して、様々な解析を可能とするデジタルツインが登場しました。インターネットやIoTで収集したデータをAIで最適化して、都市のリソース(電力、環境負荷など)を効率化します。

デジタルツイン

ドローン

無人での物流を可能とします。物流の効率化や、ドライバー不足の解消が期待できます。

Amazonのドローン配達

メタバース・VR・AR

仮想空間での社会的相互作用、経済活動、娯楽の提供などを可能にするデジタルプラットフォームです。実際の都市空間における建築や公共空間がメタバース内で再現されることで、都市計画や建設のプロセスの効率化が期待できます。
教育、仕事、娯楽、コミュニケーションなどがメタバース内で提供されることにより、物理的な移動の必要性が減少する可能性があります。

また、仮想空間での都市モデルの展示や討議を通じて、市民が都市計画により積極的に関わることができる可能性がある。

そして、メタバース内の不動産やスペースの需要が高まると、実世界の不動産市場にも新たな動きが生まれる可能性があります。

メタバース内で構築される都市

建設3Dプリンター

3Dプリンターで家や構造物をつくることができます。工期や人件費の削減により、効率的に建設工事を進めることを可能になります。

3Dプリンターでつくった住宅

民間宇宙旅客機

民間人が安価に宇宙に旅行できることが期待されます。地球以外の惑星など、住める場所を拡大できる可能性があります。

SpaceXは火星の植民地化を可能にするための宇宙輸送コストの削減を目的としている

まとめ

ここでは、都市や建築の変遷の歴史を振り返り、その中で技術がどのように都市や建築に影響を与えてきたのか、整理しました。

結果として、人々は家族や国家などのコミュニティの繁栄(生存率向上)、即ち、共に生活できる人口の増加に向けて、進展してきていると考えられ、重要な要素として、社会人口、合計特殊出生率、居住や生存の年数、価値観の共有度があり、新たな技術や知識は、それらの要素のいずれかに寄与していると考えられます。

今後、新たに出現する技術が、これらの重要な要素に貢献する位置づけとして活用され、人の社会や都市・建築に導入されていくと考えられます。