スタートアップ立ち上げやプロダクト開発に関する世界的に著名な文献を踏まえて、プロダクトの成熟度ごとにやるべきことを整理しています。プロダクト開発の参考になればと思います。
以下には、各プロセスの順(ステージ1:顧客発見&製品発見、ステージ2:顧客実証、ステージ3:顧客開拓、ステージ4:組織構築)で記載します。
ステージ1:顧客発見&製品発見
創業者のビジョンやアイデアをもとに、顧客が本当に抱えている課題を特定し、自社のコンセプトがそれに合致するかを検証するステージです。
ステータス
- 目標:顧客の深刻な課題を特定し、プロダクトと市場の適合(課題と解決策のフィット)の可能性を見出すこと。
- 収益性:なし。資金を消費しながら学習と発見を行う期間です。
- 対象者:まだ明確ではなく、課題を自覚し、自前で何らかの解決策を探しているような「エバンジェリストユーザー」候補を模索します。
- プロダクトの状態:アイデア、紙のモックアップ、あるいは「ローファイMVP(機能を持たないウェブページやスライドなど)」といった試作品の段階です。本格的な開発はまだ行いません。
- チームの状態:創業者や少数のコアメンバーによる小さなチーム(職能横断型の製品開発チーム)です。公式な営業・マーケティング部門は存在しません。
アクション
- 年間売上100億ドル以上の市場を選定する:ベンチャーキャピタリストは、ファンドの出資者に高いリターン(出資の3倍以上など)を返す必要があるため、途方もないリターンを生むごく少数の成功例に依存しています。市場拡大のポテンシャルを考慮ながら、年間売上100億ドル以上の市場となる顧客や製品を検討します。
- オフィスから飛び出し顧客と対話する:会議室で想像するのではなく、実際に顧客の元へ出向き、顧客の日常業務や抱えている「痛み(課題)」を深くヒアリングします。
- ビジネスモデルの仮説を立てる:誰が顧客で、どんな価値を提供し、どうやって利益を出すのか、ビジネスモデル・キャンバスなどを用いて仮説を言語化します。
- プロトタイプによる検証:ローファイMVPやプロトタイプを顧客に見せ、その課題を解決できるか(価値)、使い方はわかるか(ユーザビリティ)、技術的に構築可能か(実現可能性)をテストします。
- ピボットの判断:顧客の反応が薄ければ、ビジネスモデルの要素(ターゲットや機能など)を大幅に変更する「ピボット」を行い、再び検証を繰り返します。
このステージを達成するマイルストーン
- 見込み顧客の開拓数(B2Bの場合):実際に製品を発注してくれる可能性が高い顧客を最低5社は開拓できていること。
- 顧客の推奨度(NPS):課題やニーズに対する顧客の関心度を測る指標として、他人に勧める可能性を問うネット・プロモーター・スコア(NPS)が50以上であること(理想はさらに高い数値)。
- ウェブ/モバイルの行動指標:具体的な行動データとして、以下のような基準をクリアできているか。
- 新規顧客の全員が10人の友人を招待し、うち半数がサインアップする。
- 訪問者の3分の1が1週間以内にサイトへ戻ってくる。
- 訪問者の4分の1が1週間以内に平均1.5人の友人に紹介してくれる。
- 1回の訪問につき平均10ページまたは10分間のセッションが持続する。
期間
- アイデアの検討と準備まで数ヶ月から1年程度:1ヶ月〜半年ほどリサーチ、さらに2ヶ月〜1年間かけて事業計画やプレゼンを準備。
- 顧客発見プロセスの期間まで数週間から1年程度:市場タイプによって大きく異なる。
- 既存市場の場合:すでに顧客やニーズが存在するため、数週間から数ヶ月。
- 新規市場の場合:誰も答えを知らないため、1年以上かかることがある。
- 検証のスピード(イテレーション):プロトタイプを用いて1週間に10〜20回というペースでアイデアのテスト(イテレーション)を行う。また、ディスカバリースプリントと呼ばれる手法では5日間でプロトタイプ作成からユーザーテストまでの学習サイクルを回す。
ステージ2:顧客実証
検証された仮説をもとに初期製品を開発し、実際に顧客に販売できるか(ビジネスモデルが成り立つか)を実証するステージ。
ステータス
- 目標:PMF(プロダクト・マーケット・フィット)の達成と、繰り返し実行可能でスケーラブルな「営業・販売モデル」の構築です。
- 収益性:顧客から少数の初期の注文を獲得し始めますが、会社全体としてはまだまったく利益があがりません。
- 対象者:革新的採用者と初期採用者(エバンジェリストユーザー)。バグや機能不足があっても、製品のビジョンに共感して喜んで買ってくれる層です。
- プロダクトの状態:実質的には「試作品」を出荷している状態(V1)。最低限の機能のみを備えた「ハイファイMVP」です。
- チームの状態:依然として少人数で手探りの状態。マーケティングや法務などは外注することもあります。初期の受注をまとめるために「営業のプロ」をスポットで雇うこともあります。
アクション
- ビジョンと直感に基づく意思決定を行う V1の段階では信頼できるデータが存在しないか、極めて限られています。そのため、「何をつくりたいのか」「なぜつくるのか」「誰のためか」というビジョンを最優先のツールとして意思決定を行います。それに加えて、顧客調査から得た情報や直感を駆使して、顧客が抱える問題をどのように解決できるかを模索します。
- 初期採用者に買ってもらえるか(市場性)を証明する 完璧を求めるのではなく、「実質的な試作品」レベルであっても市場に出し、新しもの好きな「革新的採用者」や「初期採用者」が買ってくれるかを検証します。もし彼らが買ってくれることを証明できなければ、設計段階にさかのぼってやり直さなければなりません。
- 外部リソース(外注)を活用して迅速に進める 創業初期でチームの人数も少ないため、マーケティング、PR、人事、法務といったさまざまな機能は外注して手探りで進めます。コストは高くスケールはしませんが、まずは迅速に業務を進めるために外部の力を借ります。
- 最小限の機能(MVP)で市場に出す:完璧な製品を目指して機能を追加するのではなく、不要な機能を削ぎ落とし、一番重要な課題を解決するだけのMVPをいち早く顧客に届けます。
- 有償でのテスト販売を行う:無償配布ではなく、未完成の製品でも実際にお金を払って買ってくれるかを試し、ビジネスモデルの正しさを裏付けます。
- 営業ロードマップの作成:顧客の組織図や購買プロセス(誰が意思決定者で、誰が予算を持つか)を把握し、再現性のある販売手順を確立します。
- 資金消費を抑える:PMFが達成されるまでは、大規模な営業組織やマーケティングキャンペーンに資金を投じてはいけません。
このステージを達成するマイルストーン
- 有償顧客数(エンタープライズ/B2Bの場合):大幅な値引きをせずに定価で、エバンジェリストユーザーから3〜5件の注文書(受注)を獲得できていること。これが達成できれば、営業部門を組織して拡大し始めてよいと判断されます。
- リピートオーダーの有無(B2C/消費財の場合):消費者向けのチャネルで販売する製品の場合、単発の購入ではなく、明確なリピートオーダーが発生していること。
- リファレンス顧客の獲得数:特定のターゲット市場において、他社への成功事例として紹介できる「リファレンスカスタマー」を6社獲得できていること。これが達成できれば、通常はその市場でのPMFを達成したと宣言できます。
- PMFの定量的指標(ショーン・エリス・テスト):もしその製品が使えなくなったら**「非常に残念」と答えるユーザーが40%を超えている**こと。
- ユニットエコノミクス(LTVとCAQ):顧客の生涯価値(LTV)が、顧客を獲得しアクティベートするコスト(CAQ または CAC)を確実に上回っていること(LTV > CAQ)。つまり、顧客獲得に使った1ドルの投資から、1ドル以上の価値を生み出していること。
期間
- 最初のプロダクト(V1)のリリースまで9〜18ヶ月:ハードウェアであれソフトウェアであれ、どのような新しいプロジェクトでも出荷までのスイートスポットは9〜18ヶ月であり、上限は24ヶ月とされている。これを越えると、市場の反応を見ることが遅れる。
- ウェブ/モバイルの場合は数週間:ウェブやモバイルのスタートアップであれば、数年ではなく数週間で立ち上げることも可能。ローファイなMVP(機能を持たないウェブページなど)であれば、創業初日に稼働させるのが理想的。
ステージ3:顧客開拓
市場を広げ、顧客採用曲線の先へと進んでいくステージです。
ステータス
- 目標:市場のキャズム(溝)を越え、メインストリーム顧客を獲得して市場シェアを拡大することです。
- 収益性:プロダクト単位での採算性(粗利益)がプラスになり始めますが、需要開拓に多額の投資を行うため、会社全体の最終利益はまだ出ません。
- 対象者:前期多数採用者(トレンドを決める層や実利主義者)。初期採用者のレビューを見てから購入を決め、バグがなくまっとうなサポートを期待します。
- プロダクトの状態:V1で発覚した失敗やバグ、想定外の問題を実際のデータに基づいて修正し、機能性を大幅に高めた状態(V2)です。
- チームの状態:V1で外注先から学んだノウハウをもとに、社内で機能を構築し始め(内製化)、チームの規模と専門性が高まります。
アクション
- 実際のデータに基づき、V1の失敗や妥協点を修正する V2では、お金を払ってくれた実際の顧客から得られるデータやフィードバックが意思決定の最優先ツールとなります。これをもとに、V1で失敗した部分、発売後に発生した想定外の問題、さらにはV1の開発時にあえて目をつぶった問題のすべてに対処し、修正します。V1での学びをすぐに反映したくてたまらなくなるため、V2は通常、V1から時間を置かずに登場させるべきです。
- トレンドを決める「前期多数採用者」へと市場を広げる 初期採用者の反応を見てから購入を決める層(バグがなく、まっとうなサポートを期待する層)に向けてアプローチを広げ、顧客採用曲線の先へと進んでいきます。
- 組織の内製化と専門性の向上を進める V1の開発過程でサードパーティ(外注先)から学んだノウハウをもとに、社内で同じ機能を構築しはじめます。これによってチームの規模を拡大し、専門性を高めていきます。
- V1の課題修正と改善:実際の顧客データやフィードバックを最優先のツールとし、V1の開発時に目をつぶった問題や発生したバグを修正し、製品を洗練させます。
- 本格的な需要開拓への投資:PR、広告、展示会、ウェブマーケティングなどに多額の資金を投じ、エンドユーザーの需要を喚起して販売チャネルへ誘導します。
- 企業と製品のポジショニング確立:自社が参入する市場タイプ(既存市場、新規市場、再セグメント化市場)を確定させ、競合との違いや製品を買うべき理由を明確にしたメッセージを発信します。
このステージを達成するマイルストーン
- 粗利益(ユニット当たりの採算性)のプラス化:プロダクトが1つ売れるたび、あるいはサービスが契約されるたびに粗利益がプラスになること。この段階では需要開拓のマーケティングなどに莫大な費用がかかるため、会社全体としてはまだ赤字で構いません。
- バイラルグロース係数:ウェブ/モバイル製品の場合、既存ユーザーの紹介によって新規ユーザーが獲得できる「バイラルグロース係数(バイラル係数)」が1.0以上(1人のユーザーが1人以上の新規ユーザーをアクティベートさせる状態)になっていること。
- 予測可能な営業ファネル:確立された営業ロードマップと同じ戦略・戦術を用いることで、営業ファネルを通して適切な利益の出る顧客のフローを、堅実かつ予測可能にもたらすことができる状態になっていること。
期間
- ユニット採算が取れるまで2〜3年: 市場に受け入れられてユニット採算が取れるようになるまでに2〜3年
ステージ4:組織構築
製品が市場に受け入れられることが証明された後、エンドユーザーの需要を一気に開拓し、事業を拡大させるステージ。
ステータス
- 目標:会社の採算性(最終利益)をプラスにし、事業を持続可能な規模へとスケールアップさせることです。
- 収益性:売上高が事業経費を上回り、販売規模が拡大して会社全体として最終利益が出るようになります。
- 対象者:後期多数採用者および採用遅滞者。完璧な製品を求め、些細なトラブルも許さない一般顧客層です。
- プロダクトの状態:十分素晴らしい製品にさらに磨きがかけられています。単体の製品ではなく、導入サポートや周辺サービスを含めた「ホールプロダクト(完全なソリューション)」として提供されます。
- チームの状態:学習と発見に特化した非公式な部隊から、営業、マーケティング、事業開発など、プロセスを実行するための機能別部門(即応性の高い部門)へと移行します。社員数が数十人〜数千人(部族〜都市サイズ)へと拡大します。
アクション
- プロダクトではなく「事業全体」の最適化に意識を集中する プロダクト自体はすでに十分すばらしいものになっているため、ここでは事業そのものに焦点を当てます。販売パートナーに対して取引条件の改善を求めたり、カスタマー・サポートや販売チャネルの最適化を行ったり、広告媒体を広げたりして、販売規模の拡大とコスト(価格)の引き下げを狙います。
- 顧客のタッチポイント全体に磨きをかける V3のターゲットは、完璧な製品を求め、些細なトラブルも許さない「後期多数採用者」や「採用遅滞者」です。彼らを満足させるため、プロダクトの機能だけでなく、顧客のライフサイクルにおけるあらゆるタッチポイント(広告、パッケージ、購入プロセス、サポートなど)を改善し、洗練させます。
- 社内に専門性を蓄積し、外注を選択的に活用する 組織内では、ブランディングや法務といった会社の差別化にとって最も重要な部分に社内チームを注力させます。一方で、小さめの業務については再び外注に頼るようになりますが、今回は手探りではなく、社内チームがしっかりと監督する体制をとります。
- 事業全体の最適化:プロダクトの機能開発だけでなく、カスタマーサポート、販売チャネルの最適化、販売パートナーとの取引条件の改善など、顧客のタッチポイント全体の改善に集中します。
- 機能別組織の構築とマネジメント層の導入:チームの拡大に伴い発生するブレークポイント(コミュニケーションの分断など)を防ぐため、中間管理職を配置し、正式な部門のミッションを策定します。
- 戦略と目標(OKR)の管理:経営陣がプロダクトビジョンと戦略を提示し、各チームに解決すべき問題(目標)を与えてエンパワーメントするOKRなどのマネジメント体制を機能させます。
- 選択的な外注と差別化への集中:ブランディングや法務など会社にとって最も重要な差別化要素に社内リソースを注力させ、小さめの業務は社内監督のもとで外注する体制を整えます。
このステージを達成するマイルストーン
- 最終利益のプラス化:プロダクト単体だけでなく、会社全体を運営するための事業経費を売上高が上回り、会社としての最終利益(純利益)がプラスになること。
期間
- 本格的な利益を生み出すまで2〜5年: 会社全体として本格的な利益を生み出す事業に育つまでに、トータルで2〜5年(新規市場の場合は特に時間がかかる)
おわりに
複雑なスタートアップや事業の立ち上げを4つのフェーズに分解すると、やるべきことがシンプルに感じられるようになると思います。現在、チームとしてどのようなことに取り組むべきかフォーカスするべきかの指針になればと思います。
参考文献
- Blank, S. G. (2006). The four steps to the epiphany. Steven G. Blank.
- Blank, S., & Dorf, B. (2012). The startup owner’s manual: The step-by-step guide for building a great company. K&S Ranch.
- Cagan, M. (2018). Inspired: How to create tech products customers love (2nd ed.). John Wiley & Sons.
- Cagan, M., & Jones, C. (2021). Empowered: Ordinary people, extraordinary products. John Wiley & Sons.
- Fadell, T. (2022). Build: An unorthodox guide to making things worth making. Not Shakespeare LLC.
- Hoffman, R., & Yeh, C. (2018). Blitzscaling: The lightning-fast path to building massively valuable companies. Currency.