1890年代に発表されたエベネザー・ハワードの「田園都市」、1930年代のル・コルビュジエ「輝く都市」、フランク・ロイド・ライト「ブロードエーカー・シティ」、1960年代のジェイン・ジェイコブスによる「多様性の都市」など、世界中の建築学科、土木学科の学生が知るようなこれらの都市論は、当時の人々にとっては衝撃を与えつつ、実際に多くの実務家、専門家に影響を与え、現代の人々の生活として実現しています。

未来の都市はどのようなものになるでしょうか?まだ実現していませんが、世界で大きな影響力や実行力をもつ方々の構想を起点として、将来的に徐々に実現していくはずです。

ここでは、世界に大きな影響を与えている都市構想を整理します。
影響力の大きい都市論を構想している建築家、ランドスケープアーキテクト、ジャーナリスト、起業家などを取り上げます。

一方で過去、どのように都市が変遷しているのかに関してはこちらで、簡単に書いております。

1890年代に発表された田園都市論 (Tizot, 2018)。1つの都市の人口を制限し、中心部から歩いて行ける範囲にすべての機能を集約します。人口が増えた場合は、街を無秩序に広げるのではなく、別の新しい田園都市を少し離れた場所に建設し、それらを鉄道で結ぶ社会的都市を構想しました。世界中で計画都市(ニュータウン)が建設されるモデルとなりました。
1930年代のに発表された輝く都市 (Fishman, 1977)。最新の建築技術(鉄筋コンクリートやエレベーター)を使って超高層ビルを開発し、人口が集中する都市部の過密問題を解決できると考えました。建物を高層化し、周辺に緑地を整備する思想は、第二次世界大戦後の世界の都市計画におけるグローバル・スタンダードとなりました。

建築家・デザイナー・都市計画家

建築・デザイン・都市計画の分野には、人間の行動心理、テクノロジーとの融合、極限の思考実験から未来を構想する先駆者たちが数多くいます。ここではいくつかの例を取り上げます。

Winy Maas(ヴィニー・マース、MVRDV共同創設者・都市計画家)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2024年9月にThe Green Dip: Covering the City with a Forestを出版しました。

  • 背景

    • 現代の都市(地表のわずか1〜3%)は、膨大な資源を消費し、深刻な環境破壊、ヒートアイランド現象、大気汚染を引き起こしています。一方で、森林は地球の30%を占め、生命を支えていますが、森林伐採が止まらず、急務の対応が求められます。

  • 構想の内容

    • 都市を「居住可能な森」に変える:屋根、壁面、バルコニー、道路など、都市のあらゆる物理的表面を植物や農地で完全に覆い尽くす構想です。

    • データとソフトウェアの活用:単なる空想ではなく、Green-Makerというソフトウェアを開発し、植物を組み込むことによる環境的メリットを定量化しています。

    • 生物群系への適応:香港、サンパウロ、ドバイなど、世界中の都市がそれぞれ属する気候帯に合わせて、最適な植物種や水分量、二酸化炭素の吸収量、気温の低下度合い、生物多様性の回復をシミュレーションしています。

建物内外のあらゆる表面に草、低木、樹木を配置することが可能となっている(The Green Dip, n.d.)。
Green Dipのコンセプトを用いて実際に実現した建築物”Vally”。建物の至る所や周辺に緑が設置されている(MVRDV – Valley, n.d.)。

Norman Foster(ノーマン・フォスター、Foster + Partners)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2016年の第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展にて、レンガ造りのドーム(アーチ)が実物大で建設・公開されました。ルワンダでの実用化を念頭にプロジェクトがスタートしました。

  • 背景

    • アフリカ大陸は国土が広大で、未舗装の道路が多く、陸路のインフラ整備には莫大な時間とコスト(数兆円規模)がかかります。フォスターは、20世紀型の道路やトンネルを造るという土木的アプローチを捨て、空の道(ドローン)を使ってインフラを一気に飛び級(リープフロッグ)させることを構想しました。

  • 構想の内容

    • 空の駅兼コミュニティハブ:ドローンの発着場であると同時に、診療所、郵便局、電子商取引の拠点、地域の集会所を兼ねる新しい駅として機能します。

    • ハイテクとローテクの融合:ドローンという最先端技術を扱う施設ですが、建物自体は超ローテクです。高価な鉄やコンクリートを使わず、現地の土を押し固めたレンガを使用します。軽量な型枠だけを現地に持ち込み、現地の職人たちが自分たちの手でアーチ状のドームを組み上げられる設計になっています。

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Droneport構想

  • 構想名

  • 発表時期

    • 月の居住区(Lunar Habitation)は、2013年1月に欧州宇宙機関:ESAが主導するコンソーシアムの一員として発表されました。

    • 火星の居住区(Mars Habitat)は、2015年9月にNASAとAmerica Makesが主催した3D Printed Habitat Challengeにてファイナリストとして発表されました

  • 背景

    • 輸送コストという最大の壁:地球から宇宙へ、コンクリートや鉄鋼などの重い建築資材をロケットで運ぶには、天文学的なコストがかかります。そのため、地球からは最小限の機材だけを運び、あとは現地にある砂や岩をそのまま建築材料として使う(ISRU:現地資源利用)というアプローチが絶対条件でした。

    • 極限環境からのシェルター確保:月や火星の地表は、致死的なレベルの宇宙放射線(ガンマ線)、絶え間なく降り注ぐ微小隕石、そして極端な温度変化に晒されています。極めて分厚く頑丈なシールドをどうやって自動で構築するかが課題でした。

  • 構想の内容

    • どちらの構想も巨大な風船(インフレータブル・ドーム)を膨らませ、その上から現地の砂で分厚い外殻を3Dプリントして覆うという基本構造は共通していますが、建設プロセスが異なります。

    • 月の居住区(ESAプロジェクト)

      • 常に太陽光(エネルギー)が得られる月の南極に建設されます。

      • 地球から運ばれた筒状のモジュールからインフレータブル・ドームが膨らみます。その後、キャタピラ型のロボットアーム(3Dプリンター)が、月の砂(レゴリス)と地球から持参した少量の結合剤(インク)を混ぜ合わせ、ドームの上に層状に吹き付けていきます。

      • 強度を保ちながら重量を軽くするため、外殻の断面は鳥の骨や発泡スチロールのような中空の多孔質構造(セルラー構造)に緻密に計算・デザインされています。

    • 火星の居住区(NASAプロジェクト):

      • 地球と火星は通信のタイムラグが大きいため、宇宙飛行士が到着する前に半自律型のロボット群が先んじて全自動で基地を完成させます。

      • パラシュートで投下された3種のロボット群が役割分担します。「ディガー」がクレーターを掘り、「トランスポーター」が火星の砂(レゴリス)を運び、「メルター」がマイクロ波で砂をドロドロに溶かして融着させます(接着剤すら不要にする仕組みです)。


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Lunar Habitation

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Mars Habitat

ランドスケープアーキテクト・造園家

近年の造園家(ランドスケープ・アーキテクト)たちは、建物の周りに木を植えるという従来の装飾的な役割から完全に脱却し、気候変動、海面上昇、都市の熱島現象といった地球規模の課題に対し、自然のシステム(生態系)そのものを都市のインフラとして再設計するという非常にダイナミックな未来構想を打ち出しています。

俞孔堅(ユー・コンジャン、Turenscape 創設者)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2000年代を通じて、中国各地で初期のスポンジ・シティの実証プロジェクト(ハルビン市の群力国家都市湿地公園など)を設計・完成させています。

    • 彼の長年の提言と実践によって、2013年に中国政府(習近平国家主席)が「海綿都市(Sponge City)」を国家の都市計画の公式な基本方針として採用しました。

  • 背景

    • グレーインフラの限界と都市型水害:近代の都市開発は、コンクリートの堤防、アスファルトの舗装、地下の巨大な排水パイプというグレーインフラ(灰色のインフラ)によって、水を都市から素早く排除する(防ぐ)ことを目的としてきました。しかし、急激な都市化と気候変動によるゲリラ豪雨の前では、パイプの容量がすぐに限界を超え、北京や武漢などで壊滅的な都市洪水が頻発しました。

    • 水不足と生態系の破壊:コンクリートで地面を覆うと、雨水が地下に浸透しないため、地下水脈が枯渇し、都市の深刻な水不足や地盤沈下を引き起こします。俞孔堅は、人間は水と戦うのではなく、水と友達にならなければならないと主張し、農民が何千年も培ってきた段々畑やため池の知恵を現代の都市に取り戻そうとしました。

  • 構想の内容

    • 都市全体を巨大な海綿(スポンジ)のように機能させ、雨水を吸収し、蓄え、浸透させ、浄化し、利用するという自然に基づく解決策となります。

    • コンクリートの破壊と湿地の再生:川岸のコンクリート護岸を取り壊し、植物が密生する自然な湿地や水辺のテラス(段々畑状の空間)に作り変えます。大雨が降って川が氾濫しても、これらの湿地が一時的に水を貯める遊水地となり、都市の中枢への浸水を防ぎます。

    • 雨を資源に変えるバイオフィルター:都市に降った雨を地下の下水道に流すのではなく、植物を植えた窪地(バイオスウェル)や雨水ガーデンに導き、土と植物の根の力で濾過・浄化します。浄化された水は地下水を潤し、平時は美しい親水公園として市民の憩いの場となります。

    • レジリエンス(回復力)と適応:水害を完全にゼロにするという傲慢な考えを捨て、ある程度水に浸かることを前提(許容)とした公園や歩道を設計します。水が引けばすぐに元の公園に戻る、しなやかで回復力のあるインフラ設計です。

ハルビン群力国家都市湿地公園(Qunli Stormwater Park)。都市の真ん中に残された湿地をスポンジとして再生した、初期の代表作です。(Harbin Qunli Stormwater Park, n.d.)
三亜マングローブ公園(Sanya Mangrove Park)。コンクリートの壁を撤去し、海水の満ち引きに合わせてマングローブの生態系を回復させています。(Jinhua Mei Garden, n.d.)

Kate Orff(ケイト・オルフ、SCAPE 創設者)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 気候変動や海面上昇に対するニューヨーク市の適応戦略をテーマにした2010年の展覧会「Rising Currents(ライジング・カレンツ)」にて公開されました。

  • 背景

    • かつてニューヨーク港の約4分の1は広大なカキ礁(カキの生息地)に覆われており、カキは屋台で売られるほど身近な存在でした。しかし、産業発展に伴う深刻な水質汚染と乱獲により、その生態系は20世紀後半までにほぼ消滅してしまいました。

    • 気候変動による海面上昇や、ハリケーンなどによる高潮被害の脅威が増す中で、コンクリートの巨大な防潮堤のような人工物だけに頼るのではなく、自然の生態系を利用して都市のレジリエンス(回復力・防災力)を高める新たなアプローチが求められていました。

  • 構想の内容

    • Oyster(カキ)とArchitecture(建築)を掛け合わせた造語で、カキの生態系を都市の生きたインフラ(自然インフラ)として活用する画期的なプロジェクトです。

    • カキは1個あたり1日に最大50ガロン(約190リットル)の海水を濾過する能力を持っています。この生物学的なフィルター機能を活用し、汚染された港の水を自然の力で浄化します。

    • ファジーロープ(毛羽立ったロープ)を網状に編み込んだインフラストラクチャーを海中に設置し、そこに数百万のカキやムール貝を定着・繁殖させます。成長して立体的になったカキ礁が天然の防波堤として機能し、高潮や荒波の勢いを和らげて沿岸部を水害から守ります。

    • 形成されたカキ礁が他の海洋生物の豊かな生息地となり、生態系が蘇ります。水質が改善されることで、市民が水辺の自然と再び結びつくことができる新しいウォーターフロント空間(水上公園)を創出します。


カキの生態系を都市の自然のインフラとして活用します。(Oyster-Tecture, 2016)

土木技術者・官僚

土木技術者や行政の官僚(都市計画局などの公務員)は、コンクリートで自然をねじ伏せるアプローチから、データ空間への拡張や自然との共生へと大きくパラダイムシフトしています。

Henk Ovink(ヘンク・オーヴィンク、オランダ初代・国際水問題担当特使)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2006年に詳細な計画が開始され、2007年にオランダ政府の国家プロジェクトとして正式に承認・開始されました。

  • 背景

    • オランダは国土の多くが海抜以下にあり、歴史的に堤防を高く構築することで水害を防いできました。しかし、1993年と1995年に大規模な河川の氾濫危機が発生し、約25万人の住民と100万頭の家畜が避難を余儀なくされました。この出来事により、自然(水)をコンクリートの壁で完全にコントロールすることは不可能であり、気候変動に伴う降雨量の増加に対応するには、堤防を高くし続ける従来の手法には限界があるという認識が広がりました。

  • 構想の内容

    • 水を力で封じ込めるのではなく、”川が氾濫するための空間をあらかじめ確保し、自然と共生する”というパラダイムシフトです。

    • 堤防の後退(セットバック): 堤防を川から離れた場所に移動させ、川幅を広げる。

    • 氾濫原の掘削: 川の周辺の土地(氾濫原)を深く掘り下げて、増水時に水を貯められる容量を増やす。

    • バイパス(副水路)の建設: 洪水を迂回させるグリーンリバー(緑の川)と呼ばれる新たな水路を設ける。

    • 空間の質の向上: 単なる防災インフラではなく、確保した川の空間を平常時には自然保護区、農地、公園、レクリエーション施設として活用し、地域の魅力(空間の質)を高めるようデザインされています。

河川の整備前の画像。
河川の整備後の画像。川幅を拡幅し、自然豊かな景観を創出しています。([No Title], n.d.)

Cheong Koon Hean(チョン・クーン・ヒアン、シンガポール都市再開発庁・住宅開発庁元長官・都市計画家)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2019年に、シンガポール都市再開発庁(URA)のマスタープラン2019の一部として正式に発表されました。

  • 背景

    • シンガポールは人口増加や経済発展に伴う「深刻な土地不足」という慢性的な課題を抱えています。海岸の埋め立てや建物の高層化には限界があるため、都市インフラを地下へ移管することで、地表のスペースを住宅、公園、商業施設など人々の生活を豊かにするための空間として確保する必要がありました。

  • 構想の内容

    • 地下空間を効率的かつ統合的に活用するため、シンガポールの地下を3Dで詳細にマッピングし、将来の用途を計画する世界でも先進的なマスタープランです。

    • 当初はマリーナベイ、ジュロン・イノベーション地区、プンゴル・デジタル地区などの主要エリアから策定されました。

    • 地下鉄(MRT)や地下歩行者道だけでなく、地域冷房システム、電力・通信ケーブルの共同溝、深層トンネル下水道システム(DTSS)、さらには石油などの液体備蓄のための巨大な地下岩盤空洞まで、多岐にわたる都市機能が地層レベルごとに立体的に計画・配置されています。

実際の地下3Dマップの仕組み。(Underground Space, n.d.)

社会学者・生物学者・経済学者

社会学者、生物学者、経済学者たちは、都市を人間関係のネットワーク、自然環境の一部、資源と富の循環システムとして捉え、近年、彼らが提示する未来の都市や生活の構想は、世界のテクノロジー企業や行政のマスタープランに多大な影響を与えています。

Kate Raworth(ケイト・ラワース、経済学者)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2012年に、国際NGOオックスファム(Oxfam)のレポート「A Safe and Just Space for Humanity(人類のための安全で公正な空間)」の中で初めてその概念が発表されました。

    • その後、構想をさらに深めた著書『Doughnut Economics: Seven Ways to Think Like a 21st-Century Economist』が2017年に出版され、世界的なムーブメントを引き起こしました。

  • 背景

    • 終わりのないGDP成長への疑義: 従来の経済学は、GDP(国内総生産)が永遠に右肩上がりで成長し続けることを前提とし、それを至上命題としてきました。しかし、ラワースはこれを地球という有限のシステムを無視した不条理な目標であると指摘しました。

    • 環境破壊と格差の同時進行: 2008年の世界金融危機や、深刻化する気候変動、生物多様性の喪失、そして広がる一方の貧富の格差を目の当たりにし、20世紀型の経済モデルが機能不全に陥っていることが明らかになりました。

    • 新しい羅針盤の必要性: 人類が生き残るためには、単にお金を稼ぐことではなく、誰も取り残さず、かつ地球のシステムを破壊しないという、21世紀にふさわしい新しい経済のコンパス(目標)が必要とされたことが背景にあります。

  • 構想の内容

    • 経済の目標を”成長”から”繁栄(環境の範囲内で豊かに暮らすこと)”へと転換する、ドーナツ型の視覚的なフレームワークです。

    • 内側の円(社会的基盤): 水、食料、健康、教育、住宅、ジェンダー平等など、国連のSDGs(持続可能な開発目標)に基づく人類の基礎的なニーズを表します。この円より内側(ドーナツの穴の部分)に落ち込むことは、貧困や飢餓、不平等といった人権の不足を意味します。

    • 外側の円(環境的上限): 気候変動、海洋酸性化、淡水の枯渇、オゾン層の破壊など、地球環境を維持するためのプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を表します。この円より外側にはみ出すことは、地球環境の「過剰な破壊」を意味します。

    • ドーナツの実の部分(安全で公正な空間): 人々の基礎的なニーズを満たす「内側の円」と、地球の限界を示した「外側の円」。この2つの円に挟まれたドーナツの生地(実)の部分こそが、人類が目指すべき安全で公正な空間(スウィートスポット)であると定義しています。

    • 経済を再生型(環境を回復させる)かつ分配型(富や機会を分け合う)にデザインし直すことを提唱しています。

ドーナツモデル(Fanning & Raworth, 2025; What Is the Doughnut?, n.d.)

Jeremy Rifkin(ジェレミー・リフキン、経済社会学者)

  • 構想名

    • The Zero Marginal Cost Society (限界費用ゼロ社会)(Rifkin, 2014)

  • 発表時期

    • 2014年に著書”The Zero Marginal Cost Society”にて発表されました。

  • 背景

    • 資本主義市場における熾烈な競争の帰結です。企業は利益を最大化するために極限まで生産性を高め、テクノロジーを進化させました。その結果、IoT(モノのインターネット)や再生可能エネルギーなどが普及し、「追加で1つのモノやサービスを生み出すコスト(限界費用)」が限りなくゼロに近づくというパラドックスに到達したことが背景にあります。

  • 構想の内容

    • 情報だけでなく、エネルギーや物理的なモノまでもがほぼ無料に近いコストで生産・共有できるようになる社会です。人々は単なる消費者から、自ら生産も行う「プロシューマー(生産消費者)」へと変化します。従来の利益追求型の資本主義経済から、オープンソースやシェアリングエコノミーを基盤とする「協同型コモンズ(Collaborative Commons)」という新しい経済システムへの移行を予見しています。

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リフキン本人が第三次産業革命と限界費用ゼロ社会のビジョンを語る長編ドキュメンタリー動画です。

Edward Glaeser(エドワード・グレイサー、都市経済学者)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2011年に、著書『Triumph of the City: How Our Greatest Invention Makes Us Richer, Smarter, Greener, Healthier, and Happier』の出版によって広く一般に発表されました。

  • 背景

    • 郊外化(スプロール現象)への危機感: アメリカをはじめとする多くの国で、人々が広大な土地を求めて郊外へ移り住む郊外化が進みました。しかし、これは自動車移動への過度な依存を招き、結果として1人あたりのエネルギー消費量や温室効果ガスの排出量を激増させる原因となっていました。

    • 自然の中での暮らし=環境に優しい、という誤解: 多くの人は、緑豊かな郊外に住む方がエコであると信じていました。しかしグレイサーは、広大な家屋を冷暖房し、長距離を車で移動する郊外のライフスタイルこそが環境破壊の元凶であると指摘しました。

    • 厳格な建築規制(ゾーニング)による住宅価格の高騰: ニューヨークやサンフランシスコ、パリなどの歴史的な大都市において、景観保護や日照権などを理由とした厳しい高さ制限や建築規制(NIMBY:Not In My Back Yard運動など)が敷かれた結果、住宅供給が追いつかず、家賃が高騰して中間層や若者が締め出されている現状がありました。

  • 構想の内容

    • 都市の徹底的な高密度化(超高層化)こそが、経済的繁栄、環境保護、そして社会的な平等を同時に達成するための最良の手段であるという主張です。

    • イノベーションと経済成長のエンジン: 人間が高密度で集まる(物理的に近い距離にいる)ことで、偶然の出会いやアイデアの共有(知識のスピルオーバー)が生まれやすくなり、イノベーションや生産性が飛躍的に高まります。

    • 真のエコ(環境保護)は高密度都市にある: 人口をコンパクトな高層ビルに集約し、公共交通機関で移動したり徒歩で生活できる高密度な都市こそが、一人あたりの二酸化炭素排出量やエネルギー消費量を劇的に抑えることができる最も環境に優しい空間(グリーン・シティ)であると論じています。

    • 建築規制の撤廃と「上への拡張」: 住宅価格を下げ、あらゆる階層の人々が都市の恩恵を受けられるようにするためには、歴史的建造物の過剰な保存や厳格な高さ制限を緩和し、市場の需要に合わせて自由に超高層ビルを建設(上に向かって都市を成長)させるべきだと主張しています。

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Triumph of the Cityというテーマでのプレゼンテーション

Janine Benyus(ジャニン・ベニュス、生物学者)

  • 構想名

    • Biomimicry(バイオミミクリー)

  • 発表時期

    • 1997年に出版された画期的な著書『Biomimicry: Innovation Inspired by Nature』によって、「バイオミミクリー」という概念そのものが世界中に広く認知されました。

  • 背景

    • 自然界の生物や生態系は、地球上で38億年もの間、過酷な環境を生き抜き、適応してきた「究極のエンジニア」です。彼らは化石燃料を使わず、廃棄物を汚染物質にせず(誰かの廃棄物は別の生物の栄養になる)、太陽光をエネルギーに変えて持続可能なシステムを築いています。ベニュスは、人類が抱える設計の課題は、すでに自然界が解決済みであると考えました。

    • 形態からシステムへの模倣の進化: 当初、バイオミミクリーはマジックテープ(ひっつき虫の模倣)や新幹線の先端形状(カワセミの嘴の模倣)など、個別の「プロダクト(モノ)」の設計に用いられていました。しかし、気候変動や都市の環境負荷が深刻化する中で、部分的な解決策だけでは不十分であり、都市という巨大なシステム全体を「森や生態系のように機能させる」ことへの必要性が高まりました。

  • 構想の内容

    • 都市やインフラを設計する際、自然界の形状やプロセスだけでなく、生態系そのものの機能と振る舞いを模倣するアプローチです。

    • Ecological Performance Standards(生態学的パフォーマンス基準): 都市が建設される前にそこにあった「本来の自然生態系(原生林など)」が、どれだけの炭素を吸収し、雨水を浄化・貯留し、空気をきれいにし、周囲を冷却し、土壌を豊かにしていたかを計測します。そして、新しくつくる都市や建築物が、その原生の自然と同等かそれ以上の生態系サービス(機能)を提供することを具体的な設計の数値目標として設定します。

    • Generous Cities(寛容な都市 / 与える都市): 従来の環境負荷をゼロにする(マイナスを減らす)という防戦の目標から一歩踏み込み、周囲の環境を修復し、自然や地域社会にプラスの恩恵を与えるリジェネラティブ(再生型)な都市を目指します。例えば、雨水を浄化して川に戻すビル、周囲の空気よりきれいな空気を排出するインフラ、鳥や昆虫の生息地となる建築などがこれに当たります。


樹木の最適化された生態は、サステイナブルな都市の人々の暮らしにも示唆がある。このような生態を模倣していく。 (Genius of Biome: California Coast Design Research Project, n.d.)
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TED Talkでのプレゼンテーション

ジャーナリスト・市民活動家

近年、ジャーナリストや市民活動家、あるいは都市社会学者たちのアプローチは、どのような建物を建てるかではなく、そこで人々がどう生きるかというソフトウェアやルールの再定義に重点を置いています。

Leslie Kern(レスリー・カーン、フェミニスト地理学者)

  • 構想名

    • Feminist City(フェミニスト・シティ)(Kern, 2021)

  • 発表時期

    • 2019年にカナダで出版された著書『Feminist City: Claiming Space in a Man-Made World』によって広く世界に知られるようになりました。

  • 背景

    • 男性中心の都市計画への偏り: これまでの近代都市は、主に健常で、異性愛者の、白人の、シスジェンダーの男性(特に一家の稼ぎ手)を標準的なユーザーとして設計されてきました。都市計画家や建築家など、意思決定層の多くが男性であったため、都市は石とコンクリートで刻まれた家父長制になっているとカーンは指摘しました。

    • ケア労働の不可視化: 従来の都市は、郊外の家から都心の職場へ一直線に通勤することを前提に交通網が作られています。しかし、女性が多く担ってきた、子どもを保育園に預け、出勤し、帰りにスーパーで買い物をして、親の介護に寄るといった複雑な移動(トリップ・チェーン)には非常に不便にできています。

    • 自由と恐怖のジレンマ: 都市は女性に経済的自立や匿名の自由を与えた一方で、夜道の暗さや公共空間でのハラスメントなど、常に恐怖や危険の回避と隣り合わせの生活を強いているという現実がありました。

  • 構想の内容

    • フェミニスト・シティは、単に女性だけを優遇する街ではありません。ジェンダー、人種、階級、障害の有無などの交差性(インターセクショナリティ)を考慮し、あらゆる周縁化された人々が安全で快適に暮らせる都市を目指すアプローチです。

    • 生産からケアへの転換: 経済活動(仕事)を中心に設計された都市から、育児、介護、食事、休息といったケアを中心に据えた都市への転換を提唱しています。例えば、ベビーカーや車椅子がスムーズに乗れる公共交通機関、おむつ替えスペースや清潔な公衆トイレの拡充などです。

    • 用途地域の混合(ゾーニングの緩和): 住宅街、商業街、ビジネス街を明確に分ける従来のゾーニングは、ケアを担う人々を孤立させ、移動の負担を増やします。生活に必要な機能が徒歩圏内に混ざり合った多機能で歩きやすいコミュニティを推奨しています。

    • 意思決定プロセスの多様化: 最も重要な点として、都市の設計や意思決定の場(行政、建築、都市計画)に、女性やマイノリティ、障害を持つ人々を積極的に参画させ、それらの人々の日常のリアルな経験をインフラのデザインに反映させることを求めています。

David Owen(デビッド・オーウェン、ジャーナリスト)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2004年に雑誌The New Yorkerのエッセイ「Green Manhattan(グリーン・マンハッタン)」として初めて発表されました。

    • その後、この論考をさらに拡張した著書『Green Metropolis: Why Living Smaller, Living Closer, and Driving Less are the Keys to Sustainability』が2009年に出版されました。

  • 背景

    • 田舎暮らし=エコという幻想の打破: 多くの人は緑豊かな郊外で、庭のある家に住むことが環境に優しい(エコである)と信じています。しかしオーウェン自身がニューヨークから自然豊かなコネチカット州の郊外に引っ越した際、車なしではどこにも行けず、結果としてエネルギー消費量と二酸化炭素排出量が激増したことに気づきました。

    • マンハッタンのパラドックス: コンクリートジャングルと揶揄されるニューヨークのマンハッタンの住民こそが、実はアメリカで最も一人あたりの温室効果ガス排出量が少なく、エネルギー消費量が少ないという逆説的な事実を発見したことが、この構想の強い動機となっています。

  • 構想の内容

    • 真の持続可能性は、森の中のソーラーパネル付きエコハウスにあるのではなく、マンハッタンのような極端な高密度都市にこそあるという主張です。

    • 車の排除と歩行可能性: 人口が極度に密集している都市では、自動車の所有が物理的・経済的に困難になります。代わりに人々は公共交通機関を利用し、あるいは徒歩や自転車で移動します。これが化石燃料の消費を劇的に抑えます。

    • 居住空間の縮小とエネルギー効率: マンハッタンの比較的小さなアパートメントは、郊外の巨大な一軒家に比べて冷暖房に必要なエネルギーが少なくて済みます。さらに、上下左右を隣人に囲まれている(壁や床を共有している)ため、断熱効率が非常に高くなります。

    • インフラの集約: 道路、水道、電気、配送などのインフラやサービスは、人々が密集しているほど一人当たりのコストと環境負荷が低くなります。オーウェンは、自然を守りたいのであれば、人間を自然から遠ざけ、コンパクトなコンクリートの都市に押し込めるべきだと結論づけています。

構想の出発点となった有名なエッセイの原文(Owen, 2004)

Carlos Moreno(カルロス・モレノ、大学教授・都市計画アドバイザー)

  • 構想名

    • 15-Minute City(15分都市)

  • 発表時期

    • 2016年にモレノ教授によって初めて提唱されました。

    • その後、2020年にパリ市長アンヌ・イダルゴが再選に向けたマニフェストの目玉としてこの構想を採用したこと、そして同年に発生した新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックによって、世界中の都市計画家や政治家から注目を集めるようになりました。

  • 背景

    • 長距離通勤と時間の貧困: 20世紀の近代都市計画は、モータリゼーション(車社会)を前提に、住む場所(郊外の住宅地)と働く場所(都心のビジネス街)などを遠く離れた場所に分離(ゾーニング)してきました。その結果、人々は毎日何時間も満員電車や渋滞の中で過ごすことになり、深刻な時間の貧困(Time Poverty)に陥っています。

    • 気候変動と脱炭素の急務: 車中心の移動は、莫大な二酸化炭素を排出し、大気汚染を引き起こします。気候変動を食い止めるためには、小手先のEV化だけでなく、そもそも長距離移動を必要としない都市構造への抜本的な転換が求められていました。

    • パンデミックによるライフスタイルの変化: コロナ禍によるロックダウンやリモートワークの普及により、人々は遠くの都心に行かなくなり、自分の住む地域の身近な生活圏(ローカル)で過ごす価値と、そのインフラの脆弱性を同時に再認識しました。

  • 構想の内容

    • 空間の効率性ではなく、時間の価値を軸に都市を再設計するクロノ・アーバニズム(時間の都市計画)というアプローチです。

    • 15分圏内ですべてが完結する生活: 自宅から「徒歩」または「自転車」で15分以内の距離で、都市生活に不可欠な6つの機能(住む、働く、買い物する、心身をケアする、学ぶ、楽しむ)のすべてにアクセスできる、人間中心の生活圏を作ります。

    • 多極分散型都市(ポリセントリック・シティ): 巨大な1つの都心にすべての機能が集中するのではなく、都市全体に小さな中心をいくつも作り、どこに住んでいても豊かで便利な暮らしができるようにします。

    • 空間の多目的利用(マルチユース): 新しく建物を建てるのではなく、既存の建物を時間帯によって使い分けます。モレノは学校を地域の首都にすると表現しており、平日の昼間は子どもたちの教育の場である学校を、夜間や週末は地域住民の文化センター、スポーツ施設、避難所として開放するなど、空間の稼働率を最大化することを提案しています。

パリで導入される15分都市のアイデア(Crook, 2021)
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TED Talkでのカルロス・モレノのプレゼンテーション

教育機関・芸術機関

マサチューセッツ工科大学メディアラボ City Scienceグループ

  • 構想名

    • アルゴリズムによる超地域密着型都市と変形する建築

  • 発表時期

    • 2012年に、Kent Larson教授がTED Talkでこのビジョン(都市のスマート化と極小空間の活用)をプレゼンテーションしたことで世界的な注目を集めました。その後、2014年に変形する建築(CityHome)のプロトタイプが完成し、2015年にはその技術を商業化するスピンオフ企業Ori Livingが設立されています。

  • 背景

    • 急激な都市化とスペースの枯渇: 2050年までに世界の人口増加の大部分が都市部で起こると予測されています。しかし、ニューヨークや東京などの巨大都市ではすでに深刻な土地不足と家賃の高騰が起きており、若者やクリエイター、エッセンシャルワーカーが都心に住めなくなっています。

    • 旧態依然とした都市計画の限界: 従来の都市計画は、少数の専門家がトップダウンで図面を引き、完了までに何年もかかるものでした。そこには、交通、エネルギー、日照、人々の動きといった複雑なデータをリアルタイムで統合・シミュレーションし、市民の意見を素早く反映させる仕組みが欠けていました。

    • 職住近接の必要性: 車中心の都市から脱却し、人々が徒歩や自転車の範囲(超地域密着=ハイパーローカル)で生活のすべてを完結できる、多様でコンパクトなコミュニティを作る必要性が高まっていました。

  • 構想の内容

    • この構想は、都市のデータ化・アルゴリズム化(マクロ)と物理空間の拡張(ミクロ)という2つのアプローチで構成されています。

    • アルゴリズムによる超地域密着型都市(CityScope):CityScope(シティスコープ)と呼ばれる、アルゴリズムと拡張現実(AR)を活用したインタラクティブな都市シミュレーションプラットフォームです。レゴブロックで作られた都市模型を動かすと、背後でアルゴリズムが即座に計算を行い、「ここに高層ビルを建てたら交通渋滞はどうなるか」「日照や風通し、エネルギー消費はどう変化するか」といった予測を、テーブル上の模型にプロジェクションマッピングでリアルタイムに可視化します。これにより、データに基づいた超地域密着型(ハイパーローカル)な都市の再構築を、専門家と市民がテーブルを囲んでゲームのようにシミュレーションできるようになります。

    • 変形する建築(CityHome / Ori):都心の狭いアパート(ワンルームなど)に、ロボティクス技術を使って「2倍から3倍の広さ」の機能を持たせる構想です。壁や家具(ベッド、クローゼット、デスクなど)が一体化したモジュールユニットがモーターで部屋の中をスライドし、ボタン一つ(あるいはAIへの音声指示)で、空間を寝室から広々としたリビングや仕事部屋へと瞬時に変形させます。限られた空間の稼働率を極限まで高めるアプローチです。


レゴブロックとARを使った都市計画のシミュレーションができる(CityScope Volpe, n.d.)
Ori Living。現在実際に販売・導入されているロボット家具・変形する部屋。(Ori Expandable Apartments, n.d.)

チューリッヒ工科大学 NCCR Digital Fabrication

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2014年から2015年にかけて、NCCR Digital Fabricationの設立に伴いIn situ Fabricatorの初期プロトタイプとその構想が広く発表されました。

    • その後、この技術が実際に建築物としてフルスケールで実装・証明されたのが、2017年に着工し2019年に完成した実証実験住宅”DFAB HOUSE”でのプロジェクトです。

  • 背景

    • 工場と現場の大きな壁: 従来の建築におけるデジタルファブリケーション(ロボットアームや3Dプリンター)のほとんどは、環境が完全にコントロールされた工場の中(プレファブ生産)で行われていました。それを現場に持ち込んで組み立てるのが限界でした。

    • 建設現場特有のカオス: 実際の建設現場は、地面がデコボコで、常に状況が変化し、図面通りのミリ単位の精度が確保しにくい非構造化された(予測不能な)環境です。従来のロボットは、決められたレールの上や固定された場所でしか正確に動けないため、現場で作業することは不可能とされていました。

    • 究極の目標であるデジタルから物理への直接変換: 複雑なデジタル設計データを、外部の測量機器や人間の介入なしに、ロボット自身が現場の状況を判断しながら、その場(In situ)で直接実体化させる技術が強く求められていました。

  • 構想の内容

    • In situ Fabricator(IF)と呼ばれる、自律移動型の建設ロボットを中心とした現場施工のシステムです。

    • 自己位置の推定と自律移動(コンテクスト・アウェア):ロボットの足回りはキャタピラになっており、障害物の多い現場を自由に走行できます。最大の特徴は、外部からのGPSやトラッキングカメラに頼らず、ロボット自身に搭載されたレーザースキャナーなどのセンサーを使って「自分が現場のどこにいるか」を正確に把握(ローカライゼーション)できる点です。

    • 図面と現場の誤差の自動補正:建設途中の現場の状況をリアルタイムでスキャンし、コンピュータ上の3D設計データと照らし合わせます。もし現場の床がわずかに傾いていたり、事前の施工に数ミリのズレがあったりしても、ロボット自身のアルゴリズムが自動的に計算を修正し、完璧な位置にアームを動かして作業を行います。

    • Mesh Mould(メッシュ・モールド)工法の実装:このロボットがDFAB HOUSEで実際に成し遂げたのが、「Mesh Mould」という画期的な壁の施工です。ロボットが現場で鉄線をミリ単位の精度で曲げ、溶接し、複雑に湾曲した立体的な金網(3Dメッシュ)を自動で編み上げます。この金網が、コンクリートの型枠と鉄筋(構造補強)の両方の役割を果たすため、大量の木材廃棄物となる従来の型枠を一切使わずに、自由な曲面のコンクリート壁をその場で造り上げることができます。

ロボットが施工する様子(IN SITU FABRICATOR, n.d.)
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ロボットが自律的に鉄線を掴み、溶接して壁を構築していく実際の動作風景を収めた動画

起業家・経営者・企業

Marc Lore(マーク・ロア、元Walmart eコマース責任者・連続起業家)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2021年9月に、公式サイトおよび各種メディアを通じて大々的に発表されました。(第一段階として、2030年までに5万人が居住する初期フェーズを完成させ、最終的には2050年までに500万人が住む巨大都市を目指すと宣言しています。)

  • 背景

    • 資本主義の限界と格差への強い危機感: ロアは自身がビジネスで大成功を収める一方で、現在のアメリカ社会(および資本主義)が抱える深刻な富の不平等や分断に強い懸念を抱いていました。

    • ヘンリー・ジョージの経済理論(ジョージズム): 彼は19世紀のアメリカの経済学者ヘンリー・ジョージの思想に強く影響を受けました。都市が発展して地価が上がると、その利益は一部の土地所有者(地主)だけを大富豪にしてしまいます。ロアは「もし、都市の土地を最初からコミュニティ全体で共有していたら、地価の上昇による莫大な富を、市民全員の医療や教育、住宅インフラに還元できるのではないか」と考えました。

    • 「エクイティズム(Equitism)」の提唱: 資本主義(Capitalism)でも社会主義(Socialism)でもない、公平性(Equity)を基盤とした新しい社会経済モデル「エクイティズム」を実験・証明するための真っ白なキャンバスとして、何もない場所にゼロから都市を創る必要がありました。

  • 構想の内容

    • 砂漠などの未開拓地(ネバダ州、ユタ州、アリゾナ州などが候補)に、最先端の環境技術と新しい経済モデルを融合させた都市を建設します。

    • コミュニティによる土地の所有(基金の設立): テローザの土地は私有されず、都市の「基金(Endowment)」が所有します。人々は家や建物を所有・売買できますが、土地はリース契約となります。都市が発展して土地の価値が上がると、その収益は基金に入り、最高水準の教育、医療、交通機関が市民に、平等かつ無料(または低価格)で提供されます。

    • 15分都市(15-Minute City)の実装: カルロス・モレノの構想を物理的に実装します。職場、学校、病院、生活必需品など、生活に必要なすべての要素が自宅から徒歩、自転車、または自動運転の公共交通機関で15分以内にアクセスできるように設計されます。

    • 環境との共生と最新テクノロジー: 化石燃料で走る従来の自動車を排除し、自動運転車(スローモビリティ)や空飛ぶクルマ(eVTOL)を前提とした街路設計を行います。また、砂漠地帯での建設を想定しているため、水を極限まで再利用する高度なシステムや、100%再生可能エネルギーでの稼働を目指しています。

    • エキティズム・タワー(Equitism Tower): 都市の中心には、エキティズムの象徴となる巨大な展望タワーがそびえ立ち、そこには高架型の水耕栽培農場(エアロポニックス)などが組み込まれ、市民の食料を生産・供給する計画です。

緑豊かで未来的な都市のレンダリング(City of the Future, 2020)
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イメージ動画

Mohammed bin Salman Al Saud(ムハンマド・ビン・サルマーン、サウジアラビア皇太子・NEOMボード会長)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2021年1月に初期構想が発表され、翌2022年7月にその特徴的な「鏡張りの巨大な壁」という詳細なデザインが公開されました。

  • 背景

    • サウジ・ビジョン2030(脱石油依存): 化石燃料に依存した経済構造から脱却し、観光やテクノロジーを中心とした新しい産業基盤を創る国家戦略の目玉です。

    • スプロール現象(都市の平面的な広がり)の否定: 従来の都市は車を中心に平面的に広がって自然を破壊してきましたが、The Lineは都市のフットプリント(占有面積)を極限まで減らし、NEOMの自然の95%を保護するという理念を掲げています。

  • 構想の内容

    • Zero Gravity Urbanism(無重力都市計画): 全長170km、幅わずか200m、高さ500mという、砂漠を一直線に貫く巨大な鏡張りの壁の内部に都市を構築します。

    • 完全な歩行者空間と超高速交通: 自動車や道路は一切存在せず、100%再生可能エネルギーで稼働します。すべての生活必需サービスに徒歩5分以内でアクセスでき、地下を走る超高速鉄道を使えば、170kmの端から端までわずか20分で移動できるとされています。

    • 当初は2030年までに150万人が住む計画でしたが、莫大な建設費や技術的な壁から、直近の報道では、2030年までに完成するのは全長170kmのうちわずか2.4km程度にとどまり、計画が大幅に縮小されています。

砂漠を一直線に横断する巨大な鏡の壁が設置される (THE LINE: A Revolution in Urban Living, n.d.)
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The Lineのコンセプトを映像化している

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2021年11月に発表されました。

  • 背景

    • 世界の物流のハブ化: 計画地である紅海沿岸は、世界の貿易の約13%が通過するスエズ運河に近く、アジア・ヨーロッパ・アフリカを結ぶ絶好の地理的条件を備えています。The Lineが居住・商業の都市であるのに対し、OxagonはNEOMの経済を支える産業と物流の心臓部として構想されました。

    • 産業都市の再定義: 従来の工業地帯は汚染の象徴でしたが、第四次産業革命(IoTやAI、ロボティクス)とクリーンエネルギーを完全に統合した、環境を破壊しない次世代の製造・物流拠点が求められました。

  • 構想の内容

    • 海に浮かぶ八角形の巨大都市: 陸地から紅海に向かってせり出す八角形(オクタゴン)の形状をしており、その半分は海に浮かぶ浮体式構造物(フローティング・シティ)となる計画です。

    • 100%クリーンエネルギーと循環型経済: 世界最大のグリーン水素生産施設を備え、工場や港湾施設はすべて再生可能エネルギーで稼働します。廃棄物をゼロにするサーキュラーエコノミー(循環型経済)を基盤としています。

    • 完全自動化された次世代港湾: サプライチェーンはAIとロボットによって完全に自動化・統合され、港から工場、そして消費地までのシームレスな物流システムを構築します。

海に浮かぶ美しい八角形の都市構造や、自動化されたクリーンな港湾のコンセプト(Oxagon, n.d.)
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Oxagonの映像

豊田章男(トヨタ自動車 会長)

  • 構想名

    • Woven City(ウーブン・シティ)

  • 発表時期

    • 初期構想の発表: 2020年1月、アメリカのラスベガスで開催されたテクノロジー見本市CES 2020にて、当時の豊田章男社長によって大々的に発表されました。

    • 着工と街びらき(最新の状況): 2021年2月に着工(地鎮祭)し、2025年9月25日に第1期の「オフィシャルローンチ(街びらき)」を迎えました。 現在(2026年時点)は、トヨタ関係者とその家族など初期の住民(Weavers)が実際に生活を始めており、様々な企業や研究者(Inventors)による本格的な実証実験が日々行われています。

  • 背景

    • 自動車会社からモビリティカンパニーへの変革: トヨタは自らを単なるクルマを作る会社から、人々のあらゆる移動(モビリティ)を支える会社へと変化させようとしています。そのために、自動運転、ロボティクス、AI、スマートホームなどの先端技術を統合的に開発する場が必要でした。

    • 生きた実験室(Living Laboratory)の必要性: テストコースやコンピュータ上のシミュレーションだけでは、人々の予測不能な動きやリアルな生活のデータを得ることができません。実際に人が暮らす街という生きた環境の中でテクノロジーを試し、改善を繰り返す(アジャイル開発)ための実証実験都市として構想されました。

  • 構想の内容

    • 「Woven(織られた)」という名前の通り、トヨタの祖業である「自動織機」に由来し、道路やインフラが網の目のように織り込まれた都市設計が特徴です。

    • 網の目状に織り込まれた「3本+地下1本の道」:モビリティ専用の道: e-Paletteなどの完全自動運転車両が比較的高速で走る道。

    • 歩行者とパーソナルモビリティの道: 歩行者と、キックボードや自転車などの低速モビリティが共存する道。

    • 歩行者専用の道: 公園のような、人々が安全に散歩や交流を楽しむためのプロムナード。

    • 地下の道(物流網): モノの移動(自動配送システム)や、インフラ設備(電力、通信、水道)を地下空間に集約しています。

    • カーボンニュートラルなインフラ: 街の電力は、建物の屋根などに設置された太陽光発電と、水素燃料電池を組み合わせて供給されます。

    • 木造建築と伝統技術の融合: 建物は主にカーボンニュートラルな木材で作られ、日本の伝統的な木工の継手技法と、最新のロボットによる生産技術を組み合わせて建設されています。

    • トヨタだけでなく、ダイキン工業(空間制御の実証)、ダイドードリンコ(次世代自販機の実証)、日清食品など、多様な企業がインベンターズ(発明家)として参画し、業界の垣根を越えた新しいサービスの実証を行っています。

Toyota Woven City (People of Woven City, n.d.)
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Toyota Woven Cityの映像

馬化騰(テンセント 創業者兼CEO)

  • 構想名

    • Net City(ネット・シティ)

  • 発表時期

    • 2020年6月に、テンセントと設計を担当するアメリカの世界的建築設計事務所NBBJから正式なマスタープランが発表されました。同年後半に着工し、約7年をかけて段階的に完成させる計画で、最終的な街開きは2027年頃を見込んでいます。

  • 背景

    • 急激な成長と本社の分散: 中国最大のテック企業の一つであるテンセント(WeChatなどの運営元)は急激な成長により従業員数が膨大になり、深セン市内でオフィスが分散していました。これを統合するとともに、未来の働き方やライフスタイルを体現する巨大な新拠点(自社主導の都市)を建設する必要がありました。

    • 車中心の都市計画へのアンチテーゼ: 世界中の近代都市は「自動車」を最優先に設計されており、人間にとって安全で快適な空間が犠牲になっているという問題意識がありました。テンセントとNBBJは、従来のグリッド(格子)状の車道を中心とした都市計画を放棄し、インターネットの分散型ネットワークのように有機的で人間中心の都市を創り出そうと考えました。

  • 構想の内容

    • 深セン市の沿岸部の埋め立て地に建設される、広さ約200万平方メートル(東京ドーム約40個分、モナコ公国やNYマンハッタンのミッドタウンに匹敵する規模)の広大なスマートシティです。

    • 徹底した脱・自動車空間: 敷地内から一般の自動車をほぼ完全に排除します。移動手段を歩行者、自転車、公共交通機関(地下鉄やフェリー)、自動運転車のみに限定し、車による騒音や排気ガスのない、人間が主役となる安全なストリートを実現します。

    • 職住近接の生きたコミュニティ: 約8万人が活動するこの街は、単なる巨大なオフィス街(企業城下町)ではありません。オフィス、住宅(従業員用マンション)、学校、商業施設、スポーツ施設が機能的に混ざり合うミクストユースを採用し、24時間活気のあるエコシステムを形成します。

    • スポンジ・シティ(海綿都市)とサステナビリティ: 中国政府が推進する水害対策スポンジ・シティの理念を全面的に取り入れています。海岸沿いにマングローブの林を植え、街の至る所に湿地や緑の回廊(コモンズ)を配置することで、豪雨などの雨水を海綿のように自然の力で吸収・浄化・貯留します。また、屋上太陽光パネルや環境センサーを駆使し、持続可能で災害に強い都市を目指しています。

緑の回廊を行き交う人々、水辺の美しいレンダリング(Tencent Shenzhen Headquarters Project (Net City), n.d.)
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深圳で建設される建築物

Sidewalk Labs(Google / Alphabetグループ会社)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2017年10月に、カナダのトルドー首相やAlphabetのエリック・シュミット会長(当時)らが登壇する大々的な記者会見で発表されました。

    • しかし、住民からの猛烈な反対運動や新型コロナウイルスの影響を受け、2020年5月にプロジェクトの撤退が正式に発表されました。

  • 背景

    • インターネットから立ち上げる都市の実証: Google(Alphabet)は、サイバー空間で培ったデータ収集とアルゴリズムの力を物理的な都市空間に適用すれば、渋滞、環境問題、住宅価格の高騰といった現代の都市課題を解決できると考えました。その未来の都市のテストベッド(実験場)として選ばれたのが、トロントのオンタリオ湖畔にある未開発の工業地域(キーサイド)でした。

    • ウォーターフロントの再開発: トロント市側(開発公社ウォーターフロント・トロント)も、長年放置されていたこの地域を、世界を牽引するイノベーションとサステナビリティの拠点として再生させたいという強い思惑がありました。

  • 構想の内容

    • マスター・イノベーション・開発計画(MIDP)として発表されたその内容は、当時の最先端テクノロジーをすべて詰め込んだような夢の構想でした。

    • データ駆動型の都市管理: 街路の至る所にセンサーやカメラを設置し、人や車の動き、騒音、空気の汚れからゴミ箱の空き具合まで、あらゆる都市データをリアルタイムで収集・分析して街を最適化する計画でした。

    • 木造高層建築(マス・ティンバー)とモジュラー設計: コンクリートに代わり、環境負荷の低い新しい木材(マス・ティンバー)を使った高層ビル群を建設。また、六角形のモジュラー式舗装を採用し、用途に合わせて道路の幅や用途を簡単に組み替えられるダイナミック・ストリートを構想していました。

    • 気候への適応と地下インフラ: トロントの厳しい冬を快適に過ごせるよう、雪を溶かすロードヒーティング(温かい舗装)や、ビル風を防ぐ巨大なビル用レインコート(オーニング)を設置。さらに、ゴミの回収や貨物の配送はすべて地下の気送管(チューブ)システムや地下ロボットが行い、地上からゴミ収集車や配達トラックを排除する計画でした。

    • この構想は、「集められた膨大な市民のデータは誰のものか?」「Googleの利益のために市民が実験台にされるのではないか」というプライバシーやデータ主権に関する猛烈な反発(ブロック・サイドウォーク運動など)を招きました。

木造の巨大な建築群や、ビル風を防ぐテントのような構造物、モジュラー式の道路など(Wong & Jagdev, 2019)

Elon Musk(イーロン・マスク、SpaceX・Tesla・The Boring Company CEO)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2016年9月、メキシコで開催された国際宇宙会議(IAC)にて、Interplanetary Transport System(惑星間輸送システム:現在のStarshipシステムの原型)として、火星に巨大な自給自足都市を建設する構想が初めて詳細に発表されました。

  • 背景

    • 人類の多惑星種(Multi-planetary species)化: マスクの根底にあるのは、人類の意識の光を守るという哲学的な使命感と強い危機感です。地球への巨大隕石の衝突、超巨大火山の大噴火、核戦争、あるいは気候変動といった存亡の危機(絶滅リスク)に対し、地球以外の惑星にバックアップを持つことで人類という種の生存確率を上げるという目的があります。

    • 金星は高温高圧で酸の雨が降り、月は資源に乏しく大気がありません。火星は地球に比較的環境が近く、極冠に大量の氷(水)が存在し、大気(二酸化炭素)があるため、現地で生命維持やロケット燃料の生成が可能だと判断されたためです。

  • 構想の内容

    • 巨大宇宙船Starshipによる大量輸送: 完全再使用型の巨大ロケットStarshipを建造し、1隻あたり約100人の乗客を乗せて火星へ向かいます。地球と火星が接近する約2年に1度のタイミングで、数千隻のフリート(艦隊)を一斉に打ち上げます。

    • 2050年までに100万人都市の建設: 初期はガラス張りのドーム型住居などを建設し、最終的には自立・自給自足が可能な100万人規模の巨大都市を目指しています。

    • ISRU(現地資源利用): 地球から燃料を運ぶのではなく、火星にある水(H2O)と二酸化炭素(CO2)から、サバティエ反応という化学プロセスを用いてメタン(CH4)と酸素(O2)を生成し、帰還用のロケット燃料を現地調達する計画です。

Starshipが火星に着陸している様子や、初期のコロニー(SpaceX, n.d.)
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構想が初めて明かされたプレゼンテーション

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2016年12月、マスクがロサンゼルスの酷い交通渋滞に巻き込まれている最中に「渋滞にはうんざりだ。トンネル掘削機を作って掘り始める」とツイートしたことが発端です。翌2017年に「The Boring Company(ボーリング・カンパニー)」が設立され、構想動画が公開されました。

  • 背景

    • 2D(平面)の道路ネットワークの限界: 現代の都市は、高層ビル群によって生活・居住空間が3D(立体)に拡張されています。しかし、移動手段である道路は地表という2D(平面)のままです。この次元の不一致が交通渋滞の根本原因であるとマスクは指摘しました。

    • 空より地下への拡張: 渋滞解決の手段として空飛ぶクルマもありますが、騒音問題、天候への依存、そして何より落下してくるリスク(安全性)があるため、都市の真ん中を飛ぶのには適さないと考えました。一方、地下であれば天候の影響を受けず、騒音もなく、階層(レイヤー)を数十層にも無限に増やせるため、渋滞を完全に解消できると判断しました。

  • 構想の内容

    • Loop(ループ)システム: 地下深くに網の目のようなトンネルを掘り、自動運転の電気自動車(Tesla車)を走らせるシステムです。(当初は車を台車(スケート)に乗せて運ぶ構想でしたが、現在はTesla車自体がトンネル内を自律走行するシンプルな形に落ち着いています)。

    • Point-to-Point(直行)移動: 従来の地下鉄(Subway)はすべての駅に停車しますが、Loopは本線と駅(ステーション)が枝分かれしているため、出発地から目的地まで最高時速240km(約150mph)でノンストップ移動が可能です。

    • 超低コスト・高速掘削: 従来のトンネル工事は莫大な費用と時間がかかります。The Boring Companyは、トンネルの直径をギリギリまで小さくし(換気が必要な排気ガスが出ないEV専用にするため)、掘削マシンの電動化や自動化によって、掘削コストと時間を従来の10分の1以下に削減することを目指しています。

    • ラスベガスのコンベンションセンター地下ですでにLVCC Loopが商用稼働しており、現在はラスベガス市街地全体や空港を結ぶ長大なVegas Loopの建設が実際に進んでいます。

ラスベガス全体を網羅する地下トンネルの路線図や計画(Vegas Loop, n.d.)

Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス、Amazon創業者・Blue Origin 創業者)

  • 構想名

  • 発表時期

    • 2019年5月9日、ワシントンD.C.で開催されたBlue Originのクローズドなメディアイベントにて、月着陸船Blue Moonの発表と同時に、人類の未来像としてこのオニール・シリンダーの構想が大々的にプレゼンテーションされました。

  • 背景

    • 地球の資源とエネルギーの限界: ベゾスは、地球が有限である以上、このまま人口とエネルギー消費が増え続ければ、やがて人類は「成長の停滞と資源の配給制」を受け入れるしかなくなると警告しています。人類が豊かに成長し続ける(太陽系に1兆人の人間が住む)ためには、地球外の無尽蔵な資源とエネルギー(太陽光)を活用するしかありません。

    • 地球を国立公園として保護する: 彼は地球を太陽系で最も素晴らしい宝石と呼んでいます。重工業や汚染を伴う産業をすべて宇宙のコロニーに移転させ、地球は人々が住み、学び、観光するための巨大な国立公園(あるいは美しい居住区)として保護するというのが彼の哲学です。

    • 恩師ジェラルド・オニールの影響: この構想のオリジナルは、1970年代にプリンストン大学の物理学者ジェラルド・K・オニール博士が提唱したものです。ベゾスは学生時代にプリンストン大学で直接オニールの授業を受けており、その時のビジョンを自らの莫大な資金で実現しようとしています。

  • 構想の内容

    • 別の惑星の過酷な地表に住むのではなく、地球と月の間などの宇宙空間に浮かぶ、巨大な回転する円筒形の人工都市(Manufactured Worlds)を建設します。

    • 人工重力と完璧な気候コントロール: 長さ数マイルにおよぶ巨大な円筒が回転することで、遠心力によって内壁に地球と同じ「1G」の人工重力を作り出します。内部は年間を通じてハワイのマウイ島の最高の天気に設定され、雨も嵐も地震も発生しません。

    • 多様なコロニーの設計: 各コロニーには100万人以上が居住可能です。地球の歴史的な都市(フィレンツェなど)を完全に再現したコロニーもあれば、農業専用、重工業専用のコロニーも作られます。また、円筒の中心軸付近は無重力(ゼロG)になるため、背中に羽をつけて空を飛んで遊べるレクリエーション専用のコロニーなど、目的に合わせて多様な世界をデザインできます。

    • 地球との近接性(日帰り旅行): マスクの火星移住に対し、ベゾスは火星への移住はエベレストの山頂に住むようなもので、遠くて過酷すぎると批判しています。オニール・シリンダーは地球のすぐそばに建設できるため、地球とコロニーの間を日帰り旅行で簡単に行き来できるコミュニティ圏を目指しています。

緑豊かで未来的な内部構造を描いた美しいコンセプトアート(Pownall, 2019)
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ベゾス自身のプレゼンテーション

Peter Thiel(ピーター・ティール、Palantir共同創業者・投資家)

  • 構想名

    • Seasteading(シーステディング:海上自治都市)(Home, n.d.)

  • 発表時期

    • 2008年に、経済学者ミルトン・フリードマンの孫であるパトリ・フリードマンがシーステディング研究所(The Seasteading Institute)を設立し、そこにピーター・ティールが初期投資(約50万ドル、後にさらに追加投資)を行ったことで本格的に始動しました。

    • その後、ティールが2009年に発表したエッセイ『リバタリアンの教育(The Education of a Libertarian)』の中で、政治システムから逃れるための新たなフロンティアとして海上都市を熱烈に支持したことで、世界的な注目を集めました。

  • 背景

    • 国家のスタートアップ化: ティールをはじめとするシリコンバレーの一部の人々は、既存の民主主義国家を革新が遅く、非効率な独裁的独占企業のように捉えています。彼らはテクノロジー企業のように、新しい法律や社会システムを実験できる政府のスタートアップを立ち上げる場所を求めていました。

    • フロンティアの喪失と海の可能性: 地球上の陸地はすべて既存の国家に分割・統治されており、自由に新しい国を創るスペースは残っていません。宇宙はまだ遠すぎるため、地球の表面積の70%を占め、どの国の法律も及ばない公海が、最も現実的で残されたフロンティアであると結論づけられました。

    • 競争的ガバナンス(Competitive Governance): 何千もの異なるルールを持つ海上都市が乱立すれば、人々は自分が最も好む法律や税制を持つ都市を自由に選ぶようになり、国家間で市民の獲得競争が起きて、結果的に統治システムが洗練されていくという経済学的な発想が根底にあります。

  • 構想の内容

    • 単なる海上の家ではなく、法的に独立した、あるいはホスト国から高度な自治権を与えられたモジュール式の浮体都市です。

    • モジュール式の動的な都市(Dynamic Geography):都市全体が、六角形や四角形の巨大な浮体モジュール(プラットフォーム)をパズルのように連結して作られます。もしある住民が、その都市の市長や法律、税率に不満を持った場合、自分の家(モジュール)の連結を解除し、ボートで牽引して別の法律を持つ隣の海上都市へ物理的に引っ越すことができます。

    • 持続可能な海上インフラ:太陽光や波力、海洋温度差発電(OTEC)でエネルギーを賄い、海水を淡水化し、海藻や魚の養殖(アクアカルチャー)で食料を確保する、完全な自給自足の循環型エコシステムを想定しています。

    • 公海上の荒波に耐える構造物の建設コストは天文学的であり、法的なハードル(公海であっても国際法や海賊の脅威がある)も極めて高いことが判明しました。ティール自身はその後「エンジニアリング的にまだ早すぎる」としてトーンダウンしましたが、シーステディング研究所は現在も活動を続けています。

海上都市のデザイン案(Home, n.d.)

おわりに

このように様々な世界を代表するリーダーのアイデアを記述しました。それぞれのバックグラウンドや職種によって、提言の傾向が見られ、主要なアプローチとしては次の4つに整理されます。

①環境共生型

  • アプローチ:自然と対立するのではなく、生態系のメカニズムを都市インフラとして活用・模倣する。

  • 該当する構想:海綿都市(スポンジ・シティ)、Oyster-tecture、バイオミミクリー、The Green Dipなど。

②人間中心型

  • アプローチ:経済成長至上主義や車社会を脱却し、人間の幸福、多様性、時間の価値、ケアを都市の中心に据える。

  • 該当する構想:ドーナツ経済学、15-Minute City、フェミニスト・シティ、限界費用ゼロ社会など。

③デジタル最適化型

  • アプローチ:テクノロジー、データ、アルゴリズムを駆使して空間とインフラの効率を極限まで高める。

  • 該当する構想:徹底した高密度化(Radical Densification)、地下空間マスタープラン、アルゴリズム都市(CityScope)、現場施工ロボット、Woven Cityなど。

④フロンティア開拓型

  • アプローチ:既存の都市や法規制のしがらみを捨て、新たなテクノロジーと新しいルール(経済・政治システム)をゼロから実装する。

  • 該当する構想:The Line、Telosa、火星コロニー、オニール・シリンダー、シーステディングなど。

結論として、人口が増え続ける一方で、地球上の資源は有限であり減少していることによって引き起こされる課題の解決にフォーカスする都市論が多く見られました。このような様々なアイデアを基に、実際に試行錯誤を繰り返しながら、最適な都市が将来的に実現していくでしょう。

参考文献