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2026.5.15Hiroki Yoda

AIの歴史とNeuro Symbolic AI

はじめに

この記事では、昨今注目されている新たなトレンドとしてNeuro Symbolic AI(以下NeSy AI)を紹介します。NeSy AIの解説を行う上で、AIの歴史に関しても触れておくと理解が深まると考えたので、それについても解説します。

AIの歴史

前史(前300年代)

推論、ひいては論理学という概念を初めて形式化した人物はいうまでもなくアリストテレスでしょう。ソクラテス、プラトンの概念論を発展させて論理学を始め様々な学問を発展させた彼は今日では「万学の祖」とよばれています。例えば、「三段論法」という概念はアリストテレスのオルガノンにより整備されました。アリストテレスの登場によって、人間の思考というものが初めて体系的に整備されたと言って良いでしょう。

コンピュータの登場とチューリングテスト(1940年〜1950年代)

この時代に我々が今日使用しているコンピュータと同様の、様々なアルゴリズムを実行できるコンピュータが登場します。理論的な部分で中心にいた代表人物としては、アラン・チューリング、ジョン・フォン・ノイマン等が挙げられるでしょう。コンピュータの登場により「機械は考えることができるか?」という問いに分野を問わず様々な研究者が考えを巡らせていくことになります。

チューリング自身も1950年の自身の論文において、この問いに対する一つのベンチマークとして「チューリングテスト」の概念を提唱します。ここでチューリングは「機械が考えることはできるか?」という問いを「機械は人間の思考と同等の結果を返すことができるか?」という問いに置き換えて、それをテストするための方法をチューリングテストとしてまとめました。

第一次AIブーム(1956年〜1970年代)

第一次AIブームの始まりとなったのは1956年のダートマス会議です。この会議において初めて人工知能(Artificial Intelligence)という言葉が使われ、以降1970年の初めまで最初のAIブームとして研究が進められていきます。この時期のAIの研究は探索アルゴリズムによる問題解決が主流でした。いくつかの成功例がありながらも(ラッセル・ホワイトヘッドのPrincipia Mathematicaの一部定理の証明など)解かなければいけない問題の複雑さに対して当時の計算機の性能は十分ではなく、実用化には至りませんでした。

第二次AIブーム(1980年代)

第二次AIブームは1980年代にやってきました。中心となった技術はエキスパートシステムです。これは人間の専門家のように、専門的な事前知識から問題の結論を論理的に推論するAIです。背景には、現代の論理学の研究成果として論理推論を記号操作(≒計算機が扱える対象)として扱う手法が発展していたことも関係しています。1972年に開発された論理プログラム言語Prologが一つの例です。

エキスパートシステムは医療分野など限られた場面では商業的な導入を達成したものの、現実のタスクの多くは事前知識の量が実質的に無限に存在する(いわゆるフレーム問題)ために実用化に至りませんでした。ここまでのAIに対するアプローチは、後述の第三次AIブームにおける大量データによる学習の手法と比較して、シンボリックAIなどとも呼ばれます。

第三次AIブーム(2010年代〜現在)

2012年のImageNet Large Scale Visual Recognition ChallengeにおけるGeoffrey Hinton率いるトロント大学チームのAlexNet、2016年のGoogle DeepMindのAlphaGoが火付け役となり、深層学習を用いた大量データによる学習が主流となりました。さらに2017年のGoogleチームのTransformerから続く、LLMによる確率的モデルによる言語処理AIへと発展しています。

NeSy AIは次の章で説明するように、これらの深層学習を基礎とする現代のAIと、それ以前のシンボリックAIを複合する新たなトレンドとして登場します。

Neuro Symbolic AIとは

シンボリックAIとの複合

NeSy AIはしばしば、認知科学における二重過程理論(Dual Process Theory)になぞらえた説明がされます。これは人間の認知が2つのシステムで構成されると仮定するものです。すなわち、人間の思考は高速で直感的かつ無意識的な「システム1」と、より低速で熟慮的かつ意識的であり、論理的推論や問題解決に焦点を当てた「システム2」に分かれるという主張です。

NeSy AIではAIによる推論を、1. 大量のデータを経験則的に学習するニューラルネットワークによる推論と、2. 決められた規則や事前知識から論理的推論を行うシンボリックな推論に分けて構築します。二重過程理論の言葉を使えば1.はシステム1にあたり、2.はシステム2に当たります。いうまでもなく1は深層学習を用いた推論にあたり、2はシンボリックAIを用いた推論になります。

説明可能なAIを目指して

従来のAIにシンボリック処理を加えるNeSyの利点に関しては様々な角度から研究されていますが、今回は特にAIの説明可能性についてお話しします。従来のAIの問題点として、出力が確率的に導かれるという性質ゆえに、その出力に関して明確な説明ができないという問題がありました。弊社の実体験としても、特にLLMにおいては、一定のルールをもとに推論を行うようなタスクにおいて精度に問題が出ることがありました。

NeSy AIは、システム2にあたるシンボリックな推論を包含する性質上、この問題を解決する技術として近年注目を浴びています。2025年開催の国際会議International Conference on Neurosymbolic Learning and Reasoningには、例えば「Explainable Zero-Shot Visual Question Answering via Logic-Based Reasoning」のような、説明可能性や論理推論に関連するタスクの研究報告があります。

法律、医療、金融など、AIの普及を促進する上で説明責任が伴う現実のタスクは数多く存在します。NeSy AIはこれらのタスクにおいても、有効な手段になる可能性がある技術として注目されています。

引用

  • Turing, A. M. (1950). Computing Machinery and Intelligence. Mind, 59(236), 433-460.

  • 鈴木貴之『人工知能の哲学入門』

  • 『岩波講座哲学〈第10〉論理』(1968年)

  • X.-W. Yang, J.-J. Shao, L.-Z. Guo, B.-W. Zhang, Z. Zhou, L.-H. Jia, W.-Z. Dai, and Y.-F. Li, "Neuro-Symbolic Artificial Intelligence: Towards Improving the Reasoning Abilities of Large Language Models," arXiv:2508.13678v1, 2025.

  • IBM「人工知能の歴史」 https://www.ibm.com/jp-ja/think/topics/history-of-artificial-intelligence

  • Thomas Eiter, Jan Hadl, Nelson Higuera Ruiz, Lukas Lange, Johannes Oetsch, Bileam Scheuvens, Jannik Strötgen, "Explainable Zero-Shot Visual Question Answering via Logic-Based Reasoning"